強迫性障害

水木神経内科
水木章夫


・わかっちゃいるけど止められない
 「強迫性障害」とは、強い「不安」や「こだわり」によって日常に支障が出る病気です。
「ドアに鍵をかけたか?」「鍋の火を消したか?」と、不安になって家に戻って確かめたなどという事は多くの人が経験することです。また、数字などにこだわることもよくあります。
その不安やこだわりが度を超しているなと感じることはありませんか?
戸締まりや火の元を何度もしつこく確認しても安心できなかったり、特定の数字にこだわって生活が不便になったりしている場合は「強迫性障害」かもしれません。
強迫性障害は不安障害の一種です。
たとえば「手が汚い」という強い不安から何時間も手を洗い続けたり、肌荒れするほど消毒をくりかえすなど、明らかに「やりすぎ」な行為をともないます。

 欧米では、精神科外来に通う患者さんのうち9%が強迫性障害であると言われ、日本の精神科外来では4%前後との報告があります。
ただしこれは、日本の強迫性障害の人が少ないという意味ではなく、障害を性格と思って受診しなかったり、精神科を受診することにためらいがあって、日常の不便を我慢している人が多いと考えらます。
全人口のうち強迫性障害にかかっている人は1、2%、50〜100人に一人の割合といわれています。

・治療すれば治すことができる病気
 強迫性障害の発症には、性格、生育歴、ストレスや感染症など、多くの要因が関係していますが、原因ははっきりとはわかっていません。
しかし、解明が進んでいる部分もあり、積極的に治療に取り組めば治る病気です。

・強迫性障害の症状
 強迫性には「強迫観念」と「強迫行為」の2つの症状があります。
強迫観念とは、頭から離れない考えのことで、その内容が「不合理」だとわかっていても、頭から追い払うことができません。
強迫行為とは、強迫観念から生じた不安にかきたてられて行う行為のことで、「やりすぎ」「無意味」とわかっていてもやめられません。

・代表的な強迫観念と強迫行為の種類

・不潔恐怖と洗浄
 汚れや細菌汚染などの恐怖から過剰に手洗い、入浴、洗濯などをくりかえしたり、ドアノブや手すりなど不潔だと感じるものをさわれない。

・加害恐怖
 何でもないと判っていても、誰かに危害を加えたかもしれないという不安がこころを離れず、新聞やテレビに事件・事故として出ていないか確認したり、警察や周囲の人に確認する。

・確認行為
 戸締まり、ガス栓、電気器具のスイッチを何度も確認したり、指差し確認したり、手でさわって確認したりするなど。

・儀式行為
 自分の決めた順番でものごとを行なわないと、何か恐ろしいことが起きるという不安から、どんなときも同じ方法や手順で仕事や家事をしなくてはならない。

・数字へのこだわり
 不吉な数字・幸運な数字に、縁起をかつぐというレベルを超えてこだわる。

・物の配置、対称性などへのこだわり
 物の配置や対称性にこだわりがあり、必ずそうなっていないと不安になる。

・日常生活への支障がでている
 強迫性障害は、誰もが生活のなかで普通にすること(戸締まりの確認や手洗いなど)の延長線上にあり、「自分は少し神経質なだけ」なのか「ちょっと行き過ぎか」という判断は難しいところです。

もしも次のようなサインがあれば、専門の医療機関に相談することを考えてみてください。

・日常生活、社会生活に影響が出ている
 手洗いや戸締まり確認に異常に時間がかかったり、火の元を確認しに何度も家に戻る結果常に約束や仕事に遅れたり、日々の強い不安や強迫行為により心身が疲労して健全な日常生活が送りにくい。

・家族や周囲の人が困っている
 火や戸締まりの確認を家族にも強制したり、消毒を強要するなど、周囲の人を強迫観念に巻き込むことが多くなり、その結果人間関係がうまくいかなくなる。
家族や友人など周囲の人が困っている様子なら、自分では「病気というほどひどくない」と感じていても、念のため受診を考えるべきです。

・強迫性障害の治療法
 強迫性障害の治療には、次の2つの療法を組み合わせるのが効果的だとされています。

・認知行動療法
 再発予防効果が高い「曝露反応妨害法」が代表的です。
これは患者さんが強迫観念による不安に立ち向かい、「強迫行為をしないで我慢する」という行動療法の一つです。
 たとえば、汚いと思うものをさわって手を洗わないで我慢する、留守宅が心配でも鍵をかけて外出し、施錠を確認するために戻らないで我慢するなどです。
 こうした課題を続けていくと、強い不安が弱くなっていき、やがて強迫行為をしなくても大丈夫になっていきます。

・薬による治療
 患者さんの多くは、強迫症状や抑うつ、強い不安感があるので、まず抗うつ薬のSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)で状態を安定させてから、認知行動療法に入るのが一般的です。
 服薬量はうつ病よりも高用量で、長期間の服薬が必要です。
最初は少量から始め、薬との相性を見ながら服薬量を増やしていきます。
SSRIはほかの抗うつ薬に比べると、副作用は軽いのですが、服用を始めてから体調が悪い気がするなど不安があれば、すぐに医師に相談するようにしましょう。
 強迫性障害の治療では、薬の服用量の多さに不安を感じがちですし、認知行動療法がつらくてイヤだと感じることもあります。
しかし、医師から十分な説明を聞き、病気や治療のことを理解できれば、必要な治療なのだと納得できます。
治療法は、個々の患者さんに合わせて決定されるので自分が不安に思うこと、治療法の希望などがあれば、医師に相談してください。