医療事故・医事紛争 対策マニュアル


         もくじ                ページ
1.はじめに                        2
2.郡市医師会の対応と担当理事の役割            4
3.医事紛争とは                      8
4.医療事故・医事紛争を起こさないための 12 章       9
5.医療事故発生時の対応について             11
6.県医師会の医事紛争対策システム            13
7.玖珂郡医師会 医事紛争時の対応の進め方        15
8.紛争発生から解決までのプロセス            16
9.診療録(カルテ)とその保存について          18
10.事故報告書記載上の留意事項              20
11.医療過誤・医事紛争についての参考図書         22
12.事故報告書様式                    23
13.あとがき                       28


 はじめに

 医師会の会員のほとんどは医療訴訟とは無縁であろうと思いますが、不可抗力の事故や、ちょっとしたケアレスミスを経験してない医師はむしろ少ないのではないでしょうか。
 小さな医療事故やミスであっても患者の治療経過や予後に影響を与えるようなものは、医師やコメディカル職員の対応如何によっては医事紛争となる種を宿しています。
 医療訴訟は年々増加しており、この背景には、第1に患者の権利意識の高まりがあげられます。その代表がinformed concentであり、文書による同意が求められることが多くなってきました。また、十分な説明をして患者に同意を得るだけでは不十分であり、カルテ上に記載していたかどうかが訴訟の際に問題となることもあります。
 また第2にマスコミ等による偏った医療情報の報道も医師に対する不信感を増幅しています。第3は医師間、医師とコメディカル間のコミュニケーション不足です。前医と後医の関係は特に重大です。前医での診断や治療に関する後医の批判や非難が医事紛争のきっかけとなることが少なくないと言われています。
 医事紛争・医療過誤とは
 医事紛争とは、医療事故に関連して患者側が医療関係者にクレームをつけることです。医療事故には医療関係者の過失によるものもありますが、不可抗力的な事故もあり、医療関係者の責任が問われないものもあります。
 一方、医療過誤とは医療事故を中心として、医事紛争が起こり、医師側に過失があった場合、医療過誤となるわけです。
 医療過誤は患者やその家族のみならず医療関係者をも不幸にします。医療事故を起さないよう常に注意をはらい、事故や過誤が起り得ないようなシステム作りが必要なことは言うまでもありませんが、万全を期しても起らない保証はどこにもありません。
 医事紛争に至るかどうかは、常日頃の患者とのコミュニケーションがうまくとれているかどうかにかかっているのではないでしょうか。患者と家族に真に納得のいく医療が行えるようにしたいものです。
最近の医療過誤の原因と考えられる因子として。
 1.診療録の不備
 2.医療知識・技術の未熟性・独善性
 3.薬剤の過誤使用
 4.チーム医療の未熟性
 5.意思の疎通性―インフォームド・コンセントの不足
 6.施設の診療能力の不足
 7.事故対応の未熟
 があげられています。

 今回、万一会員が医療事故や医事紛争に巻き込まれた場合に、きちんとした対応がとれるよう玖珂郡医師会として「医療事故・医事紛争対策のマニュアル」を作成しました。
 本冊子は平成6年に山口県医師会より発行され、当時担当理事に配られた「医事紛争対策のマニュアル」を中心に一部タイトルを変えて編集しています。このマニュアルは一般会員への配布はなかったと思いますので、改めて県医師会の許可を得てすべての会員の皆様にも配布することにしました。
 本冊子をお読みいただき、ケアレスミスによる医療事故をなくすための自院でのシステム作りと、万一医事紛争になったときの対応を十分心がけて戴きたいと思います。
 県の「医事紛争対策マニュアル」の中で前県医師会長の藤野先生が序文で書かれている言葉を引用します。
「残念ながら今日、その原因がどうであれ、医療事故事例は皆無ではありません。万一そのような事例に遭遇した場合、誠意をもって対処することを基本姿勢とすべきですが、大きな不安を抱える当事者会員にとっ
ては医師会が最大の拠り所となりましょう。
 本冊子が役立たなくて済みますよう、つまり、医事紛争が発生しないことを念願し、序といたします。」

