玖珂郡医師会 認定審査会合議体長
吉岡春紀 河郷 忍 藤政篤志 福田瑞穂 松原 宏
玖珂郡医師会で作成した「元気な痴呆・問題行動例の補正基準」を使った認定審査は、各合議体の医師以外の審査委員にも説明し、自治体の了解を得られたので8月の審査から開始しました。その後認定審査を続けていますが約3ヶ月を経過しましたので、「補正の結果」をまとめてみました。
認定審査会の背景
玖珂郡医師会の関係する認定審査会は、玖珂町・周東町の2町の玖西地区審査会と美和町・美川町・錦町・本郷村の3町1村の玖北地区審査会にわかれ、審査合議体は玖西地区が3合議体、玖北地区が2合議体です。
医師会からの審査員は玖西地区9名、玖北地区8名です。
玖西地区は岩国市・柳井市・徳山市の中間に位置し、主に農村地区ですが岩国市へのベッドタウン化となりつつあります。人口は約26,000人。65歳以上の高齢人口は約5,500人で高齢化率は22.0% (65歳以上人口)です。半年間の認定審査数は約860人です。
玖北地区は、玖珂郡の山間部で広島県、島根県の県境に位置します。人口は約13,500人で過疎化が進んでいます。65歳以上の高齢人口 は約4,400人、高齢化率は高く平均33%にもなります。半年間の認定審査数は約600人です。
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10,870 |
2,060 |
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14,980 |
3,420 |
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玖西地区 |
25,850 |
5,480 |
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5,430 |
1,630 |
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2,070 |
710 |
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4,530 |
1,560 |
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1,490 |
540 |
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玖北地区 |
13,520 |
4,440 |
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39,370 |
9,920 |
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審査数
認定審査会は玖西地区では通常は毎月5-6回のペースで開かれていますが、玖西地区での更新認定は大半が9月以降であり、6-8月は申請数が少ない状態でしたのでこの間の審査例は少し少なく、玖北地区では8月にはほぼ更新認定に入っていますので通常と同じ毎月3-4回の審査を行いました。
補正基準を使った審査は(8月中旬から10月の申請例)、玖西地区認定審査会で257例、玖北地区認定審査会で242例、合計499例でした。
補正の対象
補正の対象は身体障害の自立度(寝たきり度) N・J・A群で、かつ第7群に問題行動を有する例としました。
障害度 B・C群は今回はこの補正値を使った審査は行いませんでした。
勿論二次判定でB・C群には問題行動を考慮しなかったわけではなく、これらの群では今まで通り「痴呆・問題行動」を調査票・意見書・特記事項などから勘案した二次判定を行うことにしました。
玖西地区認定審査会 257例のうち補正を行った対象例は男 4例・女
19例 計 23例(補正を行った割合 8.9%)
玖北地区認定審査会 242例のうち補正を行った対象例は男 5例・女
16例 計 21例(補正を行った割合 8.7%)でした。
玖西地区・玖北地区の補正例の一覧を下記の表に示します。
表の説明
「在・施」とは申請者が在宅サービスか施設入所か。「前回」とは前回の審査による二次判定結果をあらわし、今回は更新認定の方です。空欄は新規申請例を表します。障害度・痴呆度は調査票のランクを記入しています。第6群の数字は、第6群-5のアからカまでの意志疎通の「異常項目の有り」の数です。
