テーマ「近い将来、子宮頸がんで苦しまないために、今、HPVワクチン定期接種を受けましょう!」

日 時:令和4年7月14日(木)14:00~14:45
場 所:山口県医師会 6階 会議室

《加藤会長挨拶》
 本日は、新型コロナウイルス感染症、オミクロン株「BA.5」の感染急拡大の中にもかかわらず、お集まりいただき感謝申し上げる。このような中でも、県民の命を守るために必要な情報は確実に県民の耳に届ける必要があると判断し、本日の記者会見を企画した。
 この子宮頸がんを予防するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、積極的な勧奨が本年4月より、ようやく再開された。県民の皆様に、このことを幅広く知っていただきたい。ヒトパピローマウイルスは子宮頸がん、直腸がん、咽頭がんなどの原因となる。2013年に積極的な勧奨が差し控えられ、70%あった接種率が1%以下に減少した。その結果、世界的には子宮頸がんは減っているにもかかわらず、わが国では減っていない。直近では年間約11,000人が子宮頸がんに罹り、約2,900人が命を落としている。しかもこの子宮頸がんは、罹る年齢が20歳~40歳の若い女性に多いとされている。子宮頸がんにかかると子宮を取ってしまわないといけなくなり、赤ちゃんが産めなくなる。また、子育て中の若い女性が命を落とすと、子育ても大変になる。なぜこのような状況になったかというと、ワクチン接種後に痙攣や麻痺などの症状が出て、それがワクチン接種のためではないかと騒がれ、積極的な勧奨が中断になった。ところが、大規模な研究がされて慎重な議論の結果、ワクチン接種とは関係がないことがはっきりしたので、今回の積極的な勧奨再開となったわけである。そのことを県民の皆様に知っていただき、子宮頸がんはワクチンを接種することで防げるがんであり、がんにかからない人が1人でも多くなるように、また、がんで命を亡くす人が1人でも減ることを願って、私の挨拶をさせていただく。