              平成10年9月        玖珂郡医師会



 郡市医師会の対応と担当理事の役割

 医療は医学の社会的適応といわれております。医療を受ける側がいつでもどこでも最善の医療が公正に受けられることを願うのは当然のことです。そこで私たち医療担当者は、行政や保健所等と協力して、交通事故や労働災害などの救急医療から在宅医療にいたるまで、休日・夜間を含む終日的な地域医療システムを構築する必要があります。さらに極小(超)未熟児医療や火傷医療、手指接合医療などの特殊医療や三次救急救命医療など地域を越えた搬送システムを策定する必要があります。
 冒頭述べたように、医療はそれぞれ個々の身体に対して行われるものであり、同一の注射や治療を行っても、必ずしも同じ反応や結果が得られるとは限りません。
 最近のように医療が高度化し複雑化してくると、いくら適切な医療を行っても思いがけない結果や望まない結果が生ずる率が高くなってきます。
 患者側は医療行為の成否は別にして、結果が悪ければ医師に不信を抱きクレームをつけ、不満を漏らすことがしぱしばあります。一方、一所懸命診察治療に専念しても結果として患者が死亡したり、重い後遺症を残すような結果となった場合、担当医師は言い知れぬ苦悩を背負うことになります。
 この苦悩を当事者の会員と一緒になって医師会の立場から精神的にも経済的にも解消し、トラブルを解決していくのが担当理事の役目です。
 誰でも自分のトラブルは他人に知られたくないものです。秘密を守り公正な判断により自分のこととして適切にトラブルを解決して行く勇気が必要です。

A.会員への医療事故・医事紛争予防教育
 つぎに述べる各項目を中心として留意してください。
1.日進月歩の医学に対し常に研修を怠らず、医療水準の向上につとめる。
 またケアレスミスは絶対に起こさないようにする。
2.カルテは医師の医療行為を証明するものです。患者の主訴から始まって検査診断・治療、さらに患者への指導・説明についても適切に記入 しておく必要があります。
3.コメディカルに対する指示は慎重に繰り返し徹底させ、また、復唱させて医師自らも確認することが大切です。
4.医薬品は購入のたびに能書に眼を通し使用上の注意について確認することが大切です。
5.注射はその適応を守り、副作用に留意することが大切です。また、注射部位を確認して行う必要があります。
6.手術に関しては術中・術後を通じて専任の監視要員を配し、全身状態を監視させる必要があります。
7.術中には血管の確保を行い、ショック発生時に必要な薬品を用意しておく必要があります。また、出血が予測される場合はあらかじめ血液 を確保しておく必要があります。
8.常に救急蘇生器を点検、整備しておくとともに、その使用手技に習熟しておく必要があります。
9.手術時や医師不在の場合、他の医師の応援が得られるように平素から協力体制を作っておく必要があります。
10.治療方針や内容を本人や家族に十分に説明しておくことが大切です。 またリスクの大きい手術や検査では説明し、承諾したことを文書と して保存しておくことが大切です。
11.前医の医療内容について患者の発言のみをもとにして批判すると医事紛争に発展することがしばしばあります。慎重に発言する必要があります。
12.診断書や証明書は患者の言に左右されることなく医療内容に基づいて厳正に記入する必要があります。
13.医師会の会合には極力出席し、医師同士のコミュニケーションを良好にし、医師会活動に積極的に参加することが大切です。

B.緊急対応チームの策定
1.手術や分娩時、また注射時に思いがけないショック状態が発生するこ とがあります。
  県下の大半の医師会では救急救命チームが策定されていますが、有事の際、ただちに始動できるように準備しておく必要があります。また、搬送先の病院や搬送方法や情報伝達システムを策定しておく必要 があります。
2.担当理事は地域医療担当理事と協力して救命処置がスムースに行われるように指揮をとるとともに、患者家族への連絡や説明に留意する必要があります。

