かかりつけ医通信 その5 高脂血症について

                    佃医院 佃邦夫

  みなさん、特定健診は受けられましたでしょうか? 検査結果に一喜一憂しておられることでしょう。特定健診の項目は全身の状態が大まかに捉えられるように工夫がされています。その中で重要な項目は現代病の代表である高脂血症と糖尿病でしょう。今回は高脂血症についてお話しします。

  高脂血症の検査項目は三つあります。善玉のコレステロール(HDL)、悪玉のコレステロール(LDL)、中性脂肪(TG)の三つです。そのいずれもが正常範囲であればそれは脂質代謝としてとてもいい状態だということです。じゃあどのような場合が悪いのかというと、悪玉のコレステロールが高いのが良くないのは分かるでしょう。中性脂肪も高いと問題です。善玉のコレステロールが少ないのも動脈硬化のリスクです。LDL/HDL2.3以下が正常範囲とされています。中性脂肪が高いのは慢性的な食べ過ぎ、飲み過ぎが原因でしょう。悪玉のコレステロールを下げて善玉を上げるにはどうしたらいいのかと良く聞かれます。単純なことです。コレステロールの摂取量を減らして運動量を増やせばいいのです。一部報道で脂肪酸を多く含む大豆油がいいとか、ポリフェノールを多く含む赤ワインやマンゴーがいいとか、イカ・エビなどはタウリンを多く含むので影響がないなどという情報がありますが、本当のところ経済効果を優先させたものではないかと思われます。その真偽はともかく、それをいいことにみなさん都合のいいように解釈して好きなものを食べる口実となり、結果的に健康には逆の結果を招くことの方が多いようです。そんなことよりも単純に、コレステロール摂取量を減らし、運動による消費量を増やすというような分かりやすい考え方が正論でしょう。現場でそのように指導すれば実際にLDLは下がります。コレステロール含有量の多い食品の具体例は差し障りがあるためマスメディアでは語られませんし、ここでも触れません。でも、ちょっと調べればどこでも情報はあります。

  高脂血症の治療はどのようにしたらいいのでしょうか? 先ずは食事と運動に心がけましょう。この普通の当たり前のことが実は最も難しいのです。正しく普通の食事をとり、健康的に運動の出来る人たちばかりではないでしょう。だからといって安易に高脂血症の薬を服用することも問題です。先ずは自分の出来ることをしていただき、諸々の事情によりどうしても必要な人に限り薬剤を使用していただくのが正しい姿勢です。食事療法をせずに高脂血症剤(スタチン製剤)を服用しますと、薬剤により肝臓で生成されるコレステロールが抑制され、それを補うために腸管よりの吸収が促進され、結果として薬剤の効果が損なわれることになります。食生活と生活習慣を整えることが最優先事項です。

  最後に劣化脂質についてお話しします。食用油や肉に付いている油などは加熱すると劣化・酸化した脂質になります。古くなったマーガリンなどの上に浮いた油の膜や二度揚げ三度揚げの揚げ物などです。それら劣化した脂質は吸収されても代謝・解毒されることなく長らく体内に留まります。そして、異物として処理する過程で血管に傷を残すことになります。その傷跡が血管のプラークとなり、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。他にも動脈硬化の要因としては喫煙・糖尿病・高血圧症などがありますが、この劣化脂質についてはあまり語られません。それら、劣化脂質はいわゆるジャンクフードといわれるものに多く含まれます。ジャンクとは「がらくた」とか「くず」とかいう意味です。ファーストフードのハンバーガーやドーナッツ、ポテトチップス・ポップコーンなどのスナック菓子全般です。砂糖が大量に添加された飲み物もジャンクフードといわれ若年者の肥満や糖尿病の原因になっています。さらに問題なのはこの過剰摂取で麻薬の中毒症状に似た状態になるという研究結果も出ていることです。その典型例が沖縄です。かつては長寿の島といわれましたが今では平均寿命が全国で中くらいになるまで転落しました。それは戦後急速に米国化された歴史と関係があります。すなわちファーストフードの席巻と車社会です。

  私たち医師の集団は人間の体を扱うプロの職人として、皆さんの健康の手助けをするのが仕事です。もし健康について不安があれば最寄りの医療機関で気軽に相談して下さい。そして、健康に不安のない豊かな、ゆとりのある生活を享受されることの一助となれば幸せです。