コロナ禍において、改めてフレイルを考えてみる。

宇部興産中央病院整形外科
桑原 嘉一


はじめに
 出口の見えないコロナ禍により、多くの方が自粛生活を余儀なくされておられると思います。特に高齢者への影響は顕著であり、外出を控えすぎて、生活不活発による筋の委縮・筋力の低下により、立ち上がり動作や歩行、階段昇降などの日常生活活動動作さらには精神面にも多大な悪影響があることは容易に推測されます。
 最近、ずっと家に閉じこもり、人との接触・会話はなく、食欲も減ってきている。これらは、フレイルのサインです。
 この度は、フレイルという概念を再認識し、このコロナ禍への対応法を学びましょう。

フレイルとは?
 身体的問題(筋力の低下、動作の俊敏性低下、転倒リスク増加)、精神・心理的問題(認知機能障害、うつ)、社会的問題(独居、経済的困窮)が複合的に密接し、健康と要介護のはざまの状態(=虚弱・老化)にあることです。
 ただし、早期に介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があります。

コロナ禍によるフレイルの悪循環化
 コロナ禍下での自粛生活は、フレイルの悪循環に拍車をかけています。
 自粛生活が長くなるにつれ、以前の生活以上に活動性・筋力が低下が起こり、バランス障害や転倒・骨折を引き起こし、移動困難になり、さらに筋力が低下します。
 活動性が落ちれば、食欲・栄養摂取も落ち、さらに筋力低下を引き起こします。
 また、趣味などの活動から遠ざかり、人と接する機会が減少し、生活への意欲もさらに悪化し筋力が低下するといった、このようなフレイルの悪循環の加速化が最も危惧される問題です。

生活習慣病とフレイル
 さらには、生活習慣病の治療へも影響があります。たとえば血圧異常に関して、フレイルでは起立性低血圧、起立性調節障害の割合が増加し、予後も悪いとされています。また、糖尿病については、糖尿病がフレイルの発症リスクを増加させるとともに、フレイルが糖尿病の発症リスクを増加させると言われています。 
 
コロナ禍の収束を待つも時すでに遅し。むしろ、迎え撃ちましょう!
 要介護とならないためにも、自発的にフレイルの悪い連鎖を断ち切る必要があります。
 とりわけ、運動、栄養・口腔衛生、コミュニケーションの3点が特に重要になります。

運動−少しでも、動く時間を増やしましょう。
 人との距離をとったうえでウォーキングなどの運動は推奨されます。また、歩行が難しい方も自宅でもできる運動で体を守ることができます。
 スクワット・片足立ち・足踏みでの筋力アップや、太もも裏筋肉ストレッチなど効果的です。
 自宅での運動方法は、厚生労働省のサイトにて各地域で作成された有益な動画が紹介されています。是非、ご参照ください。

栄養・口腔衛生−食生活・口腔ケアをしっかりと。
 3食欠かさずバランスよく栄養をとりましょう。特に、タンパク質(筋肉のもとになる−肉・大豆・魚等)、ビタミンD(筋肉をつくるのを助ける−きのこ類)を強化しましょう。
 毎食後寝る前に歯磨き(肺炎予防)をしっかりと行いましょう。

コミュニケーション−人とのつながりを作りましょう。
 引きこもりを防ぎ、心身の健康を保つために、人との交流や助け合いが大切です。
 高齢であればなお更、パソコン・タブレット・スマートフォンなどでSNSを積極的に活用し、家族・友人と交流できるように心がけましょう。認知機能を維持し、友人同士や家族と状況を共知できれば、何かの緊急の際にお互いの助けになります。

 いずれも、自分の状況を知り、自分でもできる事から、適切な対応をとる事が重要です。

さいごに
 今後の新しい生活様式の中、自ら要介護に向かわないために、心身ともに積極的に活動できるように取り組んで、このコロナ禍という難局を乗り越えていきましょう。

《自宅でできる体操動画》 厚生労働省ホームページより抜粋
〇高知県高知市
 いきいき百歳体操(簡易版)
〇茨城県(茨城県立県工プラザ) 
 シルバーリハビリ体操チャンネル
〇東京都理学療法士協会
 理学療法士による自宅でできる効果的な運動ガイド
〇新潟県理学療法士協会
 生活不活病に負けるな!一日ちょっとずつ体操
〇スポーツ庁 
 新型コロナウイルス感染対策 スポーツ・運動の留意店と、運動事例について