第8回光市医師会学術講演会

日時:平成22年7月6日(火)19:00〜
場所:光商工会館2階大ホール
         光市島田4丁目14−15(Tel 0833−72−2234)

【製品紹介】19:00〜「選択的DPP−4阻害薬エクア錠について」
【特別講演】19:15〜20:15

 座長:光市立光総合病院 内分泌内科 部長 松田万幸先生
『2型糖尿病治療におけるインクレチンの意義と役割』
    滋賀医科大学 糖尿病・腎臓・神経内科
             准教授 西尾 善彦 先生

 西尾先生は糖尿病における動脈硬化、特に血管内皮細胞障害について詳しく研究をなさっておられます。今回は糖尿病治療における問題点と、インクレチン製剤の特徴についてお話をしていただきました。

 滋賀県医師会糖尿病実態調査によると、HbA1cが6.6%以下の良好なコントロールが出来きているのは経口糖尿病薬を服用している人の3人に1人、インスリンを使用している人の4人に1人という結果だった。2000人超の6年間追跡調査では高血圧・高脂血症のコントロールは有意に改善したが、HbA1cは時間とともに有意に悪化したという結果が出た。これは糖尿病長期治療の重要な課題であると思われる。
 2型糖尿病の自然経過として、前糖尿病時期(耐糖能異常のみ)には肥満や食事量の増加、運動量の低下などによりインスリン抵抗性が増すが、インスリン分泌がそれに伴い増加して代償している時期。糖尿病発症はその代償がかなわなくなり、血糖の上昇が起こってくる時期になる。膵β細胞はインスリン分泌が追いつかず、その機能が疲弊し、機能が低下してくる。高血糖により3大合併症(@糖尿病網膜症A糖尿病腎症B糖尿病神経障害)更に第4番目の動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などの大血管合併症は、致死的イベントを引き起こすというプロセスを辿る。

 2型糖尿病の長期的治療の目標はβ細胞の保護と疲弊の防止、心血管合併症を予防し死亡率を低下させることにある。HbA1cを低めに押さえ、高血糖を予防することがその目的になるが、最近の知見によればHbA1cを適切に抑えても大血管の合併症は予防できないという結果が出ている。海外大規模臨床試験である ACCORD STUDY では糖尿病強化療法の方が標準療法よりも心血管による死亡が増加するという結果が出て、治験が中止になった。ADVANCE STUDY や VA diabetes trial でも強化療法により心血管イベントを低減することが出来ないという結果は何を物語るのか? SU剤やインスリン製剤の長期使用には低血糖と肥満という問題がある。ある報告では意識障害で救急受診した2型糖尿病患者50例の内23例がグリペンクラミド(オイグルコンなど)、13例がインスリン、10例がグリメピリド(アマリール)という報告がある。

 以上の課題克服のために2型糖尿病治療に必要なことは次の3つである。
 1.β細胞を疲弊させない
 2.低血糖を起こさせない
 3.体重を増やさない

 最近話題のインクレチンについて。インクレチンとは消化管ホルモンの総称である。食後には血糖を低下させるホルモンのインスリンが膵臓から分泌されるが、糖を経口投与すると経静脈投与時よりも大きなインスリン作用が現れること(インクレチン効果)が明らかになり、このことがインクレチンの概念の元となっている。現在「インクレチン」と総称されている因子の中で、重要な役割を持つものにGLP-1(glucagon-like peptide-1)とGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)がある。前者は小腸下部のL細胞から分泌され、後者は脂肪が刺激になって十二指腸のK細胞から分泌される。GLP-1は胃の内容物排出速度を遅らせ、満腹感を助長することで食欲を抑制したり、食後の急峻な血糖上昇を抑制したりする作用がある。両者ともにDPP-4で分解されるので、その阻害薬はインクレチンを増加させる。近年話題のインクレチン製剤である。また、GLP-1受容体作動薬である「ビクトーザ」も国内で承認され、注目を浴びている。

 ジペプチジルペプチターゼ(DPP)IV阻害薬は米メルク社が開発、2007年、アメリカで販売を承認されている。2009年12月11日、日本で上市された(ジャヌビアR:万有製薬、グラクティブR :小野薬品工業)。GLP-1、GIP受容体に結合してインスリン分泌を促進させ、グルカゴンの分泌を抑制するものであるが、最近発売されたエクア:ノバルティスはDPP-4と共有結合し長時間離れないという特徴があり、長期間作用することが期待される。単独では低血糖を起こすことは少ないが、SU剤との併用の場合、特に高齢者・腎機能低下例・大量にSU剤を併用している場合には低血糖発作に対してきわめて慎重でなければならない。

 Metabolic Surgery について。1.バンド術 2.胃縮小術 3.バイパス術がある。効果としてはバイパス術が最も高い。術後IRIやGLP-1の血糖による反応が良くなることが分かっていて、体重の減少も長期にわたって安定して減少する。現在四谷メディカルキューブの笠間Drが率先して行っている手法だが、肥満患者を対象としているので熟練した内視鏡手術を要求される。