胃食道逆流症について

宇部市医師会内科医会


最近テレビの広告や情報番組等で話題となることもあり逆流性食道炎や胃食道逆流症という言葉を耳にされた方も多いのではないでしょうか。

 胸やけや胸痛を訴えられ病院を受診される方で食道病変を疑い上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)をしてみたところ食道の下部粘膜にただれているところが見つかり逆流性食道炎と診断に至るケースがあります。このように食道炎が認められたものだけを以前は逆流性食道炎と診断していましたが実際は30〜40%の割合で内視鏡検査上で異常が認められない事も多いため、最近では食道炎の有無に関わらず食道内への胃酸などの胃内容物逆流による症状があれば胃食道逆流症(英語ではGERD、gastroesophagealreflux disease の略です)と呼ぶようになりました。

 ひどい胸焼け症状を訴えている人で胃カメラをしてみると重症の食道炎を起こしている人もいれば軽症の食道炎だけの人もいます。または食道炎の変化すら全くない人(非びらん性胃食道逆流症と呼んでいます)もいます。一方で軽い症状しかないのに重症の食道炎になっている人も多く、症状の強さと食道炎の重症度とは必ずしも比例するとは限りません。そのため自覚症状と食道炎のいずれかが医学的対応(=治療)を必要とするレベルに達しているようであれば胃食道逆流症と呼ぶようにしています。

1.症状

 胃食道逆流症の定型的な症状は胸やけですが、胸やけとはどんな感じかというと「胸骨の後ろに感じる焼けるような灼熱感」を一般的に言います。他の症状では口の中で酸っぱい水が上がる感じ(呑酸)、過度のげっぷ等も有名ですが、それ以外狭心症様の胸痛、長引く咳や喘息様症状、咽頭痛、嗄声、耳痛など実に多彩です。そのため循環器科や耳鼻科や呼吸器科など色々な科を受診する事も多く、また内科を受診していても直ぐに診断にたどり着くとは限りません。以上から患者さんもどのような症状がいつ、どのくらい時間をかけて起こっているのか等、自覚している症状を出来るだけ詳しく医師に話すことができるかが診断をつける早道であり大切な事です(医師にとっても大事な情報となります)。のどの違和感、声がしわがれる、長引く慢性的な咳等も症状の1つであることはぜひ覚えておいて欲しいところです。

2.原因

 食道と胃の境界には逆流防止機構が存在しています。これは下部食道括約筋と言われ弁のような働きを有しており、食べ物の通過がない場合は食道をしっかり閉鎖し、胃内容物が食道内に逆流しないような仕組みになっています。逆に食事をした時には嚥下運動とともに一過性に下部食道括約筋が弛緩して食べ物が胃の中に入るようになっています。しかしこの逆流を防ぐ機能が低下すると食道に胃酸が逆流しやすくなります。胃食道逆流症の方では胃の伸展刺激や胃からの排泄遅延が加わることでこの一過性下部食道括約筋弛緩現象の頻度が多くなり、症状が出現すると考えられています。

3.検査方法

 ではどのように診断するかです。まずは(1)特徴的な症状の有無を把握すること(問診)(2)内視鏡検査は必要であり食道に炎症(ただれ)があれば逆流性食道炎と診断。しかしすべてに炎症所見があるわけではない。この様な時に胃内容物の逆流を証明する方法として(3)食道内pHモニタリング検査がありますが簡単な検査方法ではなく一般的ではない。(4)症状のある方にプロトンポンプ阻害剤という薬を短期間や試験的に投与することにより症状の改善があるかどうかをみる方法で効果があれば胃食道逆流症と診断する

4.治療方法(内服治療を中心に)

 生活習慣の改善と胃酸分泌抑制剤の内服を中心とした内科治療が基本で、これで効果がなく症状が強い場合には手術を考慮します。生活習慣の改善については次に述べますので、ここでは内服治療について解説します。治療は1)逆流を止めるか2)逆流しても酸を弱めるかのいずれかであり、最も強力で効果が高い薬は胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤と呼ばれる薬で、次がH2受容体拮抗剤です。他は消化管運動改善剤(シサプリドなど)や他には制酸剤、アルギン酸(これは酸を中和させることで酸の刺激を減らすものです)があります。