《縄田常任理事説明》
 子宮頸がんという病気にかからないためにどうしたらいいか、という点について、HPVワクチンを中心に、お話しをさせていただく。
 子宮頸がんとは、赤ちゃんを育む大切な臓器である子宮の入口にできる女性特有のがんである。日本では、毎年、約11,000人がかかり、約2,900人が亡くなる怖い病気で、交通事故による死亡者数とほぼ同じである。妊娠・出産・子育て世代の若い女性に増えていることが特徴である。
 子宮頸がんの原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの持続的な感染である。多くの人が感染する、ありふれたウイルスであるHPVが、子宮の入口の細胞に感染しても、ほとんどは、自身の免疫力によって自然に治癒する一過性の感染だが、一部は感染が持続し、前がん期を経て、数年~十数年をかけてがんになる。性器出血などの症状がきっかけでみつかった子宮頸がんは、命にかかわるような進行した状態になっている。
 進行した子宮頸がんに罹ると、命を救うために、大きな手術、抗がん剤、放射線による大変な治療を受ける必要がある。治療後も、合併症や尿が出にくくなるなどの生活の質の低下につながる後遺症に悩まされたり、妊娠や出産の機会を奪われるだけではなく、本当に大変なつらい思いをされる20歳代から30歳代の女性が増えているのが、日本の現状である。
 近い将来、このような子宮頸がんで苦しまないためには、HPVワクチンの接種と子宮頸がん検診の受診の2つが大切である。つまり、HPVワクチンで感染を防いで、がんに罹るリスクを減らすこと、そして、子宮頸がん検診を定期的に受けて、前がん期や初期がんの段階で見つけて治療を受けることである。ただし、ワクチンはすべての子宮頸がんを防ぐことはできず、がん検診も発見しにくいタイプのがんもあるので、二つの手段のどちらも大切であることを知っておいていただきたい。
 新型コロナウイルス感染症のニュースの中で、世界保健機関(WHO)からのいろいろなメッセージを聞かれたことがあるかと思うが、実は、2018年に全世界的に取り組むべき公衆衛生上の問題として、子宮頸がんの排除のための3つの柱とその目標が、世界戦略として提唱されている。15歳以下の女児のHPVワクチン接種率90%、35歳と45歳時の子宮頸がん検診受診率70%、そして、子宮頸部病変が見つかれば、しっかりとした治療をうけられること、である。
 世界の多くの国では、WHOが有効性と安全性を確認しているHPVワクチン接種を、国の予防接種プログラムとして、思春期の子供たちに推奨している。では、なぜ日本では、積極的勧奨が控えられていたのか。日本では2009年に、HPVワクチンが初めて承認され、2013年4月から予防接種法に基づく定期接種となった。ちょうどそのころ、「HPVワクチン接種後に、体の広い範囲で持続する痛み、などの重篤な副反応の疑いがある」という、いわゆるHPVワクチンの副反応報道があり、2013年6月、厚生労働省は積極的勧奨の差控え、つまり、「副反応の発生頻度が明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではない」と勧告がなされた。この勧告をきっかけに、市町村から、接種対象者への個別勧奨が行われなくなり、日本では、HPVワクチンについてほとんどの方が知らないという状況になった。
 その後、HPVワクチンの安全性について、2016年に厚生労働省研究班による大規模な全国疫学調査が実施されている。結論として、HPVワクチン接種後に報告されている多様な症状は、「接種歴あり」と「接種歴なし」の両群に存在し、一方の群だけに特異的な症状はなかった。つまり、HPVワクチン接種歴のない青少年においても、接種後の多様な症状を有する者が一定数存在することが明らかとなった。さらに、HPVワクチンの安全性の調査として、HPVワクチン接種後に報告された多様な症状とHPVワクチンの関連性を評価するために実施された大規模なアンケート調査による名古屋スタディでも、非接種群と比較して、HPVワクチン接種後に報告された24の症状のいずれの発症率も、接種群で、有意な上昇は認められなかった。この二つの調査結果は、HPVワクチンの積極的勧奨差控えの中止の判断に大きく影響したと考えられる。
 HPVワクチンの有効性については、HPVワクチン接種と子宮頸がん発症の関係を調査した結果が、2020年に初めてスウェーデンから報告された。HPVワクチンを接種すると、子宮頸がんにかかるリスクが63%減少することが分かった。17歳未満で接種した場合は88%減少、17歳から30歳で接種した場合には53%減少と、特に、若年での接種の方がより効果的であることが示された。
 HPVワクチンの種類について、現在定期接種として小学6年生から高校1年生の女子が無料で受けられるのは、HPV16/18型の感染を防ぐ2価ワクチン、4価ワクチンの2種類であり、先ほどのスウェーデンからの報告は4価ワクチンが用いられていた。4価ワクチンは、尖圭コンジローマという疣の原因となるHPV6/11型の感染も防ぐ。なお、4価ワクチンは、2020年12月から、肛門がん、尖圭コンジローマを防ぐために、9歳以上の男性も任意接種が可能となっている。また、9価ワクチンは、従来の4価に加えて、HPV31/33/45/52/58型の感染を防ぎ、より高い子宮頸がんの減少効果が期待され、2021年2月から、9歳以上の女子に任意接種可能となっている。
 山口県医師会では令和3年度から定期接種対象者に対して、HPVワクチンの科学的根拠に基づいた情報提供に取り組んできた。令和4年4月以降、市町村から定期接種対象者に対して、個別通知が順次行われているところだが、ワクチンに関して、不安なことやわからないことがあれば、お近くの医療機関で相談していただきたい。万が一、接種後に、多様な症状を認めた場合には、接種医がしっかりと診療し、必要に応じて、多様な症状を呈する患者に対する適切な医療を提供できる協力医療機関として選定された山口大学医学部附属病院と連携し、診療する体制も整備されているので、安心して接種をご検討いただきたい。
 この4月から、HPVワクチンの積極的勧奨が再開されたが、まとめとして、メッセージとさせていただく。いま、なぜ再開?と思われた方も多いかと思うが、2021年11月、厚生労働省の審議会において、「HPVワクチンの安全性について、特段の懸念が認められないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回っていると認められた。」とされ、約9年間にも及んだ、積極的勧奨の差控えの状態を終了することが、妥当とされたからである。すでに、世界の多くの国では、WHOが有効性と安全性を確認しているHPVワクチン接種を、国の予防接種プログラムとして、思春期の子供たちに推奨している。また、HPVワクチンは、誰もが若くして罹りうる、子宮頸がんのリスクを大幅に減らすだけでなく、その他のHPVが関連するがん、例えば、中咽頭癌、口腔がん、肛門がん、外陰がんなどの予防にもつながる。
 最後に、HPVワクチンのキャッチアップ接種についてお話しする。HPVワクチンの積極的勧奨の差控えにより、接種機会を逃した方に対して、公平な接種機会を確保するために、積極的勧奨の再開に合わせて国が設けた施策で、対象者は、平成9年度生まれから、平成17年度生まれまでの女子で、令和4年4月から令和7年3月までの3年間に限り、無料で接種ができる。この機会を逃すことなく、HPVが原因のがんを予防する、HPVワクチンを受けられることをお勧めしたい。なお、定期接種の年齢を超えて、積極的勧奨の差控えの期間に、自費で、2価もしくは4価ワクチンを接種された方は、償還払いが可能であるので、市町村にお問い合わせいただきたい。

