かかりつけ医通信その9 「熱中症」

 

7月初旬梅雨明けと同時に猛暑日が続き熱中症で救急搬送される人が急増しております。そこで今回は急きょ熱中症についてお話します。まず熱中症とはどんな病気かといいますと、車のオーバーヒートのようなものと思ってもらえれば分かりやすいと思います。オーバーヒートにならない為には、日ごろからよく整備をしておくこと。次にはオーバーヒートになりそうな運転はなるべく避けること、オーバーヒートになりそうになったら直ちに運転を中止してエンジンを冷やすこと。これを怠るとエンジンが焼けて大きな代償をはらうことになります。

人は優れた体温調節機能を備えており、常に最適の36~37℃の狭い範囲に体温を調節しています。生きている限り常に熱を産生しており、労働やスポーツをするとその強度に応じて熱産生も増加し、その熱を放出する為に脈が早くなり、皮膚の血管が拡張して深部の熱を体表面に運び、汗をかいて蒸発熱を奪います。したがって心臓機能が低下した人、循環血液量が減少している人(脱水)等は熱中症になりやすいのです。このような体温上昇に対する様々な反応は自律神経系を介して自動的に行われます。

一方熱中症の発症には環境要因が非常に重要であることは言うまでもありません。高温、多湿、無風の環境では体から外気への熱放散が減少し、汗の蒸発も不十分となり、発症の危険性が増大します。熱中症の起こりやすさの指標には気温、湿度、輻射熱、気流を取り入れた暑さ指数(WBGT)が望ましいですが、気温30℃以上では激しい運動、労働は原則中止したほうが無難でしょう。気温27~28℃でも湿度が高かったり、十分な水分や塩分を摂らずに激しい運動をしたり、或いは、体調が悪い時に無理をしたりすると、熱中症は起こり得ます。熱中症にならない為には日ごろから暑さに体を慣らしておくこと、無理をしないこと、十分な水分と塩分(水1リットルに塩2〜3gr)を20~30分毎に頻回に摂ることが効果的です。ここで注意したいのは、目いっぱい汗をかいた後のビールはとても旨いのですが、水分補給にはならない、かえって逆効果であるということです。

熱中症になったら直ちに病院に行くことをお勧めします。熱中症の症状は熱痙攣、熱失神、熱疲労、熱射病などと分類されていますが、日本救急医学会の分類(I〜III度)が重症度、対処法と関連していて解り易いです。I度はめまい、立ちくらみ、筋肉痛(こむら返り)などで、直ちに涼しい場所で休ませ、十分な水分と適度な塩分を摂らせて様子を見る。II度は頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感でこのような症状が出てきたら直ちに病院受診。III度は意識障害(応答が異常、呼びかけに反応がない等)、全身痙攣、手足の運動障害、高体温で、一つでもあれば直ちに体温を下げる処置をしつつ救急搬送依頼をする必要があります。直ちに設備の整った病院での集中治療が必要です。心筋梗塞、脳梗塞などとの鑑別も急を要します。熱中症死亡総数に占める65歳以上の割合は70%位で年々増加傾向にあるということです。乳幼児、高齢者(特に認知症の方)は熱中症弱者であり、周囲の人々が十分注意してあげることが必要です。

最後に、日頃元気な還暦過ぎくらいの熱中症発症が多いといわれます。昔の成功体験で、ワシは熱中症なんかにはならん!!と、暑い中、水分もろくに摂らないで仕事、或いはスポーツをするのがよくないようです。体は若い頃とは違い、暑さ、乾きに対する感覚も鈍くなっており、更に高血圧や糖尿病などの持病を抱えていることも多いのです。私自身への自戒も含めて、あなたは立派な“熱中症弱者”なんです。くれぐれも無理はやめましょう。

 

     光市医師会救急医療・産業保健担当理事 多田クリニック院長 多田良和