 ( 注:玖珂郡医師会としては現在は緊急対応チームの策定は行っており ませんが、平成7年9月に策定した「災害時救急医療応援体制規約」に 準じて対応したいと考えております。各地区・各町村での応援体制の システム作りも平素からの病診・診診連携で確立しておいてください。)

C.医事紛争時の対応
1.最善を尽くしても死亡したり、重い後遺症が残ることがあります。本人や家族の不満に対しては必ず担当理事が同席し会員の医療内容の説 明に対し、追加や補足をして理解を求める必要があります。
2.突然の死亡事故などで解剖が必要と思われる場合には、当事者の会員に代わって、担当理事が遺族の心情に配慮しながら、その必要性を説明し、承諾を得ることが大切です。
3.死亡事故では当事者会員と一緒になって遺族に対し丁重に説明して納得を得るように努めるとともに、葬儀にも一緒に出席して誠意を表わす必要があります。しかし、香典は一般常識の範囲にとどめておくことが大切です。
4.患者側から何らかのクレームがあった場合、当事者会員と同席してその不満がどこにあるのかをよく聞き、即答は避け、後日話し合うことを約束するにとどめておくことが大切です。そして、今後紛争に発展 すると思われるケースではただちに所定の事故報告書で県医師会に報告してください。

D.医師賠償責任保険加入の促進(特に100万円以下)
 医療は普遍的なサイエンスではなく、個々に適用されるアートであるといわれています。同じ量の投薬・注射でも個々の反応は様々です。現在の医学では解明できない患者の体質のために、適切な医療を行っても事故が発生することがあります。
 すなわち、私たち医療担当者は常に医事紛争に巻き込まれる可能性をもっています。そのために私たちが安心して医療を行うには医師賠償責任保険に加入することがぜひ必要です。

 日本医師会のA1会員、A2会員は年間1億円までの保険に加入していますが、100万円の免責部分と施設賠償(建物・施設の使用・管理事故や給食の事故など)を一緒にした保険が安田火災海上保険株式会社から売り出されており、山口県医師会館内の山福株式会社が代理店となっております。この保険に加入しておけば日本医師会の保険と併せて1億円までの医療保険と施設保険に加入することになり、安心して医療を行うことができます。


医事紛争とは

 診断や治療等の診療行為の結果、発生した紛争はすべて医事紛争となります。具体的には、診療行為は問診から始まり、診察、検査、そして診断に至り、これに基づいて治療が行われます。
 治療も、投薬、注射があり、外科系では手術や麻酔等がこれに加わります。しかもこれらの医療行為は、きちんと診療録に記録されていることが必要です。
 非常にまれな例ですが、医療行為以外から紛争が発生することがあり、これも広い意味で医事紛争として取り扱うことがあります。しかし、その対応については若干異なるところがありますので、早めに県医師会にご連絡ください。
 (患者・付添人等が病院・診療所内で転倒事故等にあって傷害を受けたり盗難事故に
 あったような、医療とは直接のかかわりのない事故でも、県医師会が団体契約の取
 扱いをしている医師賠償責任保険に施設賠償の特約を付加した契約の場合、賠償金
 支払いの対象となる場合がありますから、県医師会までご相談ください。)

 さて、あってはならないことですが、数多くの医療行為の中では、不注意な医療行為が行われることがあり、不幸な結果を招くことがあります。いわゆる医師有責のケースです。この場合は、深い反省とともに、それなりの対応が必要となります。
 また、いかに慎重に、最善の医療行為を行っても、患者さんにとって不幸な結果になることがあります。すなわち、現在の医療水準ではどうすることもできない不可抗力である場合です。この場合には医師に過失はありませんし、不可抗力であることをよく説明することが大切です。
 最後に医療行為に特に問題もないにもかかわらず、患者側より声高に医師を責めてくる場合があります。いわゆる、故意に言いがかりをつけてくる場合です。このような“悪しき訴え”には断固として対応することが大切です。安易な解決等は将来に禍根を残します。
 以上、いずれの場合も医事紛争として取り扱われますので、担当理事の早い時期からの対応をお願いします。


