たばこの害
−それでもあなたはたばこを止めませんか−



 1998 年のWHO総会において、次期WHO事務総長Dr.Gro Harlem Bruntland は次のように述べ、喫煙に対して警鐘を鳴らしました。
「われわれは、劇的に増加している早死の主な原因に対し何らかの手をうたなければならない。その原因によって今年400 万人が命を奪われた。このまま我々が手をこまねいていると、2030 年には1000 万人が死亡することになるであろう。このうち半数は老年期ではなく中年期に死亡しているのである。この問題の主な舞台は、今、発展途上国に移りつつある。この早死の原因というのは、タバコのことである。」

 イギリスの医師を40年間追跡調査した報告でも、喫煙が死亡率を高くすることが証明されています。すなわち、喫煙者の中年期での死亡率は非喫煙者の約3倍であり、喫煙常習者の約半数がたばこに関係した病気で死亡しました。ただ禁煙すると死亡率の低下が認められ、たとえ中年期から禁煙した場合でも、平均寿命の大幅な改善が認められたそうです。


タバコの有害物質

 タバコの煙には4000種類の化学物質が含まれ、そのうち200種類以上がベンゾピレンのような発癌物質やタール、ニコチン、一酸化炭素、二酸化炭素といった有害物質です。

 生涯全くタバコを吸わなかった人と、長年多量のタバコを吸っていた人の肺は、下図のように明らかに異なってきます。

図1 66歳男性、60本/日を40年間

 

図2 70歳女性、生涯非喫煙者

 

タバコに関連した病気

1)心血管疾患


喫煙は心筋梗塞、脳卒中、突然死、末梢血管障害といった心血管疾患の発生率を高めることがわかっています。

 イギリスの医師の喫煙習慣に関わる死亡率を40 年追跡した前向き研究(prospective study )によると、喫煙者の約半数が喫煙のために早死しており、早死の半分は69 歳以前に生じていました。タバコの量が増えるとリスクも増大しています。

喫煙により増加した分の死因の中には、次のものが含まれます 。

●虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
●心筋変性
●大動脈瘤
●動脈硬化(下肢の動脈の慢性閉塞症等)
●脳血栓
●その他の脳血管障害

2)がん

 喫煙が肺がん(4.5倍)の原因になることは良く知られていますが、そのほかにも次のようながんの原因となるといわれています。

●喉頭がん(32.5倍)
●口腔・咽頭のがん(3.0倍)
●膀胱がん(1.6倍)
●食道がん(2.2倍)
●胃がん(1.4倍)
●膵がん(1.6倍)
●肝がん(3.1倍)

 喫煙開始年齢も重要です。喫煙開始時が若いほど肺がんにかかる危険が高くなります。そして、タバコ銘柄によるタール量の違いよりは、タバコの吸われ方のほうに意味があります。低タールタバコでも、より多くあるいは頻繁に吸っていれば、その有害さは、高タールタバコの喫煙と違いがなくなります。

3)がん以外の肺疾患

 喫煙によるがん以外の肺疾患で最も多いのは、慢性気管支炎と肺気腫を含む慢性閉塞性肺疾患
(COPD )です。

4)消化器疾患

 喫煙は食道や胃、膵臓、肝臓等の消化器にも悪影響を及ぼします。喫煙が原因の、あるいは影響を与える消化器疾患には次のようなものがあります。

●胃潰瘍
●十二指腸潰瘍
●膵炎
●肝炎
●歯周病(歯槽膿漏等)


受動喫煙のリスク

 他人のタバコの煙を吸い込むことを、受動喫煙と呼びますが、小児や慢性的にタバコの煙にさらされている人では時に重大な被害をもたらすことがわかっています。受動喫煙は、成人の慢性呼吸器疾患に罹患するリスクを25 %(10 〜43 %)、小児の急性呼吸器疾患に罹患するリスクを50 〜100 %も増加させます。また、受動喫煙により肺がんのリスクが高まるといわれています。

 さらに、母親の喫煙により、乳幼児突然死症候群(SID )のリスクが倍増します。このことに因果関係が存在することにほとんど疑う余地はなく、母親や父親のタバコの煙は乳児に深刻な害をもたらすのです。

 喫煙者の両親をもつ子供は呼吸器疾患にかかるリスクが高く、子どもの接する時間の長い母親の喫煙のほうが父親の喫煙より影響が大きいのは当然ですが、影響が小さい父親の喫煙でさえ、子供の呼吸器病発症のリスクを有意に増加させます。このような子供では、急性や慢性の中耳疾患のリスクも高くなります。


喫煙と生殖

 喫煙は自然流産のリスクを高めるといわれていますし、喫煙している母親からは未熟児や低出生体重児が生まれる危険が高くなります。たばこを吸う女性は吸わない女性に比べ、閉経が早くなる傾向にあり、顔色も悪く、小じわも増えるといわれています。男性では喫煙者のほうがインポテンスになるリスクが高く、禁煙により精液の質が改善するという報告もあります。


タバコとコスト

 1日2箱、1年間タバコを吸うと、(250円×2箱)×365日≒180,000円。10年間では何と180万円にもなります。さらにこれまで説明したような病気にかかったとしたら、その医療費が加算されますし、そのために早死にすると生涯に得られる収入も減額されることになります。

禁煙推進に関する日本医師会宣言

(禁煙日医宣言)

 

 喫煙は、がん・心臓病・肺気腫等の疾病の原因となるなど健康に悪影響を与えることが医学的にわかっている。また、受動喫煙についても健康被害があるとの研究結果が報告されている。

 

 日本医師会は、国民の健康を守るために、喫煙大国からの脱却をめざして、今後とも禁煙推進に向けて積極的に取り組んでいくこととし、ここに禁煙日医宣言を行う。

 

1. 我々は、医師及び医療関係者の禁煙を推進する。

2. 我々は、全国の病院・診療所及び医師会館の全館禁煙を推進する。

3. 我々は、医学生に対するたばこと健康についての教育をより一層充実させる。

4. 我々は、たばこの健康に及ぼす悪影響について、正しい知識を国民に普及啓発する。

   特に妊婦、未成年者に対しての喫煙防止を推進する。

5. 我々は、あらゆる受動喫煙による健康被害から非喫煙者を守る。

6. 我々は、たばこに依存性があることを踏まえて、禁煙希望者に対する医学的支援のより一層の充実を図る。

7. 我々は、禁煙を推進するための諸施策について、政府等関係各方面への働きかけを行う。