誤請求・請求漏れをいかに防ぐか

  CONTENTS
   1.最近の審査傾向
   2.多い査定の具体例
   3.請求漏れ対策
   4.情報開示時代でのレセプト


誤請求・請求漏れをいかに防ぐか…その1

 月末から月初めにかけて、医療機関には支払基金と国保連合会から増減点通知書といううっとうしい通知が届く。その中には査定減点連絡書や返戻レセプトが入っており、毎月、封筒の厚さや内容に医事担当者は一喜一憂するのではあるまいか。
 昨今の保険財政の悪化から基金、連合会、保険者のレセプト審査が厳しくなっているのは周知の事実である。なかには理不尽な査定減点や返戻もあるが、大部分は保険証の記号・番号違いや保険診療ルールを少し逸脱した単純ミスによるもので、医療機関側の対応次第で解決をはかることが決して困難ではない。
 一方、一生懸命おこなった医療行為がなんらかの理由で保険請求されない請求漏れも医療機関の経営を圧迫する。経営にとって二大マイナス要因の誤請求等による査定の具体例、保険知識不足等により起こる請求漏れ、そしてレセプト開示の時代を迎えて医療機関のスタンスはどうあるべきかについて以下考えてみたい。

1.最近のレセプト審査の傾向

 絶対に査定されないレセプトはどうしたら作成すればいいのかと聞かれることあがるが、残念ながら明確な回答は用意されていない。なぜならば査定減点に関して明確な基準がないからである。審査員によって査定基準は若干変わるし、医療機関自体のA・B・Cランクのブラックリスト格付けによっても異なってくる。したがって同じような内容のレセプトでも、A医療機関では問題なくパスし、B医療機関では査定されるという審査員の主観的な現象も起きることになる。明確な査定の基準があったら、それを医療機関が入手することにより査定はゼロになるはずであるが、現実には今まで請求して通っていたものがある月から駄目になったり、その逆も多々発生する。長い期間で見れば、査定の傾向は同じような内容の繰り返しになっている。ある程度、その傾向を押さえていけば限りなくゼロに近い査定にはなるかもしれない。
 査定には明らかに「医療機関の単純ミス」によるものと「医療機関側にとってどうしても納得できない」ものの二つに大別される。問題は後者の査定の場合である。再審査請求を出すと基金や連合会からにらまれるし、手間もかかるので再請求はしていないとというドクターがいるが、これは大きな間違いである。納得できない査定を再請求しないということは自身の保険診療における医療行為を否定することになる。ちなみに健康保険組合などの保険者からの再審査請求の件数と医療機関からの再審査請求件数は一桁違い結果となっている。
 支払基金がまとめた「平成8年基金年報」(下表参照)によると外来の査定率は例年並であったが、入院は前年度を下回っている。
 ここで言う査定率とは、確定点数/請求点数で算出され、査定率が「1」に近づくほど査定された点数が少ないことを意味する。

平成8年度 全国平均査定率・返戻率
     外来  入院   合計  返戻率
 医療保険 0.988% 0.976% 0.983% 0.28%
 老人保健 0.985% 0.977% 0.981% 0.48%
(平成8年度基金年報より作成)

 医療保険の全国平均査定率は入院が請求点数2807億4672万点の請求点数に対して、確定点数は2742億3022万点で査定率は0.976になっている。外来は4873億8145万点の請求に対して確定点数は4815億6528万点で査定率は0.988です。返戻率は0.28%である。
 老人保健の査定率は入院が請求点数1233億7972万点に対して、確定1205億9918万点で査定率0.977%、外来は請求点数1027億6543点に対して、確定が1013億1600万点で査定率0.985%、返戻率は0.48%になっている。

2.多い査定の具体例

 以下の具体例は実際に基金や連合会、保険者からの査定の実例をもとに作成したものである。これらには点数表に明確に掲載されているもの、掲載はないが常識となっているもの、審査員の判断によるもの、地域格差によるものなど様々なケースがある。

 初再診関係
■時間外・休日・深夜加算の査定
 症状等に緊急を要しない患者さん側の自己の都合による時間外等来院の場合、加算は認められていない。たとえば、1ヶ月連日注射の指示があった場合、患者さんの都合で会社帰りに注射を行った時の時間外加算などである。加算に対してレセプトの病名から緊急性が読めない場合は査定の対象になる。
■外来管理加算の査定
 外来管理加算を算定できない項目をしっかり把握することが肝要である。
 指導料
 最近は指導料が在宅医療を含めると数多くある。指導料の場合は他の指導料との重複算定が認められない、医療行為の一部が包括になるなど複雑な算定ルールがあるので注意が必要である。
■特定疾患指導料(老人慢性疾患生活指導料)の対象疾患が無い場合や初診から1ヶ月
 を経過していないもの。
■悪性腫瘍特異物質治療管理料を癌以外の病名で算定しているもの
■特定薬剤治療管理料の逓減ミス
■各管理料に含まれる採血料、検査判断料の査定
■在宅自己注射指導管理でノボレット(注入器一体型キット)投与時の注入器加算