 医療事故・医事紛争を起こさないための12章

1.血のかよった診療をしよう。
  いかなる患者に対しても感情的となることなく、医師の使命感に基づいて最善を尽くそう。
2.充分に聞き、丁寧に話そう(説明義務)。
  よく聞き、懇切に説明することは、医師と患者の信頼の第一歩である。
3.自己を知り、向上に努めよう。
  日進月歩の医療水準に達するよう常に研鑽しよう。しかし、自己の限界を知り、譲るべきは譲ることが大切である。
4.“きまり”に従って行おう。
  診断も診療もルールを守り、手を省かず奇を用いず、自分も患者も納得のいくように、
   @法規その他の“きまり”に習熟しよう。
   A診断の手順としての検査を励行しよう。
   B特に、注射の“きまり”を厳守しよう。
5.危険を予測し、その回避と対策に万全を期そう
 (結果予見義務と危険回避義務)。
  医師も職員も“こうすれば、こうなるかもしれない”ことを考慮して、危険な結果の回避に努め、また、万一の場合に対処する備えを充分にしよう。
   I.問診票を活用して、充分な情報を求めよう。
   II.それで得た主要な事項は、カルテに転記しておこう。
   III.能書を熟読し、危険を伴う薬の使用はできるだけ避け、より安全なものでこれに代えよう。
   IV.止むなく使用する場合、テストの“きまり”のあるものについては、必ずこれを励行しよう。
   D救急蘇生法に習熟し、緊急薬品並びに器具を整備し、かつ定期点検しよう。
6.緊急チームを作ろう。
  医師は孤独と言われる。まして、突発事故に際しては、気も動転してなす術を忘れることもあろうから、常に近隣医師とのチームワークを保ち、不測の事態に対応できる体制を作っておこう。
7.前医の批判を止めよう。
  不用意な発言は不信感の“きっかけ”となる。他を誹って己を誇る愚は慎もう。
8.常に診療録を整備しよう。
  もし医事紛争が発生すれば、カルテ等[問診記録・検査記録・手術(検査)承諾書・麻酔カード・手術記録・入院記録]は正当な医療としての証となる。
9.職員と心をかよわせよう。
  事故に際しては、看護婦等職員の証言も重大である。彼我一体となって事に処するには、常日頃の指導もさることながら、その信頼を得る徳が必要であろう。
10.事故に対して誠実に対応し、医療行為への納得を得よう。
  性急に自己の非を謝することは、相手の情をひくよりも、むしろ、医療行為への不信感を招くことになる場合が多い。最善を尽くしたとの印象が大切である。
11.事故ないし紛争を一人で処理すまい。
  一人での処理は、気が動転し冷静に対応できない。正しい解決のため、まず地元担当理事に報告して、医師会の協力を求めよう。
12.死因の究明に努力しよう。
  死亡事故に際しては、死因究明のため、極力病理解剖を奨めよう。もし、相手方の了解を得られない場合は、その旨をカルテに記載しておこう。

