実例での補正基準の評価と介護サービス必要量

 それでは果たしてこの補正基準で過去の「元気な痴呆・問題行動例」の判定がどう変化するのか、また実際に介護サービスは今まで通り受けられるのか、ケアプラン作成で困ることはないのかを、少数ですが実例で検討してみました。
 今後はこうした事例を積み重ねて、我々の補正基準が妥当な基準かどうかを検討して行きたいと思います。
 要するに、いくら基準を作っても、介護の現場で利用できない基準であっては意味のないものだと思うからです。

 AさんとBさんは、実際のケアカンファランスに提出された症例で、いずれもすでに認定審査を終え、AさんとBさんともに一次判定では「要支援」でしたが、特記事項・問題行動を加味して認定審査会で「要介護1」の判定となっています。
 AさんとBさんの調査結果や判定結果、及び今回の補正の結果は下の表-2に示しています

 そこで今回はAさんとBさんの二次判定の結果「要介護1」の支給限度額で、在宅での介護サービスを受けるときに、ケアマネや家族や本人が納得できるサービスが受けられるかどうか、また過去に受けていたサービスが受けられるかを検証しました。

今までの判定で希望する介護サービスは受けられるのか
表-1-AにAさんのケアプランを示します。
Aさんのケアプラン  認定は「要介護1」限度額165,800円でのケアプラン
 「Aさんは70歳の女性で、一人暮らし、娘さんは同一の町内にいるが、死亡した夫の母親(要介護者)・子供3人の生活で昼間は仕事に出ている。従って土日くらいには母親の自宅訪問や少しの身の回りの世話は出来るが平日の介護は難しい。本人は動くことは不自由なく10Km位離れた娘宅まで歩いて行くことがあるが、迷ったり帰れないことが多い。夜間の徘徊もする。近所の人が見つけたときは連れて帰っている」  ケアマネの報告書から。
表-1-A

午前

デイサービス

デイサービス

デイサービス

ホームヘルプ

ホームヘルプ

ホームヘルプ

家族

午後

ホームヘルプ

ホームヘルプ

ホームヘルプ

ホームヘルプ

ホームヘルプ

家族

家族

深夜

 サービスの利用料金
   ホームヘルプサービス30分 朝・夕  2100円 36回   計75,600円
   デイサービス             6390円 13回   計83,070円
                              合計158,670円
 要介護1の支給限度額でケアマネのたてたケアプランである。週3回のディサービスとそれ以外の日の午前の
見回りを兼ねたホームヘルプ、夕方の家事援助・服薬管理・安全確認のヘルプサービスであり、これで限度額
となっている。介護保険制度まではデイサービスを週5回利用していたので平日昼間の介護は問題なかったが
要介護1では、ディサービスをこれ以上は増やせない。

 ケアマネや家族の追加希望のサービスは朝のホームペルブサービスの追加であり、食事・安否の確認が
主なサービスとなる。これをプランに入れるとすれば下記の通りであり、要介護3の認定が受けられねば利用
出来ないことになっている。
 ホームヘルプサービス 朝の確認    2100円 27回   計56,700円
                              合計215,370円
                必要な支給限度額 要介護3   267,500円

 一人暮らしであり将来的には痴呆の施設入所がベターとなると考えられるが、施設の受け入れは空床も
少なく、また「要介護1」の認定では入所困難で現実的には今の介護を続けるしかない。
   

Bさんのケアプラン   認定は「要介護1」165800円でのケアプラン
表-1-BにBさんのケアプランを示します。
 
「Bさんは75歳女性で多発性脳梗塞・痴呆、高齢の夫と二人暮らしである。夫が介護しているが介護抵抗
ひどく、夫もあまり世話をしたくないと言う。」  ケアマネの報告書から。
表-1-B

午前

デイケア

デイケア

デイケア

ホームヘルプ

ホームヘルプ

ホームヘルプ

午後

訪問看護

深夜

 サービスの利用料金 
    訪問看護 30分          4250円  4回    計17,000円
    ホームヘルプサービス1時間    4020円 13回    計52,260円
    デイケア              7080円 13回    計92,040円
                              合計161,300円

 要介護1の支給限度額でケアマネのたてたケアプランである。週3回のディケアとそれ以外の日の午前の
見回りを兼ねたホームヘルプ、週1回の訪問看護が計画されこれで限度額となっている。
 介護保険制度まではデイケアを週5回利用していたので平日昼間の介護は問題なかったが
要介護1では、ディサービスをこれ以上は増やせないのが現状である。                                夫の希望は出来るだけディケアに行って欲しいが、これ以上増やせないならホームヘルプのない日に週3回
ホームヘルプを追加して欲しいとのことであった。この希望を入れるには要介護2の限度額が必要になる。
 追加希望のサービス
    ホームヘルプ30分のサービスを毎日  2100円 13回    計27,300円
                               合計188,600円
                  必要な支給限度額 要介護2   194,800円

在宅サービス支給限度額(参考資料)

要支援
要介護1
要介護2
要介護3
要介護4
要介護5
61,500円
165,800円
194,800円
267,500円
306,000円
358,300円