 投 薬
 投薬、注射、検査は査定のビッグスリーと言っても過言ではない。まさに薬漬け、検査漬けに対するチェックで最も審査側が査定をするところである。薬の場合、能書どおりの病名、用法、用量でないと査定の危険性が相当高くなる。学会で常識になっている用法、用量でも、能書になければ保険診療としては認められない。また盲点になりがちな組み合わせによる禁忌についても注意が必要である。
■内服薬の長期投与対象外疾患および薬剤で14日を超えて投与
■外用薬の長期投与対象外疾患および薬剤で7日を超えて投与
■同一患者に対して同一日に院内と院外の投薬を算定
■同一患者に対して同一月内に院内と院外の投薬を算定した場合の調基
■処方料、調剤料、調基が複数科処方を除いて診療実日数を超えて算定
■特定疾患処方管理加算を対象疾患以外で算定
■オメプラール、オメプラゾン、タケプロン(プロトンポンプ阻害剤)の投与日数
 が胃潰瘍8週、十二指腸潰瘍6週を超えて投与。
■胃粘膜保護剤の重複投与またはH2ブロッカーを粘膜保護剤投与
■バリターゼ(塩化リゾチーム)を感冒、上気道炎で投与
■ダーゼンを感冒、上気道炎で投与
■キネダックを単なる糖尿病で投与
■メバロチン、リポバス、シンレスタールを高コレステロール血症、高脂血症以外
 で投与
■フォイパンを慢性膵炎、術後逆流性食道炎以外で投与
■パナルジンを脳梗塞後遺症、心疾患以外で投与
■ビタミン剤が不要なのに投与
■ゾビラックス眼軟膏を単純へルペスに起因する角膜炎以外で投与
 注 射
■点滴手技料(1日につき)の回数が実日数を超えて算定
■点滴手技料を200ccまたは500cc未満で算定
■特定注射薬剤指導管理料を月2回以上算定
■特定注射薬剤指導管理料を対象薬剤以外で算定
■ガスター注を消化管出血をともわない疾患に対して投与
■アルツディスポを変形性膝関節症、肩関節周囲炎以外で投与
■強力ネオミノファーゲンCを慢性肝炎による肝障害、皮膚疾患以外で投与
■ザンタックを術前、消化管出血以外で投与
■アミノレバンを肝性脳症をともなう慢性肝不全以外で投与
■ノイロトロピンを皮膚疾患、痛みをともなう疾患以外で投与
■セファメジン、セフメタゾン等と他の抗生物質との併用または過剰
■ハイカリックなどの高カロリー輸液と肝性昏睡のおそれのある場合や重篤な腎障害
■アミノレバンと重篤な腎障害
■イントラリポス(静注用脂肪乳剤)と血栓症、重篤な肝障害、出血傾向、高脂血症