                   平成6年2月
                     山口県医師会作成


 医療事故発生時の対応について

 患者側より、医師の医療行為に対して不信を訴え、説明を求めてきます。この時は主治医から、医学的に難しいことかもしれませんが、自然な状態で詳しく説明することが必要です(医学的対応)。
 この説明で納得していただければ良いのですが、そうでない場合、次に医師を個人的に攻撃してきます。たとえぱ、誠意がない、医師としての倫理感を疑う、といった強い言葉で、言外にそれなりの補償を求めているようなニュアンスです。
 この時点より郡市医師会担当理事及び会長で対応してください。しかも、患者側と会われる時は必ず複数でその場に臨み、不用意な発言をしないで、医師会の医事紛争解決システムを説明し、県医師会へご連絡ください。
 さらに患者側が口頭または文書(自分で書いた私書)で具体的な要求をしてくることがあります。この時点で、県医師会は医事紛争対策委員会を開き、医師の責任の有無、及び対策等を決めます。
 次に法的な処置として、証拠保全がなされます。これは患者側弁護士の申請により裁判所が診療録等を証拠として保全するもので、証拠保全決定の通知があり、その中に検証期日の日時が指定してあり、その日時に裁判所より裁判官らが来られます。
 この時、同行して来る患者側弁護士から直接質問されることがありますが、不用意な回答はしないようにしてください。
 さらに催告書というものがあります。これは患者側弁護士より送付されてくるもので、医師の過失と考えていることを列挙し、これに対して賠償を要求してくるものです。これに応じる意志があるか否かを、いついつまでに回答せよと、回答期限が明記してあります。しかし、このときもできるだけ早く、担当理事は県医師会に連絡ください。
 以上、医事紛争の過程を順序にしたがって述べましたが、いつもこのように進んでくるとは限りません。何の前ぶれもなく突然、証拠保全がなされることもありますし、患者側からのいやがらせのような要求がいつまでも続くこともあります。
事例ごとにそれに応じた対応をすることが必要で、郡市医師会担当理事と県医師会との緊密な連絡が大切です。
 いずれにしても医事紛争担当役員の仕事は、医事紛争に巻き込まれた会員を、このいまわしい紛争からできるだけ早く解放することであると思います。
さらに将来、問題となるような安易な解決だけは避けたいものです。


  県医師会の医事紛争対策システム

 医事紛争は予期して起こる場合と、全く寝耳に水のごとく起こる場合とがある。
 いずれにしても不幸な事態であるが、郡市医師会・県医師会・日本医師会それぞれが紛争当事者になった会員にとって最善の解決を得られるように努力する。
 その対策のシステムは、郡市医師会段階では、それぞれの医師会で決められたルールで対応をお願いすることになるが、トラブルが生じれば、そのまま県医師会へ報告するだけではなく、初期対応をきちんと進めながら事故報告書を提出する。

  医事紛争対策システムの概要
 A.日本医師会A1・A2会員の場合

 *日医の承認がない示談等では支払われない
 *免責100万円。下記Bの契約がない会員は自己負担
 *医師側の裁判費用等(弁護士費用など)も医賠責保険で支払われる
 *医師無責であっても、交渉・調停・裁判のため顧問弁護士に委任し
  て対応した場合、その経費は医賠責保険で支払われる(裁判で医師
  賠償金支払の判決がでた場合、その賠償金も支払い対象となる)

 B.100万円以下の要求(日医会員)、法人契約(医療法人)の場合  
    (県医師会団体契約医賠責保険加入者の場合)

 *委員会・審議会承認のない示談等では支払われない
 *医師側の裁判費用等(弁護士費用等)も医賠責保険で支払われる
 *医師無責であっても、交渉・調停・裁判のため顧問弁護士に委任し
  て対応した場合、その経費は医賠貢保険で支払われる(裁判で医師
  賠償金支払の判決が出た場合、その賠償金も支払い対象となる)


 玖珂郡医師会 医事紛争時の対応の進め方

1. 事故発生の場合、当該会員は速やかに医師会長又は医事紛争担当理事にその事故の大要を通報するものとする。
  特に死亡事故その他緊急に対策を必要とする場合は、別記1の連絡方法等により同時に患者家族及び所轄警察署への通報についても留意す るものとする。
2. 事故発生の通報を受けた会長・担当理事若しくはその代理者は現場に急行して実情を調査するとともに事故処理に助言協力し、必要ある場合は直ちに県医師会長に通報するものとする。
3. 郡医師会長から通報を受けた県医師会長は、必要ある場合、その応急処理について助言するものとする。
4. 当該会員は応急処理終了後速やかに事故報告書を医師会長を経て県医師会長に提出しなければならない。その様式は県医師会の処理要領 に定めるものとする。
5. 当該会員は勿論医師会長又はその連絡等に当たった者は患者関係者、報道関係者、その他から事故について意見を求められても濫りに私見を述べてはならない。
  意見の発表は県医師会長が行い、医事紛争対策委員会関係者も口外してはならない。

