医療制度改革
療養病床の廃止および削減
高齢者の負担増をさまざまな形で盛り込んだ医療制度改革法案が、5月17日衆院で強行 採決され、6月14日参院で可決、成立しました。
今回は、その中でも療養病床の廃止および削減についてお話ししてみます。
病院には、一般病床のほかに、慢性疾患などのために長期入院し、在宅に向けてリハビリなどの療養を続ける療養病床がありました。療養型病床は1993年の医療法改正で、長期にわたり療養を必要とする患者のための病床群として始められたものです。さらに2001年の改正で、急性疾患を扱う一般病床と主に慢性期の疾患を扱う療養病床が新たに設けられ、療養型病床群は療養病床と名称変更されました。保険請求に際しては、2000年の介護保険開始で、医療保険を用いる医療型療養病床と介護保険を用いる介護型療養病床に分けられています。
療養病床は全国で38万床あり、そのうち医療型が25万床、介護型が13万床あります。この度の法案には、この療養病床を、医療型は25万床から15万床に減らし、もともと医療サ-ビスの必要性が低い人が入院している介護型13万床は、6年後には廃止することが盛り 込まれているのです。この療養病床削減で、4千億円の医療費抑制が見込まれています。今年7月の診療報酬改定で、医療の必要性が低いとみなされる「医療区分1」*の入院料は、大幅に減らされ、大半の療養病床で経営が成り立たなくなるのではないかと言われています。療養病床として存続したければ、医療機関は「医療区分1」の患者さんを転出させるしかありません。これが診療報酬改定による療養病床から在宅への厚労省の誘導です。
わが国の医療費高騰の要因の一つである欧米に比べてベッド数が3倍、入院期間が3倍といわれる冗漫な医療を是正するため、医療型と介護型合計23万床療養病床を削減し、特別養護老人ホ-ム、老人保健施設、有料老人ホ-ム、ケアハウスおよび在宅に移ってもらうという計画であります(図)。療養病床から老人保健施設へ転換する場合、患者さんを抱えたまま同じ建物で老人保健施設に移行できるよう猶予期間が設けられています。
以上が療養病床の再編成の主旨ですが、そもそも介護施設に転出させようとしても、特別養護老人ホ-ムの入所待機者は全国で約38万人もいます。そのうえ看護の体制が薄いので、医療的ケアが必要な患者さんの入所を受け入れなっかたり、制限しているところが多いのが実情です。また有料老人ホ-ムやケアハウスには、裕福でないと入所できないのではないでしょうか。では在宅はどうでしょうか?患者さんに帰る場所があり、面倒をみてくれる家族がいないとできません。
当然ながら、療養病床の再編成が実施されれば、どこにも行き場のない高齢者つまり介護難民が、大量に生まれることになります。果たして、これらの高齢者の受け皿づくりは充分なされるのでしょうか?財政の論理ばかりを優先させるのではなく、患者の不安や現場の混乱を解消する具体的な体制整備について、政府は国民に説明をつくさなければならないと、わたしたちは考えます。
注*「医療区分1」:24時間持続点滴や人工呼吸器が必要な状態、肺炎など急性の感染症、 難病、脊髄損傷、および透析以外の病状が軽度な患者群。
2006年6月16日 宇部日報掲載