 検 査
 検査の査定は施行回数の過剰、一次と二次検査の同時施行、意味の同じ検査の同時施行、画一的なセット検査の実施などが主な理由である。
■定性と定量、一般検査と精密検査を同一検体で算定しているもの
■包括対象項日を同一検体で別算定しているもの
■検査を採血回数または実日数を超えて算定
■CRPの定性と定量を同時算定
■炎症性疾患の病名がないのにCRPを算定
■入院初回加算を生化学(氈j9項目以下で算定
■TIBC、UIBCおよびFeを同一検体で算定
■レチクロを貧血、白血病、重症感染症の病名がなく算定
■フェリチンを鉄過剰症、鉄欠乏症、骨髄白血病の対象疾患がなく算定
■炎症性疾患がなくシアル酸を算定
■シアル酸とCRPを同一検体で算定
■ADA(アデノシンデアミナーゼ)を肝疾患、白血病、癌以外で算定
■リポ蛋白分画、アポリポ蛋白を高脂血症以外で算定
■肝炎ウィルス関連検査(HCV抗体、HBs抗原)を肝疾患、術前検査、内視鏡
 検査前以外で算定
■HBC抗体精密とIgM−HBC抗体精密を同時算定
■IgG型とIgM型ウィルス抗体価を同一ウィルスで併せて算定
■慢性肝疾患の経過観察、肝生検の適応確認以外でのヒアルロン酸の算定
■梅毒定性検査を梅毒、術前検査、内視鏡検査前以外で算定
■腫瘍マーカー検査を同一疑い病名で月2回算定
■腫瘍マーカー検査を当月以外の癌確定で算定
■慢性活動性肝炎や肝硬変でAFPとPIVKを同時算定
■PTと第・因子、APTTと第ヲ因子を同時算定
■CA125、CA130、CA602を併せて測定
■HbA1c検査を糖尿病の疑いで算定
■HbA1cを月2回以上算定
■HbA1cとフルクトサミンを同時算定
■糖尿病以外でHbA1c、フルクトサミン、1.5AGを算定
■耐糖能精密検査と採血料を同一日に算定
■結合型と遊離型のT3、T4を同時算定
■血中Cペプタイドと尿中Cペプタイドを同時算定
■フィブリノーゲンとトロンビン時間を同時算定
■ABO血液型、Rh血液型を2回以上算定
■ABO血液型、Rh血液型、梅毒検査を再入院で算定
■腎炎、腎不全、白血病、胃癌等の疾患がなく、β2-マイクログロブリン精密を算定
■細菌培養同定検査と簡易培養検査を同一検体で算定
■細菌性疾患がなく細菌培養同定検査を算定
■細菌培養同定検査が回数過剰
■抗核抗体検査と抗核抗体精密検査を同一検体で算定
■抗核抗体精密検査とLEテストを同一検体で算定
■血中SS−A/Ro抗体と血中SS−B/LA抗体を同時測定
■特異的IgE検査を1回の採血で2000点を超えて算定
■内視鏡検査と内視鏡を用いて行う手術を同時に算定
■心臓、腹部臓器、胎児、脳腫瘍等の対象疾患がなく超音波検査を算定
■骨塩定量検査を骨粗鬆症以外で算定
■重篤な心機能、呼吸障害、術中等の疾患がなくて呼吸心拍監視を算定
■初診時に眼鏡処方せん交付以外で屈折検査と矯正視力検査を併せて算定

 画像診断
■レントゲン撮影が病名から判断して不必要、過剰
■透視診断料を撮影の時期決定や準備手段として算定
■対称部位にそれぞれ病名がないのに別々に算定
■CTやMRI撮影が病名から不必要なものや過剰なもの
■CTとMRIを同一月に同一部位に行い2回目を100分の50算定していないもの

 処 置
■処置点数の算定が部位、範囲、病名から過大算定
■創傷処置を対象疾患がなく算定
■湿布処置(診療所のみ)と消炎鎮痛処置を同一日に算定
■膀胱洗浄と留置カテーテル、導尿を同時に算定
■腰部固定帯や胸部固定帯を特定保険医療材料で算定
■人工呼吸と同時に行った喀痰吸引
■介達牽引と湿布処置、消炎鎮痛処置を同一日に算定
■手術当日の関連して行う術前、術後の処置を算定

 手 術
■同種の手術を1日2回以上算定
■同一手術野または同一病巣で特に規定する場合を除き2以上算定
■真皮縫合加算を頭部、指、趾、足蹠で算定
■創傷処理以外でのデブリードマン加算を算定(植皮を前提の場合以外)
■自動縫合器、自動吻合器の術式、個数制限を無視して算定

 麻 酔
■神経ブロックを同一日に2回以上算定
■神経ブロック、神経幹内注射とトリガーポイント注射を同一日に算定
■神経ブロックに居所麻酔剤以外の薬剤を算定

 リハビリテーション
■発症期間と病名開始日の不一致
■高齢者の複雑リハビリ
■リハビリテーション料を1日2回以上算定
■理学療法の算定が病名から見て不必要なもの

 入院料その他
■入院時医学管理料の起算日を誤っているもの
■特食加算を対象疾患がないのに算定

 病名や症状詳記
 病名漏れは査定、意味不明の病名や症状詳記は返戻の対象になる。保険病名の多用は審査側に悪印象を与えかねない。
■急性期病名が長期間残っている場合
■病名が多すぎる場合
■疑い病名が多かったり、転帰がない場合
■病名欄と症状詳記欄の病名の不一致
■高点数なのに症状詳記が無い場合や短すぎる場合
■症状詳記がケンカ腰の場合
■症状詳記が病名爛と違ったり禁忌等に触れて墓穴を掘る場合

 

