かかりつけ医通信 その2

第2回 ポリオワクチンの歴史、、新しい不活化ワクチンについて



 「うぇ?ん! イタイよう?!」午後の外来、子供たちの元気な(?)泣き声が響きます。予防接種の時間帯です。注射はイタいですね! でもワクチンで予防できる病気はどれ一つとっても人生に関わる可能性のある重大な病気ばかりです。          
 今回は、この9月から不活化ワクチン(皮下注射)が導入される「ポリオ」について、お話いたします。
 「ポリオ」は別名「小児麻痺(まひ)」とも呼ばれますが、大人に感染する場合も少なくありません。古くから人類を苦しめた病気の一つで、古代エジプトの壁画にも患者さんの像が描かれています。
 ポリオウイルスの感染によって神経が障害され、麻痺を起こす病気です。最初の症状は発熱が多く、数日して熱が下がった後に急に筋力が低下して麻痺に気づきます。症状は足に多く現れますが、呼吸する筋肉が麻痺してしまうと、呼吸障害で死亡することもあります。死亡率は小児で2?5%、大人では15?30%にもなります。ウイルス感染症なので抗生物質は無効で、発症すると治療は極めて困難なためワクチンによる予防が有効です。
 日本での患者数は1961年(昭和36年)までは毎年1000人以上、亡くなった方は100人以上で、特に1960年(昭和35年)には全国で5600人を超える大流行がありました。しかし1961年に口から飲む生ワクチン(経口生ワクチン)が緊急に導入された結果患者数は激減し、3年後には100人を下回りました。1964年(昭和39年)からは定期接種化(2回投与)され、結果として1980年(昭和55年)の一例を最後に国内ではゼロとなりました。経口生ワクチンは、飲むことで腸の粘膜で増殖し免疫をつくります。ポリオウイルスは体内に入ったあと腸の粘膜で増えるため、「飲む」ワクチンはとっても効果が高かったのです。
 口から飲むため簡便で、価格も安いワクチンのため世界中に普及し、世界保健機関(WHO)のポリオ接種活動により、1984年(昭和59年)にはアメリカ地域、2000年(平成12年)10月には日本を含む西太平洋地域、2004年(平成16年)にはヨーロッパ地域でポリオ根絶宣言が出されています。野生の(本物の)ポリオが蔓延しているのは世界であと数カ国までになりました。
 しかし、「飲む」ワクチンならではの問題点がクローズアップされてきました。
毒性を弱めたポリオウイルスワクチンですが、まれに体内で変異をおこし毒性を回復する場合があるのです。その結果投与された人が麻痺を起こしたり、糞便からウイルスが排出されるため周囲の人に感染して麻痺を起こす場合があり、
ワクチン関連麻痺と呼ばれ問題となりました。その結果、生ワクチンではない、
注射のワクチン(不活化ワクチン)が開発され、日本では2012年(平成24年)9月からまずポリオ単独ワクチンが、11月からは三種混合(ジフテリア・破傷風・百日咳)ワクチンに不活化ポリオワクチンを加えた四種混合ワクチンが導入される予定です。腸の粘膜に免疫を作る強い効果はありませんが、ワクチン関連麻痺を起こすことはありません。
 昨年来、ワクチン関連麻痺を心配してか、経口生ワクチンの接種率が激減しています。折しも2011年9月にはお隣の中国で野生の(本物の)ポリオが報告されています。接種対象の方は、なるべく早くワクチンを受けましょう。また、大人でも昭和50年?52年生まれの人はワクチン効果が低かったことが分かっています。さらにこの年代以外の方も海外旅行の際などには、ワクチン接種に関して主治医と相談することをお勧めします。

      光市医師会・妊産婦乳幼児保健担当理事
                 広田 修