岩国市高齢者救急医療支援ネットワークシステムの構築(案 )

                     平成23年3月

              玖珂郡医師会 吉岡春紀

1.はじめに  

 岩国医療圏は県内で高齢化率が高く、特に旧玖珂郡部では、過疎化・高齢化が進んでいる。玖北地区では65歳以上の高齢化率は錦町・美川町・本郷町で40%を超え、玖西地区でも周東町では26.5%となり市内の平均を大きく上回っている。また旧玖珂郡部では医療機関も少なく緊急時の医療対応の遅れや、介護サービスの提供不足が住民の不安や不満にもなっている。

  昨今の救急医療の進歩は、診断して治療開始までの時間が短いほど救命率や治癒率に差がでており、特に心筋梗塞や脳卒中などは発症後3時間以内の治療開始が求められており、地域の緊急搬送システム作りも全国的な課題である。

 当岩国医療圏でも、心筋梗塞や脳梗塞の超急性期医療が国立病院機構岩国医療センターで行われており、発病後の緊急搬送システムを確立することが必要である。そのためには市民にも周知をはり、「こんな症状の時」には発症後速やかに救急車を呼べるように指導啓発活動を行う事も必要であり、また緊急時、特に休日や夜間ではかかりつけ医の診察をうける時間がないため、事前にかかりつけ医の医療情報を登録し、その情報を搬送先の救急の現場でも利用できれば治療もよりスムースに行われるものと思われる。

 そこで、我々は在宅高齢者や独居高齢者の救急医療を支援するために、福岡県粕屋北部在宅医療ネットワークを参考に利用者・かかりつけ医・二次病院・消防救急隊で医療情報を一元化して共有するシステム作りを計画した。

 簡単に言えば、登録希望高齢者の出来るだけ詳しい医療情報を前もって用意し、緊急搬送先に届けておく、紹介状の前倒しシステムである。

2.実施対象

 岩国市医師会・玖珂郡医師会と地域の開業医(かかりつけ医)・地域病院が中心となり、かかりつけ医と地域支援病院である国立病院機構岩国医療センター・岩国市医師会病院や、二次救急を受け持つ市内の急性期病院の救急医療の連携を図る事を目的とする。

 またこれらのネットワークづくりと周知には高齢者にかかわる民生委員や訪問看護・介護ケアマネージャーなども参加し地域医師会・地域支援病院・行政が一体となった事業を展開する。

3.ネットワーク作りの案

a.地域医療機関(かかりつけ医)の登録

 このネットワ−クに協力できるの医療機関は、所定の施設登録用紙(別紙1)に記入の上、所属医師会内の事務局へFAXで送信し、ネットワ−クの登録医療機関となる。所属医師会事務局では、この情報の登録、整理を行う。地域支援病院以外の病院で二次医療や後方支援に協力できる病院にも登録をお願いする。

b.事務局から地域支援病院の地域連携室に登録施設をFAXで通知

  国立病院機構岩国医療センター・岩国市医療センター医師会病院の地域支援病院は、所属医師会事務局から送信された医療機関の登録、整理を行います。

c.利用者登録用紙・同意書(別紙2)の記入・登録  

 このネットワークに登録してサービスを受けようとする人(当初は市内の65歳以上の独居老人を対象とする)は、本人の同意と個人情報や連絡先、救急搬送された時の医療への要望などを利用者登録・同意書用紙に記入する。記入の難しい高齢者には民生委員やケアマネなどがシステムの説明や記入の手助けを行う。

 この登録用紙・同意書は受診の際に「かかりつけ医」に提出しネットワークに参加を申し込む。かかりつけ医がない場合や医師がシステムに参加していない場合いは、事務局に相談してネットワークに登録した医療機関を紹介してもらう。

d.医療情報は、「かかりつけ医」が登録用紙(別紙3)に記入する。

 かかりつけ医は申請した高齢者の病名・経過・投薬内容・他科受診の有無、介護保険の利用、特殊治療などの医療情報を登録用紙(別紙3)に記入する。 本人に告知が困難な病態があれば、特別な報告の欄に○を付けておけば 後に確認出来る。

e.かかりつけ医は個人の登録用紙・同意書と医療情報の登録用紙(別紙2)、(別紙3)医師会事務局と地域支援病院へFAXして登録する。

 別紙2.3の原本はかかりつけ医が保管し、かかりつけ医は1部コピーして利用者に手渡し、利用者が保管し容態急変時に救急隊や二次病院へ搬送される場合に提示できるようにする。状態の変化があれば、その都度かかりつけ医は登録を更新し、最新の情報を常に維持するようにする。

 また医師会事務局から、岩国市内の登録者の在住地域の消防署救急隊に対して別紙2の登録の通知をFAXで行い、登録終了す。

f.利用者の急変時、または看取り時に入院希望の場合

 入院、二次病院レベルの治療が必要となった場合には、利用者または家族、もしくはかかりつけ医、訪問看護ステーション、ケアマネージャー等から二次病院へ直接電話連絡し、入院許可を得て搬送となる。

