第10回光市医師会学術講演会

【日 時】平成22年 8月 3日(火)19:00〜20:00
【場 所】光商工会議所 2階 大会議室
    山口県光市島田4丁目14−15 TEL.0833−72−2234

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座長   山口県医師会 理事 河村 康明 先生

  「心(特別講演)肺脳蘇生と麻酔の周術期合併症」
            山口大学大学院医学系研究科
システム統御医学系学域 麻酔・蘇生・疼痛管理学分野
             教授 松本 美志也 先生


 今回は麻酔科・救急蘇生について最新の情報を松本美志也先生をお招きいたしました。 心肺蘇生ガイドラインが今年秋にまた改訂されます。これまで2000年、2005年と改訂されましたが、どのようなことが検討され、どのようなことが反省材料とされたか。また、変更されたことが生命予後にどのように影響したかをお話しいただきました。
 



 ガイドライン2000では心マッサージ前に3回除細動をするようになっていたが、2005では一回だけの除細動の後すぐにCPRを行うことになった。前者では心室細動を確認したならば、応答時間(レスポンスインターバル:虚脱からAED到着までの時間)の長短にかかわらず、出来るだけ早く除細動すべきであるとされたのに対し、2005では応答時間が4.5分以上の場合、除細動前に1.5〜3分の心肺蘇生術(CPR)を施行することで、傷病者の生存率が向上することが明らかになり、CPRの中断時間は出来るだけ少ない方がいいという反省から改訂されたものである。G2005で予後は心拍再開率・退院率ともに有意に改善したというエビデンスが示された。




 その他の重要な勧告として効果的な胸骨圧迫について、過換気の弊害についてなどがある。効果的な胸骨圧迫とは
1. 強く速く(100回/分)、圧迫:換気=30:2
2. 胸骨圧迫の中断はなるべく短く
3. 圧迫の解除は完全に
4. サイクル(2分)毎に人を交代する。
 効果的な胸骨圧迫は脳循環を維持するだけじゃなく、冠動脈循環を維持することが目的でもある。生存率は冠動脈灌流圧と関係していて灌流圧が15mmhg以上で24時間生存率が飛躍的に伸びる。強く速い胸骨圧迫を続けて行うことでその灌流圧が次第に上昇することが分かっていて、その中断は10秒を超えないことが重要であることも分かっている。そして、圧迫の解除は100%解除で更に効果が上がる。人が行う胸骨圧迫は2分くらいで疲れてくるので、そのくらいで交代しないとよいCPRが継続できないだろう。
  過換気の弊害について、余分な換気は換気血流比の悪化、胸腔内圧の上昇を来たし、静脈還流が停滞することになり予後の悪化につながる。適量の換気は、良質のCPRでも心拍出量は正常の1/4〜1/3であるので換気も正常の1/4〜1/3がいいだろう。胸骨圧迫のみでもある程度換気は行われるわけで、2008年AHA Advisory Statement ではHands-only CPRなるものがオプションとして追加された。院外や目撃者がいる突然の心停止には一般に普及・実行しやすいので良い適用になる。何よりもマッサージの中断が最小になることで蘇生率が上昇することが期待される。但し、小児の場合や呼吸が原因で心停止した場合などは推奨されない。





 心肺蘇生後の脳保護の問題について。方法として低体温療法と薬物療法の二つがある。その効果について、動物実験では効果があるとされるが、人体では再現できていない。人間と動物では脳の構造が異なり灰白質の量に違いがある。更に精査していくとRandomization(無作為化)とblinded(二重盲検)の問題があり、今後publication biasをなるべく排除し、追試で再現できるような質の高い動物実験の必要を感じる。 
 最後に麻酔の周術期合併症について。心房細動は術中・術後に脳塞栓を併発する恐れがあり、術前の抗凝固剤やカルディオバージョンの配慮が必要である。術前の食道エコーで心房内凝固隗は90%確認できる。確実な効果という点で術前のヘパリン投与と電気的除細動が推奨され、術中に生じた心房細動は、抜管前にカルディオバージョンするのがいい。術後の肺塞栓は胸痛や胸苦などの訴えよりもSaO2(酸素飽和度)の低下が参考になる。