 別記1
 患者死亡その他緊急な対策を必要とする場合の電話連絡方法
 (会員は1.2.3.に通報すること)

         事故発生会員

  3       1      2
  所轄警察署   患者家族  医師会長   山口県医師会長
                担当理事


紛争発生から解決までのプロセス

1.紛争当事者会員
  相手の意向を聞くのみにし、即答はしないこと。
  返事は後日することとし郡市担当理事に連絡・相談の上、対応する。
2.郡市医師会医事紛争担当理事(または郡市医師会長)
  相手側と面談する場合、当事者会員のみでなく、必ず担当理事等が
  同席する。
  相手側の意向をよく掌握する。
  紛争解決経過中も県医師会と緊密な連絡をとる。
3.県医師会へ報告・相談
  事故報告書に詳細を記述し、診療録の写しを添えて提出する(事故
  報告書記載にあたっては、19頁以降参照)。
  *緊急の場合、電話連絡も可。
  県医師会は必要によって顧問弁護士による対応の手配をする。
4.医事紛争対策委員会開催
  事故報告書を受理した場合、速やかに開催する。
    出席者=紛争当事者会員(病院では主治医を含む)。
        郡市医師会医事紛争担当理事。
        医事紛争対策委員(10名)。
       *必要に応じて顧問弁護士の出席を求めることがある。
       *紛争内容が特殊な場合は、その専門医師を臨時委員に
        嘱することがある。
    委員会は非公開であり、関係者以外の出席は認めない。
5.日本医師会に付託(日医A1、A2会員)
   相手側の要求が100万円を超えるものは、日本医師会に付託して、
   解決に当たる。
   付託の場合の書類は、
    紛争当事者会員(病院では主治医も)
    郡市医師会医事紛争担当理事
    医事紛争対策小委員
   により、検討の上作成する。
   その後はすべて日医医賠責対策室と密接に連絡をとりながら進め
   る。
   日医の了解のない解決方法をとれば医賠責保険適用がなくなる
   (場合によっては、支払済の諸経費の返還を求められることもあ
   りうる)。
6.医賠責審議会
   要求額100万円未満の事案および医賠責保険法人契約の事案につ
   いては、医事紛争対策委員会に次いで審議会を開催し、医賠責保
   険による解決策を審議し、賠償が必要な事案は賠償額の検討も行
   う。
    出席者=紛争当事者会員(病院では主治医も)
        郡市医師会医事紛争担当理事
        審譲会委員(医事紛争対策委買が兼任)
       *必要に応じて顧問弁護士の出席を求めることがある。
        安田火災社員(医賠實保険受託会社)
     審議会は非公開であり、関係者以外の出席は認めない。
7.弁護士委任
   裁判では必ず本会顧問弁護士のうちから代理人弁護士を委任する。
   調停・交渉ではその難易度により顧問弁護士を代理人に委任する。
   委任しない場合、郡市担当理事・会長、当事者会員で交渉に当た
   る。
8.その他
   委員会・審議会は紛争解決に向けて経過中も、必要に応じて開催
   する。
9.医療事故以外の紛争
   医療行為と直接かかわりのない紛争、たとえば、患者・付添人等
   に生じた院内廊下等での転倒事故、院内諸設備の管理不備から生
   じた事故等は施設賠償を特約した医賠責保険では損害賠償分を保
   険金として支払いされる場合があるので、万一、損害賠償請求を
   受けた際はただちに県医師会に相談する


