第14回光市医師会学術講演会

【日 時】平成22年 11月2日(火)19:00〜20:30
【場 所】光商工会議所 2階 大会議室
    山口県光市島田4丁目14−15 TEL−0833−72−2234

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座長   山口県医師会 理事 河村 康明 先生

特別講演19:15〜

「睡眠時無呼吸症の診断と治療
     〜プライマリ・ケアの視点から〜」

        徳永呼吸睡眠クリニック内科・呼吸器科
                院長 徳永 豊 先生


 広島から睡眠時無呼吸症を専門的に扱っておられる先生をお招きし、その最前線・最先端の知見と治療を紹介いただきました。

 睡眠時無呼吸症(SAS: sleep apnea syndrome)とは、寝ているときに何回も呼吸が止まり、大きないびきを繰り返す病気です。研修医のときに初めての症例を経験しました。以後、この研究を広島大学の呼吸器内科で勉強しました。犬に麻酔をかけて挿入していた気管チューブを抜管すると奇脈や奇異性呼吸が出現します。呼吸障害のために呼吸循環のストレスがあるためで、舌を引き出して気道を確保しますとこれらが消失します。気道に何らかの障害があり、睡眠中に呼吸に支障を来すと正常な睡眠が妨げられます。睡眠障害(Insomnia)を繰り返しますと体に負荷がかかり生活習慣病(高血圧や心疾患など)になることや、記憶に新しい新幹線のオーバーラン事件に代表される、昼間の眠気による事故(交通事故、労災事故)に関係するため、ご本人だけでなく社会的にも問題となります。
 SASは現代の生活習慣と多いに関わっておりまして、規則正しい生活が出来ない現代人の職業病にもなっています。若い人には睡眠相が後退している人、すなわち入眠時刻が遅くなり、深夜の2時や3時に入眠するひとが多くなりました。バスの運転手の居眠り事故が問題となりましたが、勤務体系が朝の5時から始まり、昼間は仕事が少ない、さらに夕方に仕事が再開される。また、夜勤勤務が続く人やシフトワーカーの労働者が多くなり、レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す規則正しい睡眠が出来ない人が、慢性的な睡眠障害に嘖まれている現実があります。睡眠障害を把握するには睡眠日誌をつけさせ、睡眠パターンを図表にさせることで、その実態が一目瞭然となります。
図1

 正しい睡眠は睡眠と・覚醒のリズムを整えることから、メラトニン(睡眠ホルモン)産生のリズムができあがり、神経と筋肉がリフレッシュされます(図1)。そのために夕方の照明は弱くして、消灯時間を設けること、アイマスクを使って光刺激をコントロールすることなど、日常生活に工夫を凝らすことが重要となります。
 22歳の男性で、SASの治療をしていまして、CPAP治療に反応しないと紹介された症例。睡眠日誌をつけさせますと入眠が深夜の2時や3時になっています。朝は通常に出勤しますので当然睡眠不足になります。そして、日曜日は昼頃まで寝ているという生活。当然その日は寝付けない夜となります。月曜日の朝の目覚めは最悪の状態でしょう。典型的なブルーマンデー症候群でした。
 SASは閉塞性と中枢性に分けられ、前者は睡眠中の筋弛緩により舌根部や軟口蓋が下がり気道を閉塞することが主な原因です。舌根沈下による気道閉塞は人間の成人特有の現象で、乳児は鼻呼吸のみで舌根沈下を起こしません。他の脊椎動物でもありません。人間は、誤嚥と舌根沈下の危険性を侵してまで、発語機能を獲得したようです。すなわち発語には都合のいい大きな咽頭腔を確保するために、鼻腔と気道の間、口腔と食道の間を隔て、喉頭蓋を下方に下げたのです。アレルギー性鼻炎のために口を開けて呼吸し、下顎が後退するためにSASとなることもあり、気道全体を見渡す必要があります(図2)。幼少時より咀嚼することが少なく、下顎骨の発達が未熟となれば下顎は後退し舌根沈下を起こしやすくなります。年齢とともに咀嚼筋は弱くなり、年とともに下顎が後退し舌根沈下を起こしやすくなります。肥満があり咽頭部が狭くなる、運動不足で筋肉の緊張が全体に弱ってきている人、姿勢が猫背で軌道が狭くなっている人など、いろんな原因があるでしょう。典型的な現代病といえます。

図2

 閉塞性無呼吸症候群の診断にはビデオが有用です。外来で寝かせてモニターすると間欠的に呼吸が止まり、数十秒後に「ぐばあっ!」っと衝撃的に呼吸を始めるのが特徴です。
図3 図4
 最近では携帯装置が使われるようになりました。アメリカでは一般的ですが日本ではまだあまり普及していないようです(図5)。外来で咽頭所見を取ると口蓋弓が舌に隠れて見えない人は要注意です(図6)。
図5 図6

 治療については解剖学的な人間の欠点を如何に補うかが要点になります。人間が漂う香りを吸う姿勢(スニフポジション)が最も良好な気道を確保する姿勢になります。
図7
気道確保にはエアウェイや気管チューブのような侵襲的なものとそれ以外のものがあります。SAS外来では後者が対象になります。最も気道保護的な睡眠体位は昏睡体位(シムズ体位、 Sims position図7)といって、横に向く姿勢が良いとされます。補助用具としてマウスピースを使うこともいいでしょう。これをかんで寝ることにより下顎を前方に引き揚げて口ではなく鼻で呼吸することになります。これは市販でも販売されていますし、歯科で特注することも出来ます。

図8図9アヴェオTSD
総入れ歯の方にはTSD(図9)を用います。筒内に舌先端部を挿入して陰圧で保持する方法です。筒内への舌挿入量は調節できるので、いびきの程度の応じて舌根の前方移動量を加減できます。舌全体が前方に保持されるので、舌根部が咽頭の奥に落ち込まず、上気道が広がります。
CPAP療法はアメリカのサリバン先生(Sullivan C E)が始められたのですが、はじめは日立の掃除機を裏返して使ったそうで特許はアメリカにあります(図10)。
図10.JPG
日本製のCPAPをふたつ持ってきましたので参考にしてください。
図11.JPG 図12.JPG
図13.JPG

 最後に現代病としての無呼吸症のことについてお話ししたいと思います。2010年、米国子供問題として2型糖尿病と高血圧、そしてOSA(Obestic sleep apnea)が取り上げられています。アメリカにおきましてここ10年、肥満の有病率は飛躍的に増加してきています(図14)。これは現代人の生活様式に寄るものでして、睡眠と食事、さらに運動量と、肥満を加速させる要因にあふれています。睡眠時呼吸障害対策には個々に切り込む必要があります。生活習慣の中でも起床・消灯時間を決め、3食の食事、身体活動度を上げる工夫、就寝時の枕・体位などに心を配る必要があるでしょう。
 最後にベッドパートナーに自分の寝ている様子を確認してもらうことで呼吸障害がないか確かめることが出来るでしょう。
図14