冠動脈インターベンション治療の進歩
山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学(旧第2内科)
岡村誉之、藤井崇史
はじめに
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は虚血性心臓病の治療において薬物治療、冠動脈バイパス手術とともに主軸となる治療法の1つである。1977年にAndreas
GrntzigがPTCA(percutaneous transluminal coronary
angioplasty)に成功してから今年でちょうど30年が経過した。当時のPTCAシステムはバルーンカテーテルの先端に短いガイドワイヤーを接続した一体型システムで極太のガイディングカテーテルを用いて冠動脈病変部に導かれた。バルーンカテーテル、ガイドワイヤー、ガイディングカテーテルは現在においても基本的なシステムであるが、それらは改良を重ねられ、現在のシステムはほぼ成熟された感がある。
1990年代にはバルーンカテーテルで血管を拡張するのみであったPTCAの原理的な弱点を補うべく新たなデバイスが開発された。冠動脈ステントやRotablator、directional
coronary atherectomy(DCA)、レーザーなどである。特に冠動脈ステントの登場でPTCAの急性期合併症の1つである急性冠閉塞が予防できるようになったため、PTCAはより安全に行える治療法となった。それとともに急速に適応の拡大が進み、この頃からPTCAはPCI(percutaneous
coronary intervention) と呼ばれるようになった。この時代の課題はPCIのアキレス腱とされた再狭窄の克服であり、種々のデザインのステントが開発されたが20〜30%の再狭窄率を克服することはできなかった。しかし、2002年に薬剤溶出性ステントが発売されたことにより、ついに再狭窄率は5%以下を達成し、PCIの大きな弱点を克服した。
PCIの主目的は冠動脈狭窄部を拡張することに他ならない。しかし、その適応を決定する際にはPCIのメリットである患者負担の軽減(アプローチ部位の選択など)を可能な限り考慮しながらも、得られた結果が他の治療法よりも短期的にも長期的にも優れていると判断されることが重要である。患者背景、病変形態を既知の科学的データや経験などに照らし合わせ、もっとも良い成績が得られるよう、どのステントを選択し(薬剤溶出ステントが適しているかどうか)、どのようにステントを留置するかなどの最終的な拡張像をイメージする。ステントは病変部に到達できなければ留置することはできない。病変部までの冠動脈に屈曲が強く、石灰化が著しい場合にはステントの到達を困難にする。それを克服するためには種々のデバイスを用いる必要があり、その方法でステントデリバリーが可能かどうかのシミュレーションをすることがPCIの成功率を上げるためには必要である。
本稿では現在のPCIの代表的なデバイスである薬剤溶出性ステントとRotablatorについて、さらにPCIの最大のメリットである低侵襲性について概説する。
薬剤溶出ステント(drug-eluting stent : DES)
本邦で最初のDESであるCypherステント(Johnson&Johnson)が使用可能になって3年が経過した。2007年5月より、ようやく2種類目となるTAXUSステント(Boston
Scientific)が使用可能となった。DESは再狭窄抑制を目的に開発されたデバイスである。DESは再狭窄抑制効果のある薬物、薬物の溶出をコントロールするポリマー、そしてステントプラットフォームの3つの要素で構成される。Cypherステントに使用されている薬物はシロリムスという免疫抑制薬であるが、免疫抑制作用に加え抗炎症作用と細胞増殖抑制作用があるとされ、ステント治療後の新生内膜増殖抑制効果を示す。TAXUSステントに使用されているパクリタキセルは抗がん剤として使用される薬物である。細胞分裂に必要な微小管の脱重合を阻害し、細胞分裂そのものを抑制することによって細胞増殖抑制作用を発揮する。ステントプラットフォームにマウントし、薬物の血管壁への放出をコントロールする技術がポリマーコーティングである。Cypherステントではポリマーに薬物を染みこませステントに塗布し、さらに別のポリマーのトップコートをかけることで留置後30日以内に80%、90日でほぼ全てが放出されるようコントロールされている。無作為試験におけるステント治療9か月後の再治療率は従来のステント(BMS)で20〜30%であるのに比し、DESは5〜10%である。この効果は5年を経過しても持続し、再狭窄による再治療など主要心血管イベントに関しては安定した効果がある。当院のステント留置後の9か月目での再治療率はBMS使用病変で21.9%、Cypherステント使用病変で5.1%であった。(図1)PTCAが始まって以来の長年のアキレス腱とされていた再狭窄はCypher、Taxusなどの第1世代のDESによりほぼ克服されたが、最近では遅発性ステント血栓症が新たな問題としてクローズアップされている。BMSでは留置1か月以後のステント血栓症は稀とされてきたが、DES留置症例において留置後1年以上経過した症例においてもステント部に血栓症を生じたとの報告が散見される。BMSとDESの無作為試験で5年を経過した時点でのステント血栓症の発生頻度はBMS
