16回光市医師会学術講演会

 

【日 時】平成22年 127日(火)19002030

【場 所】光商工会議所 2階 大会議室

製品紹介 1900~ 「タケプロンOD錠について」武田薬品工業株式会社

座長 光市立光総合病院消化器内科部長谷川 幸治先生

特別講演1915

「抗血小板薬と内視鏡

      ~内視鏡医の視点から~」

     社会保険 小倉記念病院 消化器科

          副部長 白石 慶 先生

                    共催 光市医師会

                       武田薬品工業株式会社

 白石先生は数年前に光市立光総合病院に勤務しておられ、現在は社会保険小倉記念病院に消化器内科医として活躍されています。小倉記念病院は循環器系の疾患を多く扱い、それに伴い抗凝固剤を服用中の患者を内視鏡検査することが多く、特に本日は出血性消化器疾患と抗凝固剤をどのように折り合いをつけるかをお話しいただきました。

 各種脳梗塞の治療に低容量のアスピリンが多用されています。それにより、消化管の粘膜が障害され、粘膜の易出血性も伴い、消化管出血を来す機会が多々あります。上部消化管出血のリスクは、NSAID全般にありますが、特にアスピリンが高く、アセトアミノフェンは低い。アスピリン内服による上部消化管出血のリスクは、剤形、使用量(5-300mg)、投与期間に寄らないようです。低容量アスピリン起因性潰瘍の特徴として、小型・多発性・出血性があります(図1)。


図1

本日の内容

1.       当院での内視鏡的止血術の現状

2.       低容量アスピリン服用例における出血性胃十二指腸潰瘍の特徴とその対策

3.       抗血小板薬を服用中の症例に対し安全に内視鏡処置を行うために

1. 当院での内視鏡的止血術の現状

  以下のような方針で行われています。(図2)

図2

図3

 年間100例以上の内視鏡的止血術が行われています。20094月から20103月までの一年間、消化管出血で止血術を施行した件数は111件で、その内訳は胃潰瘍4540.5%)十二指腸潰瘍2018.0%)Vascular ectasia 1614.1%)食道静脈瘤119.9%)でした。脳・心血管疾患に対する抗血小板薬・抗凝固薬の服用例が過半数を占めていました。そこで低容量アスピリン服用例における抗潰瘍薬の予防的投与が奨められます。

 NSAID(アスピリン含む)潰瘍での消化管出血の危険因子としては出血性潰瘍の既往があるものの他はNSAID併用例が多いようです(図4)。

図4

2. 低容量アスピリン服用例における出血性胃十二指腸潰瘍の特徴とその対策

 抗血栓薬による上部消化管出血の発生リスクは低容量アスピリン、クロピドグレル(プラビックス)、ジピリダモール、ビタミンK拮抗薬(ワーファリンなど)に有意差はありませんが、二剤併用になりますとアスピリンとクロピドグレルの併用が最も出血を来しやすいという報告があります(図5)。

図5

 その対策としては、制酸剤と粘膜保護剤などの併用となるでしょうが、具体的にはどのような薬剤を併用するのがよいかを考えてみましょう。アスピリンによる消化管出血を予防するにはH2拮抗薬とPPIのどちらがよいかという話になろうかと思います。図5はその発生頻度を比べた論文です。アスピリン以外ではそれほど差がないものが、アスピリンによる消化管出血の発生頻度はPPIの方が有意に低下させるという結果でした。低容量アスピリン、ワーファリンの併用投与がなされており、潰瘍治癒後も再発防止の観点から、PPIの併用投与を継続すべきと考えます。またNSAIDと抗凝固薬の併用があれば、抗潰瘍薬の予防投与が望ましいです。タケプロンカプセル15の効能・効果に低容量アスピリン投与時の潰瘍再発抑制が追加された。

3. 抗血小板薬を服用中の症例に対し安全に内視鏡処置を行うために

 内視鏡処置には低リスクのものもあれば高リスクのものもある。胃の生検や小さなポリープ切除は低リスクと思われますが、内視鏡的粘膜切除術(EMR)・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)・大腸ポリープ切除術(EMR)・EST(内視鏡的乳頭括約筋切除術・載石術)・経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)などは高リスクになると思われます。内視鏡処置時の抗血小板薬の取り扱いについては日本とアメリカ・イギリスではやや違いがあるようです(図67)。

 日本と欧米のガイドラインの違いは血栓塞栓症の発生頻度の違いから来るものでしょう。抗血栓薬の休薬に伴う血栓塞栓症を回避することを重視しているとみえます。一方、日本では抗血栓薬服用例における内視鏡処置の偶発症として、出血がより強調される形になっています。いずれが正しいということではなくてケースバイケースで対応することが重要でしょう。

 虚血性心疾患に対し、冠動脈インターベンション(PCI)で用いる従来のステント(Bare Metal Stent: BMS)では、約20%で再狭窄が起こり、再治療が必要となるといわれます。薬剤溶出性ステント(Drug-eluting stent: DES)といって、表面に抗癌剤や免疫抑制剤などの薬剤を塗布し、それらが内壁に溶け出すことで新生内膜増殖が抑制されることにより、ステント再狭窄が減少するというものです。DES留置後は、最低1年以上、アスピリン、チエノピリジンの2種類の抗血小板薬を継続投与する必要があります。

 現在当院では可能な限り抗血小板薬の休薬期間を短縮し、内視鏡処置を行う方向に変遷してきています。抗血小板薬服用中の症例に内視鏡処置を行う場合の休薬のプロトコールは確立されていませんので、血栓塞栓症の発症リスクと、内視鏡処置による出血リスクの両面を考慮しつつ、各種ガイドラインを参考に、個々の症例毎に慎重に対応している必要があると考えられます。