 2人ともいずれもケアプランは「要介護1」の支給限度額165,800円で計画されていますが、Aさんでは朝の30分のホームヘルプサービスの追加を希望されましたが月27回の2100円のヘルプサービスを追加するには「要介護3」の支給額がなければサービスが受けられない事になります。
 一方Bさんも週3回のデイケアを基本にすると、ホームヘルプサービスも毎日は受けられず週3回となります。毎日30分のホームヘルプサービスを受けるには「要介護2」の限度額が必要になります。
 介護サービスと支給限度額という意味でも、現在の認定「要介護1」の認定では困っていることが分かります。
 せめて今まで受けてきたサービスを維持するためにはAさんとでは「要介護3」Bさんでは「要介護2」が必要なのです。ましてもっとディケアやデイサービスを多くするためにはこれ以上の要介護度が必要と言うことになります。それほど在宅の痴呆例の介護は困難なのです。

補正基準の評価

 そこで我々の医師会補正基準で認定結果の補正してみることにします。表-2のようにAさんでは問題行動の合計が33点となり、6群の補正1.3倍で43点となります。43点を29分に加算し72分のとなり補正一次判定は、「要介護3」となります。
 Bさんでは7群の合計は26.5点、6群の補正1.3倍で34点となり、24分に加算し合計が60.5となり、一次判定の補正は「要介護2」となりました。
 この2人の例はたまたま補正後の認定結果が介護サービスの希望量と一致しました。もっと多くの症例で検討してゆくことが必要だと思います。

表-2

年齢

Aさん
70歳
Bさん
75歳
Cさん
72歳

性別

女性

女性

女性

障害自立度

J2

J2

J2

痴呆度

IIIa

IIIa

IIb

第2群

(移動)

1.寝返り

2.起き上がり

3.両足での座位

4.両足つかない座位

自分の支え

5.両足での立位

6.歩行

7.移乗

第3群

(複雑動作)

1.立ち上がり

2.片足での立位

支え必要

3.浴槽の出入り

4.洗身

一部介助

第5群

(身の回り)

3.居室の掃除

全介助

4.薬の内服

一部介助

一部介助

全介助

5.金銭の管理

全介助

一部介助

全介助

6.ひどい物忘れ

ある

ある

ある

7.周囲への無関心

ある

第6群

(意志疎通)

1.視力

2.聴力

やっと聞こえる

3.意思の伝達

ほとんど不可

4.指示への反応

ときどき通じる

5ア.毎日の日課理解

できない
できない

 イ.生年月日をいう

できない

 ウ.短期記憶

できない
できない

 エ.自分の名前をいう

 オ.今の季節を理解

できない

 カ.場所の理解

できない

第7群

(問題行動)

ア.被害的

2
ある
2
ある
2
ある
2

イ.作話

1
ある
1
ある
1
ある
1

ウ.幻視幻聴

2
ときどき
1
ある
2
ある
2

エ.感情が不安定

2
ある
2

ある
2

オ.昼夜逆転

6

ある
6

カ.暴言暴行

7
ときどき
3.5
ときどき
3.5
ある
7

キ.同じ話をする

1
ある
1
ある
1
ある
1

ク.大声をだす

3

ある
3

ケ.介護に抵抗

7
ある
7

ある
7

コ.常時の徘徊

6
ある
6
ある
6
ときどき
3

サ.落ち着きなし

2

シ.外出して戻れない

7

ス.一人で出たがる

5
ときどき
2.5
ある
5

セ.収集癖

2
ときどき
1

ある
2

ソ.火の不始末

6
ある
6
ある
6

タ.物や衣類を壊す

6

チ.不潔行為

4

ツ.異食行動

3

テ.性的迷惑行為

3

要介護認定等基準時間
75
29分
33
24分
26.5
31分
36
一次判定
要支援

要支援

要介護1

二次判定結果
要介護1

要介護1

要介護3

7群の合計点数

33

26.5

36

6群の項目数による補正

43

34

36
判定補正時間(一次判定時間+補正点数)

72

60.5

67
補正後の予測判定結果
要介護3

要介護2

要介護2

 Cさんはまだ介護サービスは受けたことがなく、これまでも、あまりに問題行動が多く今後も在宅介護を続けることは困難な例かも知れませんが、初回の認定審査会では問題行動と主治医意見書を加味し審査会の雰囲気で二次判定は「要介護3」となっています、2ランクアップができたことは、問題行動以外の数項目で「要介護1」がとれていた為だと思いますし、むしろラッキーな例だと思います。
 この例では、7群の合計は36点と多かったのですが、6群の該当項目がなく31分に加算し37分となり「要介護2」の補正判定となりました。このように補正基準でも二次判定が下がることも考えられますが、これは仕方ないことだと考えます。

 今回の検討例は僅かですが、このように、数値化された補正なら少しは説得力もあるものと思いますし、審査会のその場の雰囲気で要介護度を変更するよりは納得できるものと思います。
 そしてまだ十分な検討の積み重ねは出来ていませんが、何とか出来そうな気がしていますし、当分我々の医師会の審査会では各合議体でこの補正基準での認定審査を行って行きたいと考えています。

 と同時に、症例を積み重ねて時間配点・補正率なども見直して行きたいと思います。

                                平成12年7月14日


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