「基準時間」とは一次判定の要介護認定等基準時間で、その結果が「一次判定」です。
「補正値」とは第7群の問題行動の点数の合計と第6群の補正率をかけた数値で、今回、我々が行っている補正の値です。
「補正時間」は一次判定の基準時間と補正値を足したもので、補正後の二次判定のための基準時間と考えています。
「二次判定」は審査会での最終判定結果です。*印は補正での変更度より二次判定が下がった例に付けています。審査の結果補正例も変更される場合もあります。「UP度」とは二次判定が一次判定よりどれだけアップしたかです。
玖西地区
玖西地区の審査結果は上の一覧の通りで、表の「前回」と書かれている欄の結果書いてあるものが更新認定を行った例で14例、数字のない赤い背景は初回の審査で9例でした。
また玖西地区ではこの期間の申請は在宅の審査例が19例と多く、施設入所の更新例は4例でした。
玖北地区
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更新認定例の判定の変化
玖西地区・玖北地区での更新認定例(14例と21例)計35例で、初回の二次判定結果と、今回の補正二次判定結果を比べてみると(緑色の欄「前回」と「二次判定」の欄の比較ですが)、今回の補正でも判定結果が変わらなかった例13例(37%)、1ランクアップ17例(49%)、2ランクアップ4例(11%)でした。また1例(3%)のみ1ランク軽い判定になりました。
このことは前回(初回の認定時)の一次判定結果は不明ですが(痴呆例の二次判定については我々の地区の審査会では痴呆・問題行動はできるだけ特記事項など取り上げて申請者に有利になるように勘案するようにしてきましたが)、今回の認定で一致したのは37%であり、この間、介護の度合いが変化しなかったと仮定すれば、約2/3は今回の補正基準で介護度がアップすることになり、やはり基準のない審査・二次判定はいかに難しいかが実感されます。
判定の変更
下の表は、一次判定の結果と補正後の二次判定の変化です(縦軸が一次判定結果、横軸が補正基準で補正した二次判定結果です。)
*印は補正基準ではこのランクに上昇したが、審査会の協議で1ランク下降修正した例です。
例えば玖西地区の第1例で一次判定「非該当」例では問題行動の補正で介護基準時間は24分から37分となり、補正後の参考判定は「要介護1」と判定されたが、審査会では、主治医意見書や前回認定度、介護に変化が見られないこと等が審議され、二次判定は「要支援」となった場合で、こんな例に*印を付けています。
今回は補正後の結果では一次判定より3ランク以上のアップとなる事例は5例ありましたが、二次判定では主治医意見書や特記事項、前回の判定の比較などを勘案し、各合議体でも3ランクアップは自粛したのか?、2ランクアップまでにとどまっていました。
勿論、各合議体には二次判定での「3ランク以上のアップはしないこと」などの取り決めは決めておりませんでした。
2地区の審査会のこれまでの約500例の審査では、厚生省の二次判定変更事例集に見られた、第7群の問題行動全てにチェックがあるような重症事例は少なく(現実にもかなりまれな例だと思います)、要介護5への二次判定は1例だけでした。
玖西地区
玖北地区
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玖西地区では二次判定の1ランクアップ17例(74%)、2ランクアップ6例(26%)
玖北地区では二次判定の1ランクアップ14例(66%)、2ランクアップ7例(33%)
全体44例では二次判定の1ランクアップ31例(70%)、2ランクアップ13例(30%)でした。
補正結果より二次判定結果を減らした例は全体で8例(18%)でした。内5例は補正では3ランクアップを2ランクに調整、3例は補正の2ランクアップを1ランクに調整したものです。
まとめ
まだ補正の審査を始めて3ヶ月足らずで、十分な手応えや結論は得られていませんが、今まで行ってきた認定審査に比べて、少なくとも今の審査では、介護に手間どる異常な問題行動が多いほど、また意志疎通ができないほど、要介護時間は増えるので、二次判定においても基準が確立しており、より妥当な認定となっているものと考えています。
対象例の割合は、今後、認定例が増えなければ分かりませんが、年間審査予定数1450例の1/3の500例を審査した現在までの審査では、玖西地区8.9%、玖北地区8.6%程度であり、全体でも多くても1割弱程度であると思われ、我々の審査会での年間症例は130例程度と考えられます。