質疑応答
〇子宮頸がん関連

HPVワクチンの接種方法について
《縄田常任理事》
 HPVワクチンの定期接種対象者には、市町村からお知らせが届くので、それを持って医療機関を予約していただければ、受けることができる。

・山口県の子宮頸がん罹患率について
《縄田常任理事》
 山口県では、子宮頸がんの浸潤がんは年間約120名おられ、初期の上皮内がんはその2倍~3倍いるといわれている。

この時期での会見について
《縄田常任理事》
 実際、日常診療に携わっていると、HPVワクチン接種を希望されてこられる方は少しずつ増えていることは確かだが、接種の有効な小学校6年生から高校1年生の時期に、できるだけ早く打ってもらうのが、将来若い時期に発症する子宮頸がんを予防する意味では非常に効果的であるので、少しでも早く知っていただき、接種という選択肢について十分に議論いただいて受けていただきたい。子宮頸がんについて、がん検診とワクチンという有効な手段を知っていただき、社会全体で広めることで、将来、若い時に子宮頸がんで大変な思いをする人を1人でも減らしていきたいという思いがある。
《加藤会長》
 小学校6年生から高校1年生が対象であるので、夏休みに積極的に打っていただきたい。できるだけたくさんの方がワクチンで抵抗を持てば、コロナ感染症も同じだが集団免疫ができるので、他の肛門がんや咽頭がんに罹る人も少なくなる。
《長谷川常任理事》
 4月から勧奨が再開し、今が、対象者に通知が届いたタイミングと思われる。また、縄田常任理事と相談し、時間的余裕のある夏休みに1回目を打ってほしいという意味を含め、記者会見を開催した。HPVワクチンについて積極的に報道していただき、家族からも接種対象者やキャッチアップ接種対象者にワクチンについて伝えてほしい。

〇県医師会長就任について

《加藤会長》
 山口県の医療の課題として若手医師の不足が最大の課題と思っている。若手医師が主に時間外救急を担っているため、若手医師が少ないと時間外救急がうまくまわらない。また、55歳以上の医師は比較的多いが、その下の世代の医師がとても少ないので、若手医師の急速な補充が課題である。山口大学出身の医師ももちろん必要で、県外からも医師が来られるような働きやすい環境を作っていきたい。山口県が医師にとって働きやすい環境になれば、他県からも医師が来るのではないかと期待している。そういった施策を県にも要望したいと思っている。

〇新型コロナウイルス感染症関連

感染拡大について
《加藤会長》
 今は暑い季節なので、冷房をつけて換気が不十分になっている。また、オミクロン株「BA.5」は感染力が高いことも原因である。山口県と全国の感染者数はほぼ同じように動いている。この波を防ぐには、ワクチンの接種率をもっと上げていくことが大切である。山口県は他県に比べて1回目、2回目のワクチン接種率が高く、感染しても重症化する人は少ないと思っている。子宮頸がんもそうであるが、新型コロナウイルス感染症に対してもワクチン接種が非常に大切である。

県外の人と接触する機会での注意点について
《加藤会長》
 密にならないことと、マスクをすることが大切である。屋外ではマスクする必要はないと思われるが、密になりそうな場合はマスクをして、会話は少なめにしていただくことが大切である。

医師会として注目してほしいポイントについて
《加藤会長》
 入院率が50%を超えてくると、医療にも負荷がかかってくる。昨年の第4波と比べ、治療薬があり、重症例は少ないので、10日間の入院で退院される。病床がまわっていけば、乗り切れると思われる。

 

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