定例記者会見「子どもの近視について」
と き 令和8年4月16日(木)14:00~14:35
ところ 山口県医師会6階 会議室
本会見の会長挨拶から長谷川常任理事の概要説明までの動画をYouTubeに掲載しています。下記よりご覧ください。
開会挨拶
加藤会長 本日は年度初めのお忙しい中、お集まりいただき感謝申し上げる。
令和8年度第1回目の定例記者会見は「子供の近視」をテーマに、眼科医でもある長谷川常任理事に説明していただく。
文部科学省の学校保健統計(2025年度)によると、視力が1.0未満の割合が小学生で36%、高校生では71.5%になっている。1986年度はそれぞれ19%、53%であったので、大幅に増加している。
スマートフォンやタブレット端末の普及、そして屋外での遊びが減っていることなどが原因と言われている。子どもの近視は進行すると「強度近視」に移行し、緑内障や網膜剥離などの原因になってしまうので、予防が極めて大切である。
近年、近視の予防や治療に関しても新しい情報が入ってきているので、正しい情報を県民の皆さんに知っていただき、子どもの目を守るにはどうしたらよいか、生涯にわたって目を健康に保つにはどうしたらよいかを知っていただきたい。
目を健康に保つことは、高齢になっても役に立つことが分かっている。目が不自由だと家庭内の介護負担が増え、職場でも作業効率の低下などにより離職が増えるとの指摘もある。本日の会見により、近視に対する適切な予防や治療の知見を増やしていただき、多くの県民が目の健康を長く保っていただくことにつながることを期待している。
概要説明
長谷川常任理事 低年齢の子どもたちが近視になっている。これは20年後、30年後に緑内障や網膜剥離など、視力・視野に影響する重い病気になってしまうことを意味している。今、私たち大人が何をしたらよいのか、社会がどのように対策をすればいいのかをお話しさせていただく。
近視は眼鏡をかけていない状態で「近くは見えるが、遠くがはっきり見えない、遠くがぼやけて見える」という状態を言う。
学校の視力検査はA(視力1.0以上)、B(視力0.7~0.9)、C(視力0.3~0.6)、D(視力0.2以下)で区分され、結果が子どもたちに渡される。1.0を切るBから近視が始まっていることが多く、CやDになると、黒板が見えにくい、遠くの標識や信号が見えにくいなどの影響がある。学校検診の後、受診勧告の紙をもらっても約半数近くの方が眼科を受診していないのが、ひとつの問題であると思っている。
現在、小学校では年2回、中学校・高校では年1回、定期的に視力検査が行われている。文部科学省の2024年度の学校保健調査の結果をみると、裸眼視力1.0未満の割合は、高校生では71.6%、中学生では60.61%、小学生では36.84%となっている。高校生、中学生、小学生では令和元年度と比較して割合が上昇しており、近視が増加していることを意味している。このほか、幼稚園では26.53%となっており、スマートフォンやタブレットなどを子守りの道具として使用していることが背景にあるのではないかと思われる。なお、この検診の結果を単なる経過観察で終わらせないことが重要である。
視力1.0未満の子どもたちの多くが近視と言ってもよい。裸眼視力Bの場合60.0%、Cの場合84.8%、Dの場合94.5%が近視である。
近視の子どもの年齢と近視進行速度をみると、6歳の子どもでは-1.06D(Dは「ディオプター」といい、近視や遠視などの屈折異常の程度(屈折度数)を表す)、7歳でも-0.94Dであり、15歳では-0.28Dである。低年齢ほど近視が進みやすいため、進みが早い低年齢の時に進行を抑制することが大切である。
近視を発症した年齢とその後の進行をみると、近視発症年齢が3~6歳では11歳までに-5.48D、7歳でも11歳までに-4.46Dとなり、低年齢で近視になるとその後、強度近視になりやすいことが分かる。-6Dとなると、カルテに「強度近視」という病名をつけることになる。低年齢で近視になると、その後、強度近視になりやすい。今困ってないから大丈夫ということではなく、将来のリスクを減らすために、今から何か対策が必要である。なぜ近視を予防することが必要かというと、見え方の問題ではなく、近視になった子どもたちの将来の目の健康リスクに関わるからである。近視が進めば進むほど強度近視に近づき、目の重大な病気のリスクが高まる。
