山口県医師会報 第1530号 11年1月21日
地域医療計画委員会 山口県医師会館


◇療養型病床群の現状と将来について◇

司会 岩崎皓一常任理事

 本日のメインテーマである療養型病床群の現状と将来について、堅苦しくない話し合いをしていきたい。療養型病床群はこれから長期療養者のための施設基準や人員配置基準で非常に重要視されていくものであり、要介護者にとっても大切な療養環境になると思う。ある意味では、これまで医者は地域医療に貢献すると言ってきたが、これから医者は医療と絡め合いながら地域社会にも広く貢献していく時代が来つつあることを考えながら療養型病床群について知識を深めていきたい。
 玖珂中央病院院長 吉岡春紀先生、阿知須共立病院院長 三好正規先生、光風園病院院長 木下毅先生にはあらかじめ質問させていただき、そのご回答をいただいた。
 玖珂中央病院は療養型が2病棟117床、老人病棟(出来高扱い)が31床、阿知須共立病院は療養型が1病棟50床、一般が1病棟44床、老人病棟(出来高扱い)が41床、光風園病院はすべて療養型で3病棟210床である。

1 長期療養者の療養環境について、国は療養型病床群としての施設基準、人員配置基準によって規定しているが、生活環境としては十分か。
 吉岡先生 「看護・介護・診察を行う上では今までの病院設置基準はあまりにもお粗末であり、療養型病床群の基準は使う上ではよい基準である。しかしホテルと見間違うかのような華美な施設は必要ないのではないか。」
 三好先生 「現行の施設基準で十分である。病室面積も6.4Fで十分、8Fまで拡張する必要はない。廊下幅の拡幅が問題である。」
 木下先生 「6.4Fは少し狭く、できれば8.0F程度ほしい。広い方がよいというのであれば、日中生活する場所が広い方がよい。医療をやる上では看護婦の数が少ない。」
 司会 「長期の動けない人をお願いしているが食堂は必要か。有床診が転換する時、食堂の基準を緩和できないかとの希望がある。」
 三好先生 「介護保険適応と医療保険適応の両方を考えると食堂等は必要である。寝たきりだからといって食堂等は必要ないとは言えない。」

2 療養型病床群は医業経営において問題はないか。施設基準、人員配置基準について経営との関連は如何か。
 吉岡先生 「現時点では療養型病床群の包括点数はかなり優遇されており、病床数の大幅な削減がなく、改築程度で完全型に移行できた施設では経営は安定できる。ちなみに、一般病院や介護力強化病床で出来高を選択すると長期入院者の医療費は1月23‐25万円程度だが、療養型病床群では33‐35万円である。ただし、褥創処置、酸素療法、IVH等の特殊な処置は包括化されており、実状に合わない。特殊な処置は出来高にすべきではないか。」
 三好先生 「経営面においては、プラスに働いている。ただし、急性増悪時(特に感染症の場合)の転棟が問題になる。抗ガン剤治療がまるめとなっている。老健では抗ガン剤の注射が認められていないので老健に移せないことが問題である。」
 木下先生 「バランスは取れている。特別養護老人ホームとの人件費差がある。(寮母の給与が高い。)三好先生と意見が違うが、病院である以上はまるめの中でやっていくことが務めではないか。別枠にすると老健並みになってしまい、全体のベースが下げられることになるのではないか。」
 岡澤副会長 「日医は、ガンは別に扱うことにしている。ガンを長期療養者の対象の疾患にすることには抵抗がある。」
 司会 「現実的には褥創等で引き受けてもらえないことがあるか。」
 木下先生 「今後こういう問題が多くなってくる。地域でみてくれと言わないと地域で完結しなくなる。」

3 国の施設整備のための補助金、あるいは補助金を受ける場合の病床10%削減についてどうお考えか。
 吉岡先生 「私の施設では補助金を受け取っていないので正確なお答えはできない。その施設で平均在院日数などを考慮して10%カットでも対応できるなら補助金を受けるのもよいと思う。補助金によるしばりが将来でてくることも考えておく必要がある。」
 三好先生 「ダウンサイジングしないためには自己資金でするしかない。一般病棟の稼働率が90%をきっている時は補助金を受けてもよいのではないか。」
 木下先生 「現実に空きベッドがあれば補助金を受けてもよいのではないか。補助金を受けると一般病棟にはなれない。」