誤請求・請求漏れをいかに防ぐか…その2
3.請求漏れ対策

 医事課にとって請求漏れはある意味では査定減よりも大きな問題である。査定は明確に数字が把握できて、一定の対策を施すことにより軽減することができるが、潜在的な請求漏れは数字が分からないために厄介な問題となる。
 請求漏れには「広義の請求漏れ」と「狭義の請求漏れ」の二種類がある。

●広義の請求漏れ
 広義の請求漏れはさらに二つに分けられる。一度、来院した患者さんが何かの理由で二度と来なくなることが第一の請求漏れである。その理由として、医療の内容に満足しなかった、医師や看護婦および事務の態度が悪かった、説明不足だった、長時間待たされたなどが考えられる。
 「サービスが伝説になる時」(ダイヤモンド社刊)というサービスに関する有名な本には「苦情を言うのは4%に過ぎない。あとの96%は怒って二度と来ない」「苦情を言った人の56〜70%はそれが解決した時に再取引きしたいと考え、解決が迅速な場合は96%にアップする」「不満がある人は、それを平均9〜10人に話し、13%の人は20人以上に話し、不満が解決された人は5〜6人に話す」と貴重なデータが記載されている。医療がサービス業と定義されて久しいが、いまだにパターナリズムやセクショナリズムで運営を行っているとその反動はますます大きくなる。
 第二は、カルテ記載などの条件がそろえば請求できるのにされていない指導料などのケースである。難病外来指導料などは診療計画や要点をカルテに記載の義務があるが、医事課の方で医師にこれらの情報をフィードバックしていないために記載がなく算定要件を満たさない場合などである。
 また、指導料を算定すると負担金が高くなるために患者からの質問が多くなる。前回と同じ投薬内容なのになぜ今回は会計が高いのかという質問は医療機関の会計担当者ならば必ず受けたことのある質問の筈である。万が一、医事課において、この処理が煩雑なために指導料を算定しないとすれば、これはある意味で背信行為といっても過言ではない。したがて患者の問に正確に答えることができる教育とマニュアルづくりが必要となる。
 入院における入院診療計画加算や届出医療の薬剤管理指導料もアクションを起こさなければ算定はできない。最近の診療報酬点数は皆、公平に点数がつくものではなく、額に汗することによりはじめて請求できるものが多くなった。ほとんど算定できる要件が揃っているのに、あと一歩動かないことにより、点数にならないことも結局は請求漏れに該当する。

●狭義の講求漏れ
 一般的に医療機関の請求漏れというと狭義の請求漏れのことを言う。現場で実施された医療行為が何らかの障害により、レセプトで請求できずに未入金になる。これは昨今の医療機関の厳しい経営にさらに拍車をかける結果となっている。
 これらの請求漏れの原因として以下の各ポイントが挙げられる。

 @ 医事課のレベルが低い
   医療保険制度改革により診療報酬体系も大きく変わり、点数表は改定の度に
  厚くなっている。点数表の簡素化と医療費抑制を目的にして、外総診や在宅医
  療における在総診などの部分的外来包括医療も進んではいるが、その混在がか
  えって算定ルールを複雑にしているのが現状である。
   また、医学的知識が医事課にないために起こる請求漏れも多々ある。たとえ
  ばツベルクリン反応検査のみが請求されていて、検査薬剤のツベルクリン注射
  液が請求されていないレセプトをよく見かける。これもツ反は必ず注射をして、
  後日反応を見るという基本的なことを知っていれば決して漏れることはない。
  現場をよく見ることが必要であるし、これを実施したら必ずこれを行うはずだ
  という「パターン認識」が必要となる。

 A 情報伝達のシステムが悪い
   伝言ゲームではないが、ドクターの指示が看護婦やクラークを経て医事課に
  来る流れだとどこかで漏れが発生する。伝票等の工夫により発生源の情報がダ
  イレクトに医事課に流れるシステムの確立が必要である。最近、普及してきた
  オーダリングや電子カルテの導入も請求漏れの観点からも考えるべきであろう。

 B 現場にコスト意識がない
   医師や看護婦にとっては治療が最優先であり、薬剤や医療材料などは手段に
  しか過ぎないのでその記録を軽視する傾向がないとはいえない。当然ながら、
  患者が急変した時の処置や注射などを施す医師や看護婦が記録をしながら行え
  ば、その方は手遅れになるかもしれない。まさに目的と手段のはきちがえであ
  り、急変時などの医事伝票は後処理で漏れないシステム作りを医事課だけでな
  く、現場を巻きこんで作っていくことが間接的に現場にコスト意識をもたせる
  こととなる。
   自分達の使用している製品の価格を知らないですむと考えている業界は医療
  界だけではなかろうか。たとえば医事伝票に薬価や材料購入価格を入れること
  はさほど難しくはない。医事課だけではなくすべてのセクションがコスト意識
  をもつことが重要である。