正常な眼は丸に近い形をしているが、近視が進むとラグビーボールのように奥に伸びていく。この奥を眼底という。眼球の内側は網膜で覆われているが、光が当たる眼底の網膜が中心視力に影響し、視神経という眼球と脳をつなぐ大切な神経の束がダメージを受ける。近視の度が強いほど、眼球が奥に伸びていく。これはメガネをかけると見えるからといっても、眼球の形が元に戻ることはない。その眼球の奥行きの長さを眼軸長と言うが、小学1年生の正常な眼軸長はおよそ22~23mm、成人までにおよそ23~24mmになるが、令和5年度に全国的に行われた検査では、眼軸長が小学6年生男子が24.21mm、女子が23.70mmとほぼ成人に近く、中学3年生男子が24.66mm、女子が24.17mmとすでに成人より長くなっていた。これは成長とともに自然に伸びる長さを超えた変化が起きている可能性があり、生活環境の影響を強く示唆している。また、将来近視が強い大人が増えることを意味している。
強度近視が強くなると目の病気を発症する。内側の網膜に穴が開き、網膜の上の膜と下の膜が剥がれる網膜剥離は、眼球が大きくなって網膜が引き伸ばされるため、発病の危険性が13倍になる。また、視神経という眼底の真ん中にある神経の束が引き伸ばされるため脆弱になり、緑内障になる危険もある。網膜剥離は大きな病気で入院して緊急手術が必要になる病気であり、緑内障は一生付き合っていかなければならない。今の日本人の成人の失明原因のベスト3に入っている疾患である。このほか、黄斑という眼底の真ん中、一番薄くて一番視力に影響がある網膜の中心が近視によるダメージを受け、ひび割れたり、悪い新生血管が出たりする近視性黄斑症は治療も難しく、予後もあまり良くない疾患であるが、発病の危険性が845倍という高率で起こってしまう。子供の近視対策は将来の失明予防、健康寿命の観点でも重要な公衆衛生の課題である。
世界では、2020年に強度近視の人口が3,000万人、有病率が4.0%だが、2050年には世界人口の半分が近視になり、強度近視の人口が10億人、有病率が10.0%になると予測されている。近視の進行を個人の問題だと放置すると、医療費や社会的コストも増える可能性がある。だからこそ、近視予防を社会で実装することが必要になる。
近視の原因について説明する。片親又は両親に近視があるという遺伝要因と、①屋外時間(外遊び)が少なく、②近くを見る時間が長く距離が短いという環境要因がある。遺伝要因は変ることができないが、環境は家庭や学校、地域、行政の工夫で変えることができる。つまり、環境要因については社会の連携で改善できる余地が非常に大きいのが近視対策である。
両親とも近視、片親が近視、両親とも非近視の3群で、屋外活動時間による近視発症のリスクを比較すると、両親ともに近視でも屋外時間にて近視発症のリスクが下がるという報告があり、目安として1日2時間以上の外遊びが理想とされる報告もある。屋外活動には子どもたちの登下校や中休み、昼休みの外活動も含めてよい。家庭や学校で、無理のない形で屋外活動を増やす工夫が重要となる。ここで私たちが気をつけなければならないのは、親が近視になっても子どもは必ず近視になるとは限らず、生活環境が大切である。遺伝要因の話が家庭の責任というからかいになることは絶対に避けねばならない。リスクのある子どもほど環境対策の意義が大きいと考えていただきたい。
海外でも屋外活動が推奨されており、シンガポールでは2001年から大規模なコミュニティスクールベースの屋外活動キャンペーンの成果により、2004~2007年の時点で小学生による近視有病率の減少に成功した。また、台湾では2010年に1日2時間の屋外活動を導入した後、裸眼視力0.8以下の割合が減少することが報告された。中国では教室の天井の一部をガラスにしたり、木陰で授業をするなど、近視にフォーカスした対策がされている。重要なのは個人の努力ではなく、社会全体の仕組みとして屋外活動を増やした点である。学校ベース、コミュニティベースの取組みが鍵となる。日本でも屋外活動が推奨されており、文部科学省が令和6年度に報道発表した資料によると、休み時間に屋外にいつも出る子は視力低下のリスクが低くなり、授業・休み時間以外の屋外利用が多い子や、休日の屋外利用時間が多い子が視力低下のリスクが低くなるという結果が出ている。実際に屋外時間を確保するには、学校の時間割、休み時間の運用、地域の安全、遊び場環境など、複数の主体の協力が必要になる。
屋外活動以外に何がいいのか。近くを見る作業(近業)は、距離が近すぎるとリスクが上がることが示されている。デジタル端末や学習で近くを見る時間が増えている今、子どもたちだけに注意を求めても限界がある。家庭・学校で同じルールを共有することが重要になる。「見るな」と子どもに言うのも無理なため、外来では手元で見るものではなく、可能ならテレビ画面に映して見てほしい、子どもの好きなYouTubeやSNSはできるだけテレビ画面から離れて見てほしいとお願いしている。