1.2%、DES 1.8%で統計学的な差は認めていないが、BMS、DESともに遅発性ステント血栓症が起こりうることを忘れてはならない。DESでは新生内膜増殖が抑制されているために長期に渡ってステント金属が血管に露出していることが多く、遅発性ステント血栓症の原因と考えられている。したがって、DESを留置した症例ではアスピリンやチクロピジンなどの抗血小板療法を可能な限り長期に使用することが推奨される。それに伴い出血を伴う外科的または内視鏡的手術の際に抗血小板療法を継続することの可否が問題となっている。ステント内再狭窄と内皮化は相容れない関係にあるが、第2世代DESでは再狭窄予防効果は保ちつつ、適正な内皮化がおこるようなステントが開発されることを期待したい。また生体吸収性ステントやEPC(血管内皮前駆細胞)補足ステントなど新しいテクノロジーも臨床使用に向け、研究開発中である。
ロータブレーター(Rotablator)
ステントデバイスの成熟と薬剤溶出ステントの出現により、PCIを行うほとんどの症例でステント留置が行われている。しかしステントは治療対象部位を通過しなければ病変部を拡張、留置することはできない。また病変部を通過したとしても十分拡張されなければ治療効果は期待できないばかりでなく、ステント拡張不良はステント血栓症の原因となる。それらの原因の多くは冠動脈壁の異常な石灰化によるものである。冠動脈の石灰化が著しい場合、ガイドワイヤーは通過したもののバルーンカテーテルやステントの通過ができなかったり、ステントで病変部を拡張できないケースに遭遇する。バルーンにより強引に硬い病変を高圧拡張すると、病変前後に大きな血管解離を生じてしまったり、冠動脈穿孔を引き起こす危険性がある。このように石のように固い病変に対しては無理矢理拡げるのではなく、石よりも硬いダイヤモンド・ドリルで切削しようというコンセプトから生まれたのがRotablatorである。Rotablatorは治療器具名で正式な手技名は“Rotational
Atherectomy(高速回転式粥腫切除術)”である。現在は施設基準があり、PCIを年間200例以上施行し、心臓外科が常設されている施設でないと使用できない。Rotablatorは先端にダイアモンドチップがちりばめられたドリル(burrとよばれる)を高速回転させることで病変部の石灰化部分を切削する。切削された石灰化を伴う動脈硬化巣は、赤血球よりも小さい粒子となって飛散するとされている。著しい石灰化病変もRotablatorで前処置をすれば比較的容易にステントを通過させることができ、安全に拡張することもできる。DESを至適な大きさまで拡張できれば、再狭窄率も低く、長期にわたって良好な開存が期待できる。当院ではRotablator導入後に使用した頻度はPCIの1割弱の症例であり、決して使用頻度が高いわけではない。しかし、その中にはRotablatorにより緊急手術を回避できたケースもあり、このような症例に遭遇するとあらためてRotablatorの有用性、必要性を痛感している。DESの出現によりPCIの適応症例が拡大する中で、Rotablatorによる前処置の必要性が今後ますます増加していくことが予想される。
(図2次頁)
経橈骨動脈冠動脈インターベンション
(TRI:transradial coronary intervention)
ステントをはじめとしたPCIに関連したデバイスの進歩により、PCIの適応範囲と安全性が飛躍的に拡大すると同時に、より低侵襲にPCIを行う方向へと変化してきた。初期のPCIでは大腿動脈アプローチによるPCIが標準的であった。大腿動脈アプローチでは穿刺部止血後、長時間の臥床安静が必要である。これに対して経橈骨動脈冠動脈インターベンション(TRI)ではPCI直後から患者は歩行可能で、患者自らが食事や排泄を行うことができるため、術後の患者負担は明らかに減少した。また、大腿動脈アプローチに比べ、TRIでは出血性合併症の発生頻度も著しく少ないというメリットもある。ただし、橈骨動脈は大腿動脈に比較すると径が細いため、通常用いることができるシステムは6Fr以下のカテーテルであるが、DESを含めステントカテーテルも細径化が進み、多くの症例ではTRIでの治療が可能である。ただし、Rotablatorによる前処置が必要となるような複雑な病変や慢性完全閉塞病変では大口径のガイディングカテーテル(7F)
を用いて、種々のデバイスが自由に選択できるようにする必要があるため、大腿動脈アプローチが第1選択となる。
以上、冠動脈インターベンション治療の現状について述べてきたが、「最新のPCI技術」で特筆すべきはやはりDESの出現である。DESの性能を最大限に発揮するためにRotablatorの必要性も見直されてきた。さらにガイディングカテーテル、ガイドワイヤー、バルーンカテーテルなどの種々のデバイスが改良を重ねられ、術者はPCIをよりやりやすくなり、手首の動脈から治療するため、術後の大した安静も必要なく心臓の治療を受けられるようになった。PCIの世界の技術革新は目覚ましく、今後はステント留置後にその表面を内皮が覆い、血栓性閉塞を起こしにくくするような次の世代のDESの開発が待たれるところである。