2011年スギ花粉飛散予測


山口県における2011年のスギ花粉飛散総数の予測
      [記:県医師会花粉情報委員長  沖中 芳彦]


 2010年夏の記録的な猛暑は記憶に新しいところです。暑い夏はスギ花芽への分化を促進する方向に作用しますので、当然のことながら、既に2011年のシーズンのスギ・ヒノキ科花粉の予測として、前年の5倍から10倍というような数字が報道されています。これにより、多くの方々は今シーズン(2011年)のスギ・ヒノキ科花粉飛散は非常に多くなりそうだと感じておられることと思います。
 8月の日平均気温の月平均値は山口県内全観測所で観測史上最高を記録したそうです。日本全国の6月から8月の平均気温は、統計を開始した1898年以降の113年間で第1位とのことです(気象庁のホームページより)。ちなみにこれまでの第1位は1994年で、翌1995年は、山口県ではこれまでで最多のスギ・ヒノキ科花粉飛散の年となりました。しかし、月別では、8月が史上1位であるものの、7月は11位、6月は5位とのことです。宇部市でも、記録の公表されている2002年以降、8月は日平均気温、日最高気温とも最高ですが、7月は最近9年間で4番目の高さのようです。この間の最低は2003年の夏で、翌2004年は県内平均スギ花粉総数260個という、超少数飛散の年でした。スギの雄花の数は夏の気象条件の影響が大きいことは確かですが、夏のどの時期の気象が最も影響するのでしょうか。
 2010年11月の時点では,雄花を着けている枝の割合(筆者はこれを便宜上「着花率」と称しております)の高い木が多いようです。図1は木全体に満遍なく比較的多く雄花を着けているもの、図2は部分的に多くの雄花を着けているものです。図3はシーズン中のスギ花粉総数と前年秋のスギ雄花の着花率との関係を示したものです。棒グラフは左軸で、県内全測定機関のスギ総数平均値と宇部市の花粉数、折れ線グラフは右軸で、数か所のスギの木の着花率です。筆者が従来から用いている平均着花率と花粉総数の回帰式によりますと、県内測定施設の平均値として、約3,700個/cm2というスギ花粉総数の予測値が導き出されます。これは、平年値(最近10年間の平均)2,200個/cm2の1.5倍程度の値となります。ただし着花率が高い割には、枝先の雄花の数は比較的少な目です。また、新たに観察を開始した中部地区のある地域では、雄花の数が意外と少ないのに驚きました(図4)。また暑すぎた残暑と少雨で、スギの雄花の中には枯れてしまったものもあるそうです。実際、ヨモギやオオブタクサにも枯れたものがみられました。以上のような理由で、2011年のスギ花粉捕集総数は、山口県で過去最多の花粉飛散を記録した1995年には及ばず、次いで飛散の多かった2001年、2005年、2009年の数よりも少な目となるかもしれません。
 しかし、実際の飛散はシーズン中の天候にも大きく影響されます。降水がほとんどなければ花粉が長時間空中を舞い、捕集される花粉数は増加します。2007年がこのパターンで、着花率からの予測より6割多く捕集されました。逆に雨や雪の日が多いと放出された花粉は早めに壊れてしまい、遠くまで飛散する花粉の数は減少します。2010年はこのパターンで、予測よりも3割以上捕集数が少なくなりました。
 一方ヒノキも、平年の1.5倍程度であった2009年と同程度以上の花芽は着いているように思われ、多くなることが予想されます(図5)。
 2010年のスギ花粉総数が結果的に600個以下であったため、この5倍としても3,000個に届かない数となります。しかしそれでも結構な数です。今シーズンがよほどの暖冬少雨とならない限りは8月の気温のように「史上最高」の花粉数となることはないと思われますが、それでも相当数の花粉は飛散すると思われますので、十分な花粉症対策が必要です。
 2011年にも県民公開講座、花粉症対策セミナーが、1月16日(日)に山口県総合保健会館において山口県医師会の主催で開催されます。テレビでもご活躍の村山貢司先生(気象業務支援センター専任主任技師/NPO花粉情報協会副理事長)に「花粉はどんな時に多いか? 気象から見た花粉飛散」と題する特別講演を賜ります。多くの方々のご来場をお願い申し上げます。

     平成23年1月号山口県医師会報にも掲載

図1
図2
図3
図4
図5



●過去のスギ花粉飛散開始日
 平成21年2月4日
 平成20年2月2日
 平成19年2月3日
 平成18年2月1日
 平成17年1月15日
 平成16年2月16日
 平成15年2月6日
 平成14年2月3日
 平成13年2月15日
 平成12年2月11日
 平成11年1月25日
 平成10年2月7日
 平成9年2月5日
 平成8年2月11日
 平成7年2月13日
 平成6年2月7日