4 山口県における、あるいは各医療圏における長期療養のための療養型病床群は何床くらいが適当とお考えか。療養型病床群等の施設が多くなれば介護保険料が高くなると言われている。では適切な数はどれくらいと考えられるか。
 吉岡先生 「個人的にはまったくわからない。介護の問題と医療の問題はリンクしており、これが不明な現在、どう対応してよいかわからない。介護保険と医療保険の割合がどの程度がよいのかもわからない。介護力強化病院あるいは一般病床の一部や診療所の入院施設が療養型に移行してくることを考えると過剰になるのは目に見えている。そうなると介護保険料は高くなるだろう。」
 三好先生 「県が出した数はあくまでも要介護者のための整備目標と理解している。医療保険対応と介護保険対応をあわせて考えると整備目標をかなり上回る病床が必要である。圏域内での転換希望分はすべて転換でさるようにしてもらいたい。」
 木下先生 「どの程度在宅ケアができるかによる。現状の在宅サービスと利用者が在宅を望まなければ計画の1.5倍は必要。介護保険になるつもりで療養型病床群にしても、介護保険の指定を受けない可能性もかなりあるのではないか。」
 司会 「国の基準の19万床は医療保険対応と介護保険対応とをあわせた数であると厚生省は明言している。日医はこの19万床は介護保険対応と言っているようだがこれは厚生省は認めていない。今回山口県がきめた4,540床は両方をあわせた数ではないのか。」
 岡澤副会長 「国の基準値19万床は介護型と医療型を含めたものである。65歳以上人口の0.8%にあたる。山口県では1.37%としたが、各都道府県で高齢化率の要素などで状況が違っている。」
 三好先生 「当然19万床は越える。そこに入れない人は廃院するしかなくなるので急いでいる。19万床でストップということになれば人権問題といえるのではないか。」
 貞國会長 「まさしくその点であった。山口県では数値をかかげてそれ以上は認めないよということにさせないように頑張った。病院病床がどういう形になろうとこれはよろしい。さらに、有床診の療養型病床群への転換も申請があれば認めることで頑張った。ただ、もう一つ、指定介護施設になる時にクリアすべき点がでてくる。その時に医療型療養型病床群でも運営できる格好にしておきたと考えている。」

5 介護保険下では自分の施設をどのような方向に向けようと考えておられるか。
 吉岡先生 「元々地域の高齢者の内科救急も受け持っており一部は救急に対応できる病床は必要であり、現在は介護力強化病院の出来高で対応しているが一般病床への転換を考えている。療養型病床群のエマージェンシーミックスのような形態で運営できればと思っている」
 三好先生 「現時点では、介護報酬も決定しておらず、医療保険対応の療養型病床群がどのように変わるかも判然としない。何%を介護保険対応型にするか検討中である。日医の診療所の医師と病院の医師の言っていることが違っている。厚生省は病院にたいしては病棟単位でやれと言っているが日医は病床単位で考えているようだ。病院と診療所が足並みをそろえる必要があると思う。」
 貞國会長 「全日本病院協会会長は療養型病床群をフレキシブルに使えるように医療審議会の中で主張していくと言われている。そういう意味では、病院協会、病院団体と日医は共通している。」
 木下先生 「どの程度の医療を想定しているかで異なる。今の社会的入院患者が医療保険ベッドにたまってくる可能性がある。そうなると医療保険ベッドは何をしているのかということになる。また単価が安くてもよいではないかという議論がでてくる可能性もある。ベッドの20‐30%は医療保険と考えている。」

6 有床診療所から療養型病床群へ転換を希望する医療機関へのアドバイスは如何か。
 吉岡先生 「19万床のうちどの程度を介護型療養型病床群にするかはまだ情報不足である。介護型にすれば介護プランの作成が必要になり介護支援専門員がその施設にいなければ、よその人に頼むことになるが本当にできるのか。」
 三好先生 「人員配置基準から考えると、ベッドが少ない場合かなりシビアなものになるのではないか。介護型にした後に入院がなければ空床になる。」
 木下先生 「介護度の軽い人しか入院させられないか。介護プランを他の人に作ってもうととてもやっつてけない。」

終わりに
 療養型病床群の現状について、吉岡先生、三好先生、木下先生からご説明、ご意見をいただいた。介護保険をめぐる状況が混沌としている現在、療養型病床群の将来像がはっきり見えてこない。介護保険が導入された時、療養型病床群の機能の位置付けは慢性期医療を担う施設なのか長期療養を担う施設なのか、あるいは両方を担うことのできる施設なのかが明確でない。そして、介護報酬がまだ明示されないことや入所(入院)が医師の裁量でできないこと等から、介護型施設として申請するか否かを今判断することは甚だ困難な状況である。しかし、こうした不安の中で医療機関は一大決心を迫られようとしている。
                                     藤野俊夫記


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