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記者会見を行いました

テーマ:山口県の時間外救急と医師の働き方改革について

日 時:令和6年4月25日(木)14:00~14:45
場 所:山口県医師会6階 会議室1

加藤会長挨拶

 県医師会では今年度から、定例記者会見を年4回、春・夏・秋・冬、開催することとした。理由は、医療ドラマなどが放映されているが、実際の医療現場とは違った状況もあり、医療環境も都会と地方では違っており、山口県において医師と県民との間で認識の違いがあると、医療提供がうまくいかない可能性があると考えたからである。そのような観点から、新型コロナウイルス感染症に関しては、2回の臨時記者会見を行い、正しい情報の提供と対応をお願いした。
 また、県医師会の情報として、認知度が最も高いものは花粉情報だと思われるが、他の情報発信はあまり行われていない。例えば、