「片頭痛の診断と治療」
                       根来清(ねごろきよし)
           山口大学医学部 脳神経病態学(神経内科)講座 助教授
 

1.症候性頭痛と機能性(慢性)頭痛
 髄膜炎やクモ膜下出血などの危険な脳の病気に伴う頭痛は症候性頭痛,片頭痛などのいわゆる「頭痛持ちの頭痛」は機能性(慢性)頭痛に分類される.
 「頭痛持ちの頭痛」の御三家は,片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛である.最近の頭痛の有病率に関する調査から,過去1年間に日本人成人100人中40人が機能性(慢性)頭痛を経験し,うち8人は片頭痛,22人は緊張型頭痛とされる.日本全体では年間に約190万人から450万人が「頭痛」のために,仕事や学業に支障を来しているとされる.
 特に片頭痛は,日常生活支障度が特に高度で,正確な診断と適切な治療は患者にとっても社会にとっても重要である.
 
2.片頭痛の症状,治療
 機能性(慢性)頭痛は検査しても特徴的な異常は見られない.問診を中心とした頭痛の特徴から診断する.
1)症状
 片頭痛は,拍動性(脈に一致して痛む)のことが多いが非拍動性のこともある.4-72時間続き,吐き気,嘔吐,発作中の音・光・におい過敏を高率にともない,暗くて静かなところを好む.頭痛の程度は中等度から高度でしばしば日常生活に支障をきたし,しばしば寝込んだり仕事や学校を休み,登校拒否と間違われることがある.睡眠により軽快・消失することが多い.20%前後に閃輝暗点(視野の一部がジグザグ模様に光り広がりながらその内部が見えなくなる),光視症(ちらちら光るものが見える),しびれ,言葉が出にくくなるなどの前兆を伴う.前兆の後に頭痛が生じる.
 片頭痛の症状は,頭痛の24ー48時間前からの予兆に始まり典型的な場合は前兆,頭痛,嘔吐,睡眠,そして回復するという低気圧の通過のごとき一連の症状を形成する.(図1)
 片頭痛を起こしやすい体質に何らかの誘因が加わり,血管周囲の炎症・拡張,三叉神経の刺激により頭痛が起こると考えられています(三叉神経血管説).30歳までにほとんどが初発する.男性より女性のほうに2-3倍多く,血縁者に片頭痛を持つことが多い.一般的に中高年期から発作が軽症化していく.

図1


2)治療
 頭痛発作時には,アスピリンなどの消炎鎮痛剤,酒石酸エルゴタミン,最近ではトリプタン製剤が第一選択薬とされることが多い.
 頭痛発作が頻回(2-4回以上/月),あるいは一回の発作が重症な患者では予防を試みる.β-blocker,塩酸ロメリジンなどのCa拮抗剤,三環系抗うつ薬,抗てんかん薬などを使用する.
3.その他の機能性(慢性)頭痛
1)緊張型頭痛
 最も頻度の高い頭痛でしばしば慢性である.疲労や不自然な姿勢により急性に生じることもある.頭痛の程度は軽度から中等度で締めつけられるような,あるいはお椀をかぶったような感じがすると表現される.両側性の痛みのことが多いが片側性のこともあり痛むところが移動することも珍しくない.ふらふら,めまい感を伴うことがしばしばで,肩凝り,肉体的ストレス,姿勢異常,変形性頚椎症などによる異常な筋収縮(こり),不安,抑うつ,神経症,薬剤の乱用などでも生じる. 
 疲労や不自然な姿勢が原因のことが多いのでまずこれらを矯正する.アスピリンなどの消炎鎮痛剤の屯用に加えて,適度の運動,精神的肉体的ストレスの解消をはかる.抗不安薬,筋弛緩剤,うつ状態の加わったものでは抗うつ剤を併用する.
2)群発頭痛
 比較的稀な頭痛で男性に多い.20歳代に始まることが多く,片側眼周囲のとてもひどい頭痛で15-90分間持続する.火ばしで目の奥をえぐられる様な痛みと形容され,頭痛発作時には寝ていられずにのたうち回る,あるいはうろうろ歩き回る.頭痛が群
発地震のように繰り返す時期と全く頭痛のない時期がある.頭痛群発期は3-16週間持続し,この間毎日のように,とくに夜間決まった時間に頭痛発作が起こる.1日に平均1-3回の頭痛発作が起こり,頭痛発作時に頭痛と同側の涙,鼻汁,白目の充血を伴う.アルコールで誘発されることが多く,たいていの患者はそれを知っていてこの期間は酒を我慢している.このような群発期は6ヶ月-5年おきにやって来る.
 頭痛発作時には酒石酸エルゴタミン,100%酸素吸入が従来からよく用いられてきたが最近ではトリプタンがもっとも有効と考えられている.頭痛予防に塩酸ベラパミル,副腎皮質ステロイド,炭酸リチウムなどを使用する.

4.最後に
 機能性(慢性)頭痛は脳のCTやMRIを含めて検査で特徴的な異常がないのがその特徴である.これまで医師の側にも,検査に異常がなく脳腫瘍やクモ膜下出血,髄膜炎などの症候性頭痛を除外したらとりあえず安心といったような態度が少なくなかったように思われる.「頭痛持ち」患者にとってはここから先,つまり「適切な生活指導・治療」が重要である.