WHOのガイドラインでは、就学前の子どもたちのデジタルデバイスの使用目的が示されている。子どもたちは生まれた時からデバイスに囲まれ見る機会も多くなっているが、WHOによると、0歳~2歳まではデバイスを使用しない、3~4歳で60分までが推奨されている。今の日本の子どもたちの実態とはかなり離れている。これは家庭任せにせずに、保育、幼児教育の現場、地域、行政の発信が揃うことで、デジタルデバイス使用の目標が当たり前の基準として根付くようにしたいと思う。
一番分かりやすいのが「30-30-30」である。画面や紙面から30cm以上離して見る。目安として、A4の紙が入るほどの距離で見ていただきたい。30分に1回は声かけをして、「20秒以上目を休めて」と言う。「30-30-30」を覚えていただきたい。大切なのは家庭だけ、学校だけで言うのではなく、共通言語として使うことである。大人でも目が疲れたり、ドライアイになってしまうので、みんなで使うことによって、子どももこのルールを守りやすくなる。
最後に、社会連携として具体的にどのような活動があるかをご紹介する。日本眼科医会が作成した近視啓発動画があり、YouTubeで公開されている。また、子どもや保護者向けの近視に関する啓発資料が日本眼科医会のホームページに掲載されている。文部科学省でも啓発リーフレットを作成しており、「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」も作成している。山口県内の小学校で、夏休み前に学校で啓発チラシを配布しており、眼科でチラシやQRコードが記載された小さいカードを渡すようにしている。このように、正しい情報源にアクセスすることによって、誤った情報に触れる機会を減らしていきたいと願っている。
まとめとして、学校検診で裸眼視力の低下は近視の増加を示している。低年齢ほど近視が進みやすく、強度近視のリスクが高まる。視力Bの段階から眼科受診につなげるよう、早期発見・早期対応が重要になる。社会全体として、家庭・医療・社会が連携した対策が必要になる。個人の努力だけでは限界があり、生活環境全体の見直しが求められている。本日お話ししたことは専門家だけでなく、保護者や教育関係者、地域社会全体で共有していただきたい重要な課題である。皆さまの報道を通じて、子どもの近視の現状と早期発見・早期対応の重要性について、正確に、わかりやすく伝えていただければ幸いである。
質疑応答
質問 視力1.0未満が近視ということでよいか。
長谷川常任理事 弱視や斜視によるもの、あるいは他の疾患によるものもあるが、8割~9割は近視と思っていただいてよいかと思う。
質問 対策の中にある1日2時間、外で遊ぶことによって「遠くを見る」ことを促すという意味か。
長谷川常任理事 恐らく、太陽光に含まれている特定の光が近視の抑制に働くのではないかと考えられている。まだ一般化されていないが、赤い光を専用の機械で1日2回3分ほど目に当てる「レッドライト治療法」というのが出てきている。過去には、遠くを見ることが良いと言われてきたが、特定の光を当てると近視の抑制になることが最近分かってきた。また、世界的に子どもの近視に対する興味が高まっており、自由診療になるが、特殊な低アトロピンという瞳を開く目薬や、夜間にハードコンタクトを使う「オルソケラトロジー」、特殊な多焦点ソフトコンタクトレンズ、近視対策用のメガネなど、ここ数年でさまざまな研究が進んできており、アジアやヨーロッパで広まっている。かなりの費用がかかり、適応も違ってくるため、会見の概要説明では取り上げていない。
質問 裸眼視力1.0未満の割合の推移が示されていたが、例えば10年後に同じグラフを作った時に、幼稚園の子たちが高校生になると、例えば75%や80%という数字が並ぶようなグラフにもなり得るのか。
長谷川常任理事 今の流れでは、そのように予測される。今、本当に近視が多い。小学校高学年や中学校ではコンタクトレンズをするので、見た目と近視が実感としてわかりにくいと思うが、高校生になると、視力の良い子の方が少数派になっている。
質問 近視が東アジアに多いという話があったが、どのような理由があるのか。
長谷川常任理事 そこは私にはわからないが、恐らく遺伝的なものがあるのではないかと思われる。東アジアが勉強熱心ということもあるのかもしれない。その国のGDPが増えると近視が増えると言われており、勉強時間も増えるため、学歴や競争社会の強いところほど、近視が増えているのではないか。
質問 先ほどの回答にあった近視の進行を抑制するコンタクトレンズを見聞きするが、現場の医師としては使い勝手や効果はどうか。
長谷川常任理事 実際にはこの数年で紹介されてきたので、大学病院などで始まっている状態である。まだ一般的ではないが、国の許可がもうすぐ出るだろうと言われている。しかし、自由診療であるので高額な費用がかかるため、誰もがアクセスできる治療法ではない。まずは外で遊んでスマホを控えめに、ということが大切だと思っている。