便秘症

セントヒル病院
消化器内科
檜垣 真吾



 近年、便秘症と診断される患者さんは増加傾向にあります。便秘症は、若い方では女性に多いのですが、年齢が上がるにつれて男女差はなくなっています。便秘症は、身体的、精神的な生活の質の低下につながるだけではなく、心臓病の悪化や大腸がんの発生とも関連しているため、常日ごろから十分注意し、治療しなければなりません。ここでは、一般に経験される便秘症と特殊な便秘症にわけて説明します。

1.一般的な便秘
 便秘は、週に2〜3回以下と排便回数が減少し 硬い便、兎糞状の便の排出、排便困難感、残便感が現れる状態です。
 便秘は、運動不足と食物繊維の少ない食事が原因と考えられます。1週間に1回以下しか運動をしない人は、毎日運動する人の2倍の頻度で便秘症になります。 食物繊維の少ない食生活の人は、1日20g以上の食物線維をとる人に比べ1.5倍便秘になり易いと言われています。
 便秘には、急性便秘と慢性便秘があります。旅行や転居など環境の変化に伴って発生するのが急性の便秘で、運動不足などで長期に現れるのが慢性便秘です。  
 便秘は、まず初めに、生活習慣の改善と食事療法で治療を行います。1日20分間のウォーキング程度の運動を毎日欠かさないことが大事です。必要な摂取水分量は食事以外で1日に1.5Lから2Lです。きめ細くに補給しましょう。食事は繊維質の多い食物を食べることが大事です。そば、玄米、おから、豆類、ドライフルーツ、海藻などを食べましょう。 排便習慣をつけるためには、起床時に冷たい水や牛乳など一杯飲む。朝ごはんは必ず食べる。これによって腸管の動きが活発になります。便意が無くても便器に5分間は座ることで排便習慣をつけます。 もし下剤を内服するのであれば、バルコーゼなどの膨張性下剤を使って腸管の運動を促進します。
 上記で軽快しない場合は、マグネシウムなどの水分を保持して便を軟化させる浸透圧性下剤を使用します。最近は、小腸からの水分分泌を促して便を軟化する薬剤アミティーザが使えるようになりました。
 それでも、便秘症が改善しない時には、腸管運動を強制的に活発化させる刺激性下剤や排便反射を誘発する浣腸、消化管運動賦活薬を使用します。刺激性下剤には、センナ、センノシド、アロエ、コーラックなどがありますが、長期連用によって、大腸の神経や筋組織を損傷し難治性便秘症になります。従って、刺激性下剤は常時使用するのではなく、必要時に服用する屯用での使用が原則です。
 高齢者は、生活習慣の改善や食事指導による便秘の改善だけではうまく治療できないことも多いので、早い段階から食物繊維のサプリメントや浸透圧性下剤を用いています。

2.大腸がんによる便秘、薬剤による便秘、その他の病気に伴う便秘。
 私たちは、便秘を訴える患者さんを診療する場合に、次の項目が該当する場合は、大腸がんによる便秘症の可能性を考え精密検査をお勧めしています。

1. 最近発症した便通異常。
2. 体重減少。
3. 大腸がんの家族歴。
4. 直腸からの出血。
5. 50歳以上。

 このような項目に当てはまるようでしたら、早めに医療機関を受診してください。
 薬剤性便秘の原因となる薬剤には、高血圧の薬、抗うつ薬、カルシウム製剤や鉄剤などがあります。
 その他、病気による便秘症には、パーキンソン病、脳血管障害、糖尿病、甲状腺機能低下症など腸管運動障害を合併する病気が原因で便秘症が現れます。

3.特殊な便秘症
腸の排便機能の障害による便秘症です。排出障害型と通過遅延型の2つの型があります。
 排出障害型は、排便の時の肛門括約筋の弛緩がなく、逆に緊張するため排便困難となる便秘です。図のように、いきんだ時に、肛門括約筋の過緊張で肛門管の圧が直腸の圧よりも高くなり排便困難となる便秘症です。(図1) 特殊な直腸肛門機能のリハビリテーションが必要となります。
 通過遅延型は、腸全体の運動低下や便を運ぶリズムが失われておこる便秘症です。海外の研究では、大腸通過時間は便秘がない人では30時間ですが、通過遅延型では60時間以上かかっています。通過遅延型は、食物繊維の食事療法は効果がありません。浸透圧性下剤から使用し、小腸の水分を増加する薬剤、刺激性下剤などを2〜3剤組み合わせて用います。 それでも効果がなければ、外科手術で結腸を切除します。


4.終わりに
 便秘症について概説しました。安易に薬にたよらず、日頃の運動と食生活に注意して便秘を改善してください。便秘症も原因は様々ですから、難治性の便秘の場合は消化器内科の先生に是非ご相談ください。

図1
いきんだ時に肛門括約筋の緊張で直腸内圧よりも肛門管圧が高くなり便秘となります。