診療録(カルテ)とその保存について

1.診療契約
  患者が医療機関の窓口で診療を医師(正確には開設者)に依頼する手続きをし、カルテを作成した段階で診療契約は成立する。
  医師法第19条第1項診療に従事する医師は診察、治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない…
2.問診票
  医師は診療を行う時まず問診をするが、その前に「問診票」の形式で患者のアレルギー体質の有無(特に薬物アレルギー)などを記入してもらっているが、これはあくまで補助手段であって、必ず再度問診を行い、確認、記載の必要がある。
3.診療録
  カルテはただ単に医師の備忘録、保険請求事務の記録ではない。医事紛争が発生した場合には診療の内容を証明する唯一の記録となり重要な証拠書類ともなるので、第三者にも理解できるように診療の内容
(主要症状・診察所見・治療方法・説明内容・指導を行った具体的事項・今後の方針・時に陰性所見など)を記録する。また検査結果、添書類はカルテに貼付する。
4.診療記録の原状維持の必要
  診療記録等はたとえ内容が貧弱であっても、あるいは後から見て問題があると考えても、紛争が起こった後にカルテに加筆(たとえ1字、2字でも)すると、カルテの改ざんとみなされて全てを否定される例があるので厳に慎まなけれぱならない。
5.診療録の保存期間
  カルテは医師法第24条により5年問の保存が義務づけられている。 これに違反して法に定められた期間内に廃棄処分にすると5.000円以下の罰金刑に処せられるが、もし医事紛争が起こった場合非常に不利となることはいうまでもない。またX線フィルムなど「診療に関する諸記録」は法的に3年の保存期間があるが、カルテの内容の一部をなし、またこれに付随するものであるからカルテと同様に保存してお
くことが望ましい。
 時効
  時効成立については患者側が医療過誤の発生を知ってから不法行為で訴えれば3年間、診療契約に基づく債務不履行で訴えれば10年間、全ての時効が成立するまでは20年間の期間がある。したがって、カルテも10年以上、できれば20年は保存しておく体制づくりが望ましい。


事故報告書記載上の留意事項      山口県医師会
   読みやすく
   人にも読める報告書を書こう
   医事紛争対策委員が読めるように

 事故報告書記入にあたって、当事者会員は以下の留意事項に配慮していただくようお願いします。
  *楷書ないしはそれに近い字で。
  *欧文・数字・記号等、正確に記入。
  *ワープロ、パソコン等での記入が可能であれば、より望ましい。

   記入欄別の具体的な留意手項
 1.患者の年齢
   満年齢。生年月日も漏れなく。
 2.職業
   判明している範囲で具体的に。
 3.医療費支出の種類
   併用のものも記入する。
 4.事故原因と発生状況
   日時をおい順序だてて具体的に。なるべく、箇条書きに整理して記入する。
   診療録に記載がないことでも、記憶あるいは他の記録等から参考となると思われる事項は加えて記入する。
 5.患者家族その他の事後感情
   担当医師や、苦情申出者に対応した者が感じたことを記載する。
 6.紛争に至った経過
   「4.事故原因と発生状況」が医療内容であるのに対し、患者側の行動と医療機関側の対応の経過、結果等を詳しく記入する。
 7.証拠保全された場合は、申立書等のコピーを、
 8.内容証明郵便等の文書を受けとった場合はそのコピーを添付する。
 9.電話や直接面接により受けた場合は、その内容をできるだけ詳しくメモしておき、整理して記入する。
 10.面談等の録音がなされていれぱ、その内容を聴きとって要約し、
  記載する。医療機関側が出した文書等もかならずコピー等の控を残し、添付すること。それぞれの日時をメモしておく。
 11.経験年数
  医師複数の場合、それぞれについて記入する。

 *事故報告は事故報告書様式に従い用紙を分けて記入する。
 *ワープロ・パソコン等での記載の場合、本会の様式に従っておれば、
  専用用紙でなくともかまわない。
  ただし、用紙は専用用紙と同判(注:B5判)とすること。
  紙数不足の場合、用紙を足して使用する。
  枠外(欄外)にはみ出さないように記載する。