 プロトンポンプ阻害剤は1日中胃酸の分泌をほぼ抑制し、しかも食後の胃酸逆流も抑制するため最もよく使用されます。しかし胃酸の分泌は抑えられても胃液の食道への逆流を直接抑えることはできないため場合によっては薬を止めると症状は容易に再発することもあります(実際は薬だけで症状を完治することは困難なことが多い)。それではいつまで薬を飲み続ければ良いかですが経過良く症状改善すれば内服を中止して経過を診ていくこともあります。しかし残念ながら内服中止後半年ほどで症状再燃する方が多いのが現実です。内服だけでの完治は困難ですが日常生活の注意、改善をすることで不快な症状もなくなり平穏に生活を過ごせるようになれば薬は不要となります。ただし難治性の方や再燃繰り返す人は内服を長期継続(維持療法)された方が賢明です。

5.生活習慣の改善

 生活習慣の改善が最も重要です。なぜなら、改善がなければ治療にも限界があり、先ほど述べたように内服中止後に再発する危険性があるからです。以下(1)〜(5)はできるだけ控えてください。(1)食べ過ぎ:食べ過ぎた後は過剰な力が胃にかかるため、その力を逃がすべくげっぷとして空気を口へ逃がすと同時に酸の逆流も起こす。(2)早食い:よく噛まずに飲み込むと食べ物と一緒に空気をたくさん吸い込んでしまうため。(3)高脂肪食:脂肪の多い食事を摂取すると一過性に下部食道括約筋弛緩を起こす。また脂肪の多い食事以外にも香辛料、酢の物、コーヒー、たまねぎ、かぼちゃ、さつまいも、トマト、酸度の高い柑橘類、チョコレート、ケーキ、甘味和菓子等は胸やけを起こしやすく、調子の悪い時は極力控えたほうが賢明です。それ以外でも食べて胸やけを起こした経験があるものは極力避けてください。(4)アルコール、喫煙:胃酸逆流に悪影響があると報告。特にビールやシャンパンなど発泡性があるもの。(5)食べてすぐ寝る:食後はもっとも胃酸逆流が起こり、寝ている時間帯が逆流発生時間となるため。寝ると胃酸が長時間食道内にとどまるためよくないです。横になると胸やけがする場合には枕や座布団で上半身を高く、また食後2 時間は横にならない方がよい。
 その他、体型の問題もあります。肥満や高齢の方で背中が丸くなった人、妊婦さん等はおなか全体が圧迫され逆流がおこしやすくなります。また便秘も腹圧を上昇させ逆流を起こしやすくします。同様にベルトやヘルニアバンド、コルセット等を強く締め付けると腹圧が上昇するので可能な範囲内でゆるめにしてください。胃を圧迫するような前屈み姿勢は逆流を起こすため、長時間にわたる前屈みでの作業は控えてください。

6.最後のまとめ

 もし胃食道逆流症を放置しておくとどうなるかですが、軽症の場合であれば放置してもほとんど変化がないか自然軽快することもあるようですが、上記のように生活習慣が守れず不適切な生活習慣を続けてしまうと重症化し生活の質の悪化を招き、食道狭窄や出血、食道炎を繰り返していると治癒過程でバレット食道という状態に変化し、ここから食道腺癌という特殊なタイプの癌ができることも稀にありますので注意が必要です。以上のようにならない為にも早めの治療が大切ですので症状あれば、お近くの医療機関を受診することをお勧めいたします。

 また稀に高血圧治療薬のCa 拮抗剤や喘息治療薬のテオフィリン製剤等では下部食道括約筋弛緩により逆流を起こすことがあります。これらの薬を飲んでいる方でひどい逆流症状の出現や、症状が強くなった場合には通院されている主治医にご相談してください。