第101回光市医師会学術講演会
『高尿酸血症の治療』
帝京大学内科学教授:藤森 新(ふじもりあらた) 先生
藤森先生は昭和51年に東京大学を御卒業、平成9年より現職にて御活躍されております。特に最近は『高尿酸血症・痛風の治療』のガイドライン作成に尽力されており、本日はこのガイドラインを中心に診断と治療のポイントをお話しいただきました。
1)頻度と病態、病型
高尿酸血症の患者さんは近年の食生活の欧米化と共に増加傾向にあり、男女比は20:1と男性に多いが、閉経後は女性も多くなる傾向がある。尿酸の溶解度は血液中で7r/dlを超えてくると関節腔内などに結晶を作り、いわゆる痛風発作(関節痛)を来たす可能性が生じる。病型には大きく分けて表1に示すように@尿酸排泄低下型、A尿酸産生過剰型、B混合型に分けられ、随時尿の尿酸濃度/尿中クレアチニン比が0.5以下の場合が@尿酸排泄低下型、0.5以上でA尿酸産生過剰型と分けることができる。
2)他疾患の合併
高尿酸血症は尿路結石を含めた腎障害や肥満、高血圧、糖尿病等の複合疾患の病態を呈する事が多い。1999年のFramingham studyでは高尿酸血症に高血圧や高脂血症の合併頻度は60%以上であり、冠疾患の合併も約20%認められた。耐糖能異常を合併する場合も多く,糖尿病や肥満の合併頻度も高い。これらのマルチリスクファクターの原因のなかで、インシュリンに対する抵抗性の増大は糖尿病や肥満との関連性が強いので,次に述べるような生活習慣の改善が大切になってくる。
3)生活習慣の改善指導(表2)
@ 肥満の改善(インシュリン抵抗性を下げるためにも重要)
A カロリー制限、Bプリン体の制限(レバー300gを4日間食べると血清尿酸値は約2mg上昇した)Cひじき、わかめ等の尿をアルカリ化する食品を多くとる。D一日尿量が2l以上になるように飲水する。E有酸素運動を行う(強い無酸素運動は逆に尿酸を上昇させる)。 例えば身長170p、体重83sの男性が約10sの減量をしただけで尿酸値は8⇒6に低下し、コレステロール、TG, GOT,も正常化した。
特に飲酒はアルコールの代謝過程で尿酸を上げ、尿中尿酸排泄を減少させるので良くない。焼酎,ウイスキーではその影響は少ないが、ビールではこれらの5倍、特に地ビールは悪くキリンビールの3倍も尿酸を上昇させるとのデータを示された。
4)薬物治療(図1)
治療指針としては表3に示す。痛風発作に対する治療としては
@コルヒチンは発作時にはあまり有用ではないので、むしろ前兆期の使用が望ましい。
ANSAIDsは発作には最も有用であり、場合によってはパルス療法として通常量の2〜3倍を投与する場合もある。
B 腎機能が悪くNSAIDsの使用がむつかしい場合はステロイドを15〜30rから使用する。尿酸値の急激な低下は痛風発作を誘発するので注意が必要である。
C 尿酸降下薬の選択としては@尿酸排泄低下型にはプロベネシド、ブコローム、ベンズブロマロン(ユリノーム)等の尿酸排泄促進薬の投与と尿アルカリ化薬の併用が望ましい。副作用としての肝機能異常が1〜3%に認められた。A尿酸産生過剰型にはアロプリノールの一日100〜300rが投与されるが、主に腎排泄により代謝されるので腎機能低下症例では一日50r程度まで減量して用いる。まれに蓄積によりアレルギーの過敏症反応を呈するので、注意が必要である。
図1
(文責:山本憲男)