予防接種と子どもたち
「世界に遅れていた予防接種」

鈴木小児科医院
鈴木 英太郎


予防接種は人類を恐ろしい感染症から救ってきました。天然痘、ポリオ、麻疹、ジフテリア、破傷風、百日咳、風疹、結核などはよく知られたものです。
 しかし、日本では予防接種は外国の約半数の種類しか接種されていませんでした。外国ではB型肝炎、インフルエンザ菌b型(ヒブ)、肺炎球菌、水痘、おたふくかぜなどは定期接種となっており、国の責任により無料で実施されています。
 重症化しやすい細菌性髄膜炎は、全国で1年に約600人が発症していました。原因菌は、インフルエンザ菌と肺炎球菌が多数を占めています。細菌性髄膜炎で命を落としたり、重篤な後遺症に悩まされたりしている児の親たちは、外国で接種が一般化されているのに日本で接種出来ないのは医療行政の怠慢であると訴えています。最近になって国も重い腰を上げこの2者は定期接種となりました。これもまず任意接種を認め平成25年4月1日より定期接種化されました。その結果、怖い細菌性髄膜炎の発生数は激減しました。
 しかしまだ任意接種となっているワクチンが数種類残っています。B型肝炎、おたふくかぜ、ロタウイルスなどです。これらも早く定期接種化されることを願っています。
 定期接種化されるまでは市町レベルで予防接種料金の助成が要望されているところです。これは、全国の市町の対応がまちまちで助成金についても全額支給するところから半額支給するところなど様々ですが、助成金を全く出さないところも多いです。
 日本は予防医学については医療保険には入っていません、又、子育て支援として考えると先進国では小児の医療費は無料扱いが多いのが実情です。日本は、子どもにかける予算の割合がフランスの1/3と言われていますが、もう少し子育てにかかる費用を国が負担すると予防接種も先進国に遅れをとらないでしょう。
 他に予防接種が遅れた理由を挙げるとすると、副反応の問題もあります。しかし副反応についてはワクチンも改良され、問題はほぼ解決されています。
 ワクチン効果は絶大な恩恵を人類に与えていますが、風疹を例にとってみますとここ1〜2年の関東を中心とした大流行で先天性風疹症候群が40名近く発症しており、今年さらに多くの症例が追加発症するでしょう。先天性心疾患、白内障、難聴などを伴って生まれてくる児はワクチンさえ接種していれば防げたはずです。
 次に用語の問題があります。以前は定期接種は「義務接種」と称されましたが今は「勧奨接種」といいます。義務接種とすると国が接種を押し付けたようにとられるのを避けたためです。予防接種事故(副反応の強い例)にあたって裁判になると国が責められるのを回避する意図があります。あくまで保護者の意志で接種を行ったことが大切になります。任意接種となるとさらに国は責任をとらなくてよいことになります。
 集団生活に入るときのチェック態勢も問題です。保育園、幼稚園、小学校入学の予防接種未接種でも入園、入学出来ることです。先進国では考えられないことです。
 副反応といっても重篤なものは極めて希であり、実際は予防接種の副反応ではない他の要素の紛れ込みも多くみられます。予防接種から受けるメリットを考えれば比べものになりません。有害事象という現象をとらえる表現があります。これは予防接種を受けた後に起こり得た症状を全てとらえます。例えばかぜをひいて発熱、咳、鼻汁、下痢、嘔吐など全て有害事象ととらえます。
 予防接種を採用するための試験接種を治験といいますが、このときの調査では有害事象は全て列記されます。有害事象と副反応を混同されることも多々あります。
 最近まで問題になったものは日本脳炎のADEM(急性散在性脳脊髄炎)、ポリオ生ワクチンによるポリオ様麻痺、おたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎が主なものです。
 日本脳炎ワクチンは、ワクチン製造過程においてマウスの脳でウイルスを増殖させていましたがサルの腎臓細胞から由来したMK細胞を用いてクリアな培養ウイルスが採れています。従って従来のマウス脳に由来するアレルギー反応は起こらなくなっています。
 ポリオ生ワクチンは1960年に全国で6000人のポリオ発生に対して、国が生ワクチンを緊急輸入して対応したため、翌年からポリオの流行はなくなった劇的なワクチン効果です。しかし、ポリオの流行がなくなると1年に1〜2名ほどワクチンによるポリオ様麻痺患児が発生することに悩まされました。やっとポリオ不活化ワクチンにとって代わってポリオ副反応の問題は解決されました。外国に10年〜20年は遅れました。
 おたふくかぜワクチンは、日本が採用した種ウイルスでは無菌性髄膜炎が500〜1000人に1人の割合で発生することが分かり問題となりました。自然に罹るおたふくかぜによる無菌性髄膜炎の方が症状も強く頻度も高いのでワクチンの方が有利なことは明らかです。難聴の重篤な合併症も防ぎます。年齢の低い1歳〜2歳代に接種すると無菌性髄膜炎の合併症も起こしにくいことが分かってきました。
 任意接種扱いとなって未だ定期接種化されていないB型肝炎ワクチン、ロタウイルスワクチン、おたふくかぜワクチンの早期定期接種化が望まれるところです。
 宇部市は平成22年4月1日からヒブワクチンの早期からの助成制度を実施し、引き続いて平成26年1月6日からロタウイルスワクチン、水痘ワクチンの半額助成を実施してきました。H26年10月からの水痘ワクチン定期接種化にともない、おたふくかぜワクチン、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌13価ワクチンの補助的追加接種などの助成が期待されます。宇部市のワクチン助成制度は県下あるいは中四国地方では先頭を行くもので他の市町村の模範となっています。乳幼児の安心安全、子育て環境整備の模範となっているすばらしい市です。ワクチン接種の必要性を理解するとともに接種率の向上に最大の努力をしましょう。