起立性調節障害

いのくまこどもクリニック
猪熊和代


 一般の小児科外来を受診する思春期年齢の患者さんの6%程度の方が、起立性調節障害と診断されているとの報告があります。起立性調節障害は、起立性低血圧が主要な病像ですが、他の自律神経の機能異常に関連する症状がさまざまに組み合わさってともなっていることも多い病気です。

主な症状は、

(1)朝なかなか起き上がれない
(2)体がだるく全身倦怠感がある
(3)立っていると気分が悪くなるひどいと倒れる
(4)立ちくらみ、めまいを起こしやすい
(5)頭痛をしばしば訴える
(6)入浴時あるいはいやなことを見聞きすると気持ちが悪くなる
(7)食欲不振やよく腹痛を訴える
(8)少し動くと動悸あるいは、息切れがする
(9)乗り物に酔いやすい

などです。

 症状は午前中に強く、午後からは体調が回復します。そして夜には元気になり、なかなか寝つけないことがあります。
 ただしこのような症状は他の病気でも認められます。
 たとえば、消化管疾患、甲状腺機能異常、血液疾患、一部の脳腫瘍などの器質的疾患の初期などです。これらの病気の可能性がなければ、起立性調節障害と診断するための、検査をおこないます。健康な人は、立ち上がると心臓に戻る血液量が、重力の関係で少なくなり、血圧が下がります。ここで自律神経が働いて、ただちに血圧を上げて回復し、その後は横になっている時よりも高い血圧で安定します。しかし起立性調節障害の人は起き上がった直後に強い血圧の低下がおこり、なかなか回復しない、あまり血圧は下がらないけれども非常に心拍数が増える。立ち上がった直後は血圧は上がるが、しばらくして血圧が下がってしまうなど、血圧や心拍の変化に対する調節機能がうまく働きません。そこで心電図をとりながら、安静と起立を繰り返して、血圧・心拍数を測定し、このような機能の異常がないかを調べます。

 起立性調節障害と診断されたら、まず日常生活や、学校生活でいくつかの心掛けて頂きたいことがあります。

(1)水分をしっかりとる
(2)寝た状態や、座った状態からゆっくり立ち上がる
(3)朝起きる時は、少し頭を下げて歩き始める
(4)早寝、早起きなどの生活のリズムを整える
(5)毎日運動に心掛ける
15分程度の散歩はおすすめです。

 以上のようなことを心掛けても症状が続くときは、お薬を飲んで頂くこともあります起立性調節障害は、自律神経が関係している疾患です。そのため心理的社会的なストレスをうけると症状がひどくなることも、しばしばです。全身倦怠感のためにゴロゴロしていることが多く、更に朝起きも不良となり、次第に遅刻や欠席を繰り返すことが多くなります。
 周囲からは怠けていると思われ孤立しまいがちになり、更に症状が強くなると言う悪循環に陥ります。まずはお子さんが、不安や葛藤を訴えやすい関係を築くことが大切です。簡単なことではありませんが、自己肯定感を維持できるように見守り、不安に寄り添って、一緒に考えていきましょう。
 多くの方は、思春期以降次第に症状は改善していきます。不登校や抑うつなどの二次障害をおこさないためにも、適切な治療をうけ、まわりの方達にも 、この病気のことを理解して頂きたいと思います。