光市医師会講演会
日時:平成22年9月7日(火)19:30〜20:45
場所:光商工会議所 2階 大会議室
*プログラム*
【製品紹介】 骨粗紫症治療剤「ボノテオ錠」
アステラス製薬株式会社
【特別講演】
座長:前広島大学小児科 教授(みちがみ病院)上田 一博先生
『学校保健関係者が知っておくべき
学童の脊柱変形−とくに側攣症−』
いずみ整形外科クリニック 院長 泉 恭博先生
泉恭博先生は40年間、約4000例以上の側弯症を手がけてこられ、その最先端をつっぱしておられる先生です。昭和46年に広島大学にはじめて脊柱側弯症外来を開設され、米国空軍立川病院時代に指導を受けたMilwaukee Braceを使用して、試行錯誤を繰り返しながらの診療だったとのことです。平成2年いずみ整形外科クリニック開院され、側湾症の治療に日々努力を継続されておられます。今回はこれまでに得られた臨床経験を中心にお話しいただきました。
脊柱側弯症は診療の場で日常的にみる疾患であるにもかかわらず、その治療施設は少なく、その診断基準も曖昧、何よりも小児の疾患であるにもかかわらず、学校でしっかり診断される機会が少ないことが問題である。早期発見・早期治療で進行が抑えられ、手術に至ることを防ぐことが出来るにもかかわらず、チャンスを逸することが多いのは残念なことである。また、成人して、高齢者になっても徐々に進行する病気であることにも注意が必要である。
1.病因としてはレックリングハウゼンやマルファン症候群など神経原性の原因が分かっているものもあるが、その約八割は原因不明の突発性であり、その中の約八割は女性が占める。10歳前後の女性に限れば約4%に見られる。日本側弯症学会の指導で昭和53年以降、学校検診の充実が図られているが、私たちの側弯症外来には検診で見落とされ変形がひどく進んだ患者児童がまだ年間数十例も訪れて来られる。
2.診断としては、先ずは視診であるが、背面から立たせて見るだけではだめで、強く前屈させて背面隆起を確認することが重要である。この方法は昭和53年の学校保険法改正で「脊柱側弯症の早期発見について」学校保健課長通知されているが、「前屈テスト」の実施は学校検診において徹底されていないことは誠に問題だと思う。
側弯症の程度は現在、全世界で“立位”でのレントゲン写真をコブ法で測定した角度数で表現するが、この角度は撮影姿勢によって変動することがあるので注意を要する。側弯症は脊柱の回旋(ねじれ)に伴って発生する三次元変形の病気なので二次元の側弯度では説明できない背部変形が見られ、側弯度だけをみての治療方針では判断を誤ることがある。そこで私たちはデジタルカメラを転用したシルエッター(自動体型撮影器)を使用して、変形を計測し(シルエッター.jpg)、その評価も加味して治療方針を決定している。コブ角が軽度でも背部隆起が高度のことも多く、その程度は関連していないこともあるので、前屈テストはその診断に必須項目となる。
3.治療について、従来より世界的にミルウォーキー装具が普及しているが子供の日常生活に用いるには実用に耐えられない。私たちはいろんな工夫を重ねた結果「広島式装具」を開発し、治療の普及と改善に努めてきた。現在ではコブ角が40度以上の手術適応症例においてもその治療によって3/4が有効の成績を得、装具が無効であった症例はわずか1/4であった。装具による矯正によって約3ヶ月で改善し始め、約1年でプラトーの状態になる。弯曲の状況を評価するのに朝と晩の身長測定がとてもよろしい。起床時と帰宅時の身長を毎日2回測定し身長の伸びと朝晩の差を測定する。骨成熟や弯曲の進行指標にとても有用なので推奨する。もし10歳・11歳で身長の伸びが少ない場合や朝夕の身長差が2cm以上あれば脊柱側弯症の存在、進行が疑われるので注意すること。
4.学校保健について、昭和53年に脊柱弯曲症の検診が義務づけられて30年以上経過しているが、その普及は満足のいくものではない。広島市では市を挙げてその検診に力を入れているので紹介する。
広島市ではシルエッターを使用して整形外科医が検診を行っているが、平成18年度には1.3%の側弯症を拾うことが出来た。広島県では報告なしから0.5%のところが多く、たくさんの見落としがあることが予測される。山口県では平成20年度中学校女子でも0.23%ときわめて低く、側弯症としての検診が十分に行われていないのではないかと危惧する。
5.文部科学省のデータでは30〜40年前の子供に比べ、食生活の向上などで子供たちの体格は1〜2歳上に相当している。学年でなく同じ体格で比較すれば、総合運動機能である走り幅跳びなどは親の年代に比べ非常に弱い!という結果が出ている。(小学校では腹筋力測定はなく、文部科学省はこの異常状況を把握できていない。)私たちの開発した腹筋力測定器の計測結果でも、側弯症の子供たちは腹筋が驚くほど弱いという結果が出ている。背筋群は抗重力筋なので、運動しなくても体格の成長とともにある程度筋力向上を見ますが、腹筋群は意識をしなければ働くことの少ない筋肉であり筋力強化は伴っていかない。腹筋力はいくら強くても困ることはなく、日頃より腹筋強化を考えた運動を心がけることが大切である。