ネコやイヌからうつる病気

永井皮ふ科医院
永井 純子


 ペットブームとともにペットによるアレルギーや感染症も知られるようになってきました。 猫や犬はペットブーム以前の昔から最も身近にいる動物ですが、核家族化や高齢社会の中にあって今や癒しの役割を担い、「仲間」あるいは「家族」として扱われるようにもなっています。そうして直接的接触が増加することはこれらのペットから病気がうつる機会が増えることにつながります。今回は犬猫から稀ならず感染する皮膚疾患をいくつか挙げてみます。

(1)パスツレラ(皮膚)感染症
 パスツレラ属菌が咬傷や掻傷から感染して起こります。この菌はヒト以外の多くの哺乳動物や鳥類の口腔内にいる菌ですが、猫での保菌率がとりわけ高いことが知られています。受傷から24時間前後のうちに局所が赤く腫れて痛くなり、急速に炎症が進行します(写真1)。多くの抗生物質が有効ですが、高齢者や基礎疾患(糖尿病など)がある場合、ときには重症化し全身感染症となる例もあります。皮膚のほか呼吸器感染症を起こす菌でもあり、抵抗力が落ちている方はペットとの接触でも注意が必要です。

(2)猫ひっかき病
 名前の通り主に猫に手や腕などを引っ掻かれてバルトネラという菌がついて起こる病気です。秋から冬に多く起こります。受傷部に虫刺されのような皮疹が数日後に現れ、さらに1〜2週後に受傷側の近くのリンパ節が痛みを伴って大きく腫れてくるのが特徴です(写真2)。発熱や頭痛を伴う場合もあります。皮疹が現れない例もあります。軽症例は6〜12週で自然に治りますが、中等度以上の場合は症状の軽減や治療期間の短縮のため抗生剤が投与されることもあります。感染猫には通常ほとんど症状はありません。感染猫に寄生していたノミを介してうつる場合もあります。

(3)白癬
 白癬とは水虫やたむしを起こすカビ(白癬菌)による病気です。犬猫(とくに猫)からうつりやすいミクロスポルム・カニスという白癬菌で起こる白癬があります。顔面や四肢などの露出部に小型で丸い湿疹に似た皮疹が出る例や、頭にカサカサした脱毛斑が見られる例があります。感染動物では炎症の少ない脱毛斑が特徴ですが目立たないこともあります。飲み薬での治療が必要な場合も多い疾患です。感染動物の治療はもちろん必要です。

(4)動物疥癬
 動物につくヒゼンダニによって起こります。感染動物と接触する腕や胸の部分にかゆみのある赤いぶつぶつが多数できます。ヒト疥癬と異なり、動物疥癬はヒトに一時的に寄生しても繁殖はしないのでペットの治療をすれば自然に良くなっていきます。

(5)ノミ刺症
 大部分はネコノミに吸血されて起こるものです。夏に被害が多発します。ノミは跳びついて吸血するのでとくに膝から下の足首付近に激しい痒みを伴う赤いぶつぶつや水ぶくれが集中する傾向があります(写真3)。刺されて大きい水ぶくれになる人から刺されても無反応の人まで皮膚症状には個人差があります。治療はステロイド外用剤や症状によって抗アレルギー剤やステロイド剤の内服を併用することもあります。ノミは宿主を選ばず、ヒトやイヌも刺すため前述の猫ひっかき病の菌を媒介することも要注意です。ノミの成虫の駆除だけでなくネコの生活圏にある卵や幼虫などの駆除も必要です。

 以上、犬猫からうつる病気について説明しました。皮膚に気になる症状がみられたら最寄りの医療機関にご相談下さい。

(写真1) (写真2) (写真3)