山口県における2010年のスギ・ヒノキ科花粉飛散のまとめ
           山口県医師会花粉情報委員長  沖中 芳彦



 前年秋の観察定点における雄花の着花状態から、2010年のスギ花粉総数を、県内測定施設の平均値として、平年値(最近10年間の平均)2,200個/cm2に対し、半分以下の900個程度と予測しました。結果は約565個/cm2で、少な目の予測をさらに下回る飛散数となりました。一方ヒノキですが、こちらもかなり少なく、4月25日の時点で、県内測定施設の平均値として、約110個の総数となっております。今シーズンは雨の日が多く、また降雪も何度かありました。県内では3月になって観測史上2番目の降雪量を記録した地区があり、また山口県ではありませんが、関東では4月にこの50年間で最も遅い積雪や観測史上最も低い日最高気温を観測するなど、この冬から春にかけて日本全体が異常気象に見舞われました。これらがスギ・ヒノキ科花粉飛散にも少なからず影響を及ぼしたものと愚考しております。
 今シーズンは1月1日に岩国市の測定機関でスギ花粉が捕集され、同日が本年の山口県におけるスギ花粉「初観測日」となりました。長期予報では今年の冬は暖冬で1月から2月上旬までは気温が高くなるため、スギ花粉飛散が早くなると予測されていましたが、実際は同時期には平年以下の気温が続きました。飛散開始日は2月8日(長門市)で、山口県としては特に遅い方ではありませんでした。しかしその後は降雨機会が多く飛散が増えませんでしたが、2月20日頃から気温が上がり、晴の日が続いたため、北部を中心に多くの花粉が飛散しました(図1)。しかし、3月になってまた降雨時間が多くなり、まる2日間降水のない日が続くということがなく、花粉飛散が抑制されるという状況になりました。3月7日の北部地区の定点観測では、スギ雄花の保持する花粉は少なくなっているものの約20〜30%程度残存しているように思われました。しかし、その後の大寒波を含む降水機会の多さの影響で、スギ花粉は遠くまで飛散することなく、予測の約3分の2の総数で飛散は終了しました(図2)。
 例年、北部・西部に比し、中部・東部はスギ花粉飛散のピークが遅くなります。晴天の日が続いていれば、図1の3月3日の東部のピークの花粉数が2月下旬の北部のピークの数以上になるのが例年のパターンでした。最終的には西部と比べて、中部は1.5から2倍、県内最多飛散地区である東部の光地区は2から3倍の総数となることが通常でしたが、今シーズンは中部地区が西部よりも少ないというこれまでに経験したことのない特異なパターンとなり、また県内最多飛散地区である光地区の花粉総数が、300個/cm2以下の平均花粉総数であった少数飛散年の2004年と同程度の800個前後となるなど、通常はシーズン後半に多くなっていた東部・中部の飛散がかなり抑制されたようです(図2)。もともと平年の半分程度の少な目の着花状態でしたが、予測をさらに下回る飛散総数となりました。
 ヒノキ科花粉の総数はスギ総数の5%から55%と、年によって差が著明です。シーズン前の花芽調査で、ヒノキの花芽は昨年、一昨年と比べて少な目ではあったものの、数の予測までは困難でした。結果的には約110個程度と非常に少ない総数でした。例年ですと4月上旬にピークを迎えるヒノキ科花粉飛散ですが、今シーズンの最多飛散日は北部・西武は3月20日、中部・東部は4月2日でした(図3)。しかしそれらの日の花粉数が他と比べて著明に多いわけでもなく、県平均としての最多飛散日がいつであったのかの判断に苦労しました。東部では4月25日を過ぎても依然として「多い」から「やや多い」ランクの花粉捕集を数日おきに繰り返しています。これは、ヒノキ科の中でも「ヒノキ」よりやや遅れて飛散し、岡山県では多く植樹されている「ネズ」等によるものかもしれません。
 筆者は山口県医師会花粉情報委員長として、スギ・ヒノキ科花粉飛散の予測はもちろんですが、結果に関しても会報を通じて報告する機会を与えていただいております。しかしこれが筆者にとりまして結構なプレッシャーになっております。予測通りの飛散にならなかった場合、理由を考察する(言い訳を考える)のに苦労しますが、多くの方々の関心の高い事項であると思いますので、結果報告と反省まで行うことが、予測する者の義務と考えております。2007年は今年とは逆に記録的な暖冬と少雨の年で、予測を6割も上回るスギ花粉が飛散しました。本年も当初は暖冬との長期予報でしたので、着花状態からの予測数よりもむしろ花粉が多くなることの方を想定して、「平年以下の着花状態ではあるものの油断は禁物」とのコメントも出しましたが、逆の結果となり、症状も比較的軽度の方が多かったようです。ヒノキ科花粉数の予測は元々難しいのですが、今シーズンのスギ花粉数の予測以上の少なさに関しましては、「異常気象の影響」ということでご容赦願いたいと思います。

図1
図2
図3


●過去のスギ花粉飛散開始日
 平成21年2月4日
 平成20年2月2日
 平成19年2月3日
 平成18年2月1日
 平成17年1月15日
 平成16年2月16日
 平成15年2月6日
 平成14年2月3日
 平成13年2月15日
 平成12年2月11日
 平成11年1月25日
 平成10年2月7日
 平成9年2月5日
 平成8年2月11日
 平成7年2月13日
 平成6年2月7日