 緊急時は、救急車に乗るときに登録用紙を救急隊員へ提示する。

 救急車利用の際は、救命優先の原則に従い、搬入先は救急隊員の判断に任せることとする。地域支援病院以外の病院へ搬送の場合は、搬入先の医療機関へ登録用紙を提示する。また登録者の搬送時には地域支援病院での選定療養費は算定されないものとする。

g.地域支援病院での入院加療

 基本的には入院期間は2週間を限度とする。(勿論医学的な必要性のため延長される場合もある)。

 入院した時は、速やかに地域支援病院や入院した病院からFAXで所属医師会事務局、かかりつけ医へ入院を通知する。

h.退院、転院

 再び在宅、かかりつけ医へ、もしくは後方支援施設へ引き継ぐ場合は、退院時、速やかに地域支援病院や二次病院からFAXで、医師会事務局、かかりつけ医へ退院を通知する。

 かかりつけ医は、地域支援病院や二次病院で急性期をクリアした方について積極的に介入し、在宅への復帰、もしくは転院する後方支援施設の探索に責任を持つこととする。

 また急性期治療後に、療養病床への転院や介護施設への入所、在宅に帰る際には、急性期病院ではこのクリティカルパスに情報を加えて転送することにする。

 なお急変が予測されるケースでは退院前には、事前に主治医(かかりつけ医)、訪問看護ステーション、ケアマネージャー等の合同のカンファランスを行うことがある。

4.現在岩国市が検討しているシステムとの比較

 当面の予算化には、既存のファクス通信を使えば個人情報の保管と認証・配信のシステム作りだけで済み事業費はほとんど必要ない。

 現在岩国市が検討している「救急医療情報キット」では紙情報を本人が記載しプラスチックの専用ボトルに入れで冷蔵庫に保管するシステムであるが、利用者本人の記載では正確性や医療情報量に乏しく、高齢者が医療情報を個人で記入することには限界もあり、必要な情報は医師が関わらないと現場では利用できないものと思われる。

 従って正確な医療情報はかかりつけ医が登録することが必要になる。

 ただし、今回の医療情報ネットワークの在宅での保管場所を決めておくことにする位ならばこのキットを利用しても構わないと考えられる。 個人の登録費用や医療情報の紹介に関する費用についてはこれから検討する。

5.計画の発展と今後

 今後このシステムが地域だけでなく医療圏を超えて機能するためには、将来的にはインターネット通院網の整備が必要になる。特に旧玖珂郡部では民間のネット回線も貧弱で、データ配信は難しいため市内全域でどこでも最低ADSL・できれば光回線のネットワークを行政に希望する。 

 これまで山口県でも救急医療ネットワークは行われており情報網の整備は行われてきたが、圏域内の空床の把握程度の情報しかなく運用の実績は各医療圏でも乏しく利用されていないシステムであった。今回の計画のような登録者の医療に関する基礎情報(クリティカルパス)がありそれが素早く伝達されるならば、救急病院でも搬送時の医療現場では大きな医療情報となる。

 また現在、急性期病院の在院期間は極端に制限され短期間の転院が必要になる場合があり、このシステムを使ってかかりつけ医や介護関係者も情報共有し後方病院への紹介や介護施設・在宅での介護サービスへの移行も出来るものとなる。

6.展開と見通し

 当分はファクスでの情報交換が主体となるが、登録書類の保管管理については個人情報管理にも注意しながら行う事とする。ただし救急医療の際に限り、このネットワークでは患者の許可が得られているので各医療施設で必要な場合には自由に閲覧できるものとするのが現実的である。

 将来的には、遅れている旧玖珂郡内に高速回線を整備して、インターネットでの連携網を作成し、このような情報がどこでも閲覧できるようなシステムにして、独居高齢者のみならず少しずつ対象を拡げて、一般・小児までの岩国市内全ての医療ネットワークの基礎作りを検討することも必要である。

 また行政ではこのシステムを対象の高齢者だけでなく一般住民にも周知してゆくことが大切である。また別紙書類の入力を簡素化するためには、登録用紙などの定型のひな形を用意して、かかりつけ医がパソコンを使って入力できるように工夫して欲しい。

以上岩国市の高齢者の救急医療のネットワーク化について提案する。

参考検索  

福岡県粕屋医師会・粕屋北部在宅医療ネットワーク  福岡東医療センター、古賀中央病院

地域支援病院  岩国市内では国立病院機構岩国医療センターと岩国市医療センター医師会病院の2カ所

岩国市高齢者救急医療支援ネットワークシステム

 上記のwordファイルです

登録用紙・同意書・医療情報提供書の案

wordのファイルです

【 医療機関登録用紙 】 (別紙1)

【 利用者登録用紙・同意書 】  (別紙2)

【 かかりつけ医からの医療情報提供書 】  (別紙3)