勿論、障害自立度B・C群の補正を考えても良いのですが、もともと身体障害のひどい例では介護度は高く出ているので、今回の対象にはしませんでした。
また、この補正を行っていて、問題行動が少なく補正しても要介護度に変化なかった例があることが分かりました。例えば要介護認定基準時間が31分で一次判定は「要介護1」となり、問題行動での補正が10数分の場合には補正後の二次判定も「要介護1」となった事例等です。しかし今回の集計は「補正で変化した事例」を集めましたので、この集計には現れていません。本来は変化しなかった例数も検討が必要でしたが、このような理由で、どの程度の数があったのかは不明です。
補正を行った今の問題点
1.問題行動の点数の付け方や配分など。
一次判定の要介護認定等基準時間そのものが逆転したり、増えなかったりでおかしい事例が多いのに、これに補正値を加算することに意味があるのかと言う疑問は必ずあります。また問題行動の配点に対する理由づけも、絶対的なものではありません。実際の介護者の認識が異なることがあります。また調査票で取り上げられている問題行動も「あり」「時々ある」で片づけられるかどうかも考えれば疑問です。
例えば「暴言・暴行」には比較的高い点数を与えましたが、暴言だけなら介護者の手間がかかりすぎることはありませんし、1週間に1-2度の暴言も「あり」ですし、毎日介護中に手を挙げたり、噛みついたりしているのも「あり」です。
2.在宅と施設での問題行動の取り上げ方は自ずから異なるはずです
施設調査と在宅調査で問題行動の取り上げ方が違うはずですし、介護の手間も異なります。今の認定審査は同じレベルで調査し認定審査でも在宅と施設の考慮は出きません。在宅と施設での問題行動の取り上げ方に差があるものとして、「常時の徘徊」と「外出したら戻れない」を考えたとき、在宅で勝手に出て行き、戻れなくなることは、事故に遭遇する危険もあり生命にも危険がある大きな問題ですが、施設では施設内の徘徊や帰る部屋を間違う程度なら、生命の危険はありません。また「火の不始末」なども在宅では火事の危険がありますが、施設では煙草を吸う方以外、火を使うことはまずありませんから問題行動には取り上げられません。将来的には在宅・施設の調査項目自体を検討し直すべきだと思います
3.調査票だけのでよいのか、主治医意見書の問題行動を加味するかどうか
調査書と主治医意見書の違いは多く見られます、むしろ一致する方が希で、今回は調査書を基本にして補正判定を行いましたが、明らかに異なる事例もあり、二次判定で調整しました。但し在宅の調査の場合、問題行動の有無を1時間程度で把握できるとも思えません。どちらが正しいとは言えないこともあります。そうすると調査票に書かれている結果に、次の信頼性の問題が出てきます。
4.調査の限界・情報の信頼性
問題行動のチェックに限らず、初対面の調査で一次判定ソフトに入力することで果たして正しい要介護度を決められるのか。特に在宅での短時間の調査では分かるはずはない事を調査している事にもなり、家族や介護者への聞き取り調査の信頼性の限界だと思います。二次判定も審査会で申請者と話したり、その行動を観察するわけでなく、調査の結果だけをみて判定する訳ですのでやはり、今のシステムの要介護度認定制度そのものの限界だともいえます。
この様に、いろいろ今後検討すべき課題はありますが、我々はまず「スタート」してみました。
最終的には、厚生省が要介護認定制度を続けるのなら、もっときちんとした事前調査と現場での納得のゆく「まともな診断ソフト」を早急に作り直すことしかありませんが、コンピューターで、個人の介護の度合いを6ランクに分けること、そのものに無理があり、制度に拘りすぎれば、検証もなく始まった今回の一次判定ソフトと同じにならないとは言えません。
要介護認定制度を続けるならば認定はもっと簡素化すべきですし、介護のランクも軽度・中等度・重度くらいの認定にし限度額もそれに応じて決め直せば、コンピューターを使った認定そのものがいらなくなるとも考えます。
我々の行っている補正もこれで良いとは思っていませんが、「補正基準で介護度が上がり、使いたかった介護サービスが使えるようになって申請書も家族も喜んでくれた」と言うケアマネの報告もあり、暫くこの方針で審査を続けたいと思います。
平成12年11月3日 第1報 改訂
平成12年11月20日 加筆修正
本論文の要旨は第106回周南医学会 平成11月19日 熊毛町において発表しました