添付文書について
 1.診療録
  コピー切れのないように十分注意すること。
  片面コピーにする(資料作製上の都合)。
  検査記録等の貼り込み文書はそれぞれコピーの上、該当箇所に続け
  てとじ込む
  (糊付けにはしないこと。サイズ不同であっても裁断しないこと)。
  綴じる場合、綴穴等は余白に。
  入院の場合、看護記録等も診療録の一部とみなし、添付する。
 *他人に判読できないもの、外国語使用のものは、別に、判読できる
  ように書き直したもの、
  また、日本語に翻訳したものを添付すること。
 *裏面に鉛筆等で薄く頁数を記入し、整理を容易にしてあることが望
  ましい。
 *総合病院等で膨大な枚数になる場合、病状等の経過のサマリーを添
  付することが望ましい。
 2.その他の添付文書
  診療録・事故報告書に添付する文書(受取文書・証拠保全申立書・
  訴状等)は診療録に準じてコピーの上添付する。



医療過誤・医事紛争についての参考図書
 インターネットのホームページに掲載されていたものです。
 数册医師会として準備する予定でいます。

朝日新聞モダン・メディシン編集部 編 
 『患者の寿命は医者しだい──新・医事紛争/説明・納得・同意の時代』
  人間の科学社,1400円
加藤 良夫著
 『医療過誤から患者の人権を守る』 ぶどう社,1600円
寺島 道子著
 『医師が訴えられる時──医療過誤訴訟の現場より』 光村推古書院,1500円
弁護実務研究会 編  
 『医療過誤ものがたり』 大蔵省印刷局,1300円
三輪 亮寿著
 『患者と医者も後悔しない医療──マンガ版『インフォームド・コンセント』
  法律講座』 法研,1500円
穴田 秀男著
 『医師のための法律──知って置かねばならぬ 間違え易い医療関係法規の解答 
  改訂増補版』 金原出版,2000円
穴田 秀男著
 『医師のための法律──紛争を起こさぬための 間違え易い医療関係法規の解答 
  第5版』 金原出版,3500円
石井 清英著
 『医師と法律──この一冊あれば』 日本医事新報社出版局、400円
岩本 安昭著  
 『クイズ医師法・医療法──医者と患者の100のチェックポイント』 
  東京法経学院出版,ライトブックス・おもしろ情報百科 ,980円
厚生省健康政策局総務課 編 
 『医療法・医師法(歯科医師法)解第15版』 医学通信社,8800円
須川 豊著
 『医師と法律──医師の法上の地位』 医学書院,1200円
高橋 勝好著
 『医師に必要な法律──医療紛争を防ぐために』 南山堂,1700円
高橋 勝好著
 『医師に必要な法律──医療紛争を防ぐために 増補版』 南山堂,2500円

あとがき

 序文でも述べましたように、医療事故・医事紛争は年々増加しています。また突然の事故や・紛争に巻き込まれた場合我々開業医はとっさの判断が出来にくいと思います。
 その対応のために、平成6年に山口県医師会より「医事紛争対策のマニュアル」が発行され、当時郡市担当理事には配られたましたが、一般会員への配布はありませんでした。そこで今回、改めて県医師会の許可を得て、編集し直し玖珂郡医師会会員の皆様にも配布することにしました。
 本冊子をお読みいただき、ケアレスミスによる医療事故をなくすための自院でのシステム作りと、万一医事紛争になったときの対応を十分心がけて戴きたいと思います。
 なお、このマニュアルは医師会員のみの利用に限定して下さい。

         平成10年9月  玖珂郡医師会
                 副会長   吉岡春紀

医療事故・医事紛争対策マニュアル
          
    編集:山口県医師会 平成6年2月編
    発行:玖珂郡医師会
                平成10年9月
       山口県玖珂郡玖珂町1448 
       玖珂中央病院内 玖珂郡医師会事務局
 


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