4.情報開示時代でのレセプト

●健保達のカルテ、レセプト開示に関する調査
 健康保険組合連合会が平成9年9月に入院や外来受診をした20歳〜64歳の被保険者と被扶養者1,212人を対象に行った調査によると、多くの患者さんが医師を信頼しながら十分な説明を求めていることが分った。レセプト開示に関しては「多少見たい」を含めて開示を求めたのは入院では72%、外来では70%に達した。見たい内容は入院では検査、入院費、処置、手術が半数を超え、外来では検査、投薬を60%強があげ、総医療費、病名が各40%となっている。
 カルテについては入院では69%、外来では64%が開示を望んでいる。見たい内容は入院、外来ともに「医師のコメント」「病名や病状」をあげる人が多く、いずれも60%を超え、外来での「病名や病状」は80%に達している。この開示の意向は医療に対する疑問や不信の反映であり、検査の種類や回数に疑問を感じたり、対応や治療を好ましく思わなかった患者さんはレセプトやカルテの閲覧を望む傾向にあると健保連は分析している。

●カルテは人にみせることを前提
 今までのように他の医者が見ても意味不明のカルテや保険病名が多用されたレセプトでは情報開示の下では通用しない。書いた本人すら解らないという笑い話もあるほどである。今やカルテは人に見せることを前提として書く時代になったといっても過言ではない。
 健康保険の本人負担も1割から2割になり、複雑な算定ルールの薬剤負担金も導入されている。平成12年からスタートする介護保険は患者負担が1割と決まっており、それにともなって医療保険の70歳以上(寝たきりは65歳以上)の老人医療の負担金も現在の定額制から1割負担にする方針も打ち出されている。実際には政治的な意味合いから若干の修正がかかる可能性もあるが、いずれにしても患者負担は増える傾向にかわりはない。患者負担が増加するということはコスト意識が喚起され、患者の医療機関を見る目はますます厳しくなることを意味する。インフォームド・コンセントは当たり前の時代であり、「何も言うな、俺についてこい」という診療のスタンスでは時代からとり残されることになるのはもはやいうまでもない。

●マサチューセッツ総合病院のカルテ
 いまだにカルテを書く必要はない、全て俺の頭に入っているというドクターがいる。そのようなドクターにアメリカのマサチューセッツ総合病院のカルテに書かれていることを読んでいただきたい。
 @ カルテは病院の財産である。決して主治医のものではない。
 A したがってカルテは誰もが使えるところに置き、主治医の背中のところにあ
  るファイリングボックスにおいてはいけない。
 B カルテに書いていることだけが患者さんに対して行われたこと。書いていな
  いことは行われていないとみなす。
 この3つがすべてを語っているといえる。

●患者さんとの信頼関係
 患者負担が高い医療機関すなわち1件当たりのレセプト単価が高いところは「患者離れ」をおこすと言われている。たとえばアレルゲン検査(特異的IgE)を12項目実施しますと2,000点になる。3割窓口負担だと、これだけで6,000円の患者負担になる。まさか、この検査を患者に何も説明をしないで実施するドクターはいないと思うが、説明が十分ない場合に会計窓口でトラブルが発生することになる。「貴方のアレルギーの原因を調べるためにこの検査を行います。会計は6,000円になりますけど宜しいですか。」という一言が必要である。
 患者さんが会計を高いと思われるのは十分な説明がないからに他ならない。コストの低さだけで医療サービスを求めるならば、全額保険外の高額な人間ドックはこれほど繁栄していないはずである。満足する説明を行えば、開示されたレセプトとの認識のズレは生じることはないであろう。もっとも、そこには「お互いの信頼関係」が生まれているため、患者さんからのレセプト開示要求はありえないことになる。
 個別のレセプト点数が高いと審査側からにらまれるのではと気にするドクターがいる。なぜ、高いかを説明できない場合はその通りブラックリストに載ることとなる。しかし、臨床上、どうしても必要で患者に対して十分な説明を行い、カルテ記載された結果によって請求されたレセプトは万が一開示要求があっても何も恐れることはない。患者に対する細かな説明と記録が書かれたカルテは、結果として患者サービスの向上になるものであり、そのカルテはアメリカ並に医療訴訟が多くなった場合のリスクマネージメントにも十分対応できるものとなるのではないか。

 


会員資料室に戻ります。