宇部市医師会だより
医療制度改革の裏を読んでみる
-米国に蹂躙される日本の医療-
今年10月1日から郵政事業が民営化されました。この郵政民営化は小泉首相の執念だけ で行なわれたものではなく、背後にはアメリカの強い要望があったのです。それは年次改革要望書に明記されていました。年次改革要望書は、1993年宮沢首相とクリントン大統領との会談で決まったもので、米国は94年以来日本政府に取り組む課題を毎年突きつけてきています。米国が自国に都合がよいように日本を改造していこうという計画書といったらよいでしょうか。米国から日本への要望書については在日米国大使館のホ-ムペ-ジで日本語訳されたものが公開されています。米国から要望が施策として実現された例としては、建築基準法の改正や法科大学院の設置の実現、人材派遣の自由化といったものが挙げられます。郵政民営化もこの要求項目のひとつであり、07年4月と期限を切っての要求でありました。さらに医療制度改革にも要望を出してきているのです。郵政と医療は一見何の関係もないようにみえますが、実は一本の糸でつながっているのです。その糸の名は「保険」です。すなわち前者は120兆円といわれた簡易保険であり、後者は言うまでもなく健康保険であります。どちらにも日本に圧力をかけてきたのはアメリカの保険業界なのです。
また日米投資イニシアティブ報告書(06年版)には混合診療の解禁や株式会社の参入の解禁が記されています。混合診療につきましては前回お話しましたが、混合診療が認められますと、公的医療保険でカバ-できない部分はお金を払ってくださいということです。そうなれば、誰だって心配になり、自由診療部分に対応するため民間の医療保険に入って何とかしようとするはずです。つまり民間保険会社にとっては、そこに新たな市場が生まれるということです。いま、テレビをつけていると、外資系保険会社のCMがたくさん放映されています。新聞も同じで、アメリカ系保険会社の全面広告をみかけます。外資系保険会社には混合診療の解禁がすでに視野に入っているのでしょう。
またアメリカは医療への株式会社の参入を目論んでいるのですが、医療機関を株式会社化するためには、公的医療を崩壊させなければなりません。そこに民間医療保険が入ってくると同時に、医療を株式会社化して、日本の病院をアメリカの巨大な病院株式会社が買っていくシナリオを描いているに違いありません。現在日本の公的医療保険の下では病院を買収しても儲かりませんから、混合診療を解禁し国民皆保険制度を壊す必要があるのです。考えてみれば恐ろしいことを日本に要求しているものです。アメリカは日本のために医療改革をするのではなく、自国の利益のためだけに医療を変えていこうとしています。しかしこのことを取り上げた番組や新聞記事はみかけません。莫大な広告料を受け取っていては、混合診療解禁の裏にはアメリカの保険業界の圧力があるとか、医療制度改革すなわち公的医療費抑制はアメリカの保険会社のビッグチャンスになるなどということをテレビや新聞が論説できないのかもしれません。
誰もが平等に医療を受けられる日本が世界に誇る国民皆保険制度をアメリカのような邪な考えで崩してはなりません。しかしながら、年次改革要望書ならびにその受皿である経済財政諮問会議や規制改革会議が存在する限り、アメリカが日本の医療の改造を諦めることはありません。ただ国民の声のみが阻止できるのです。
(宇部日報 平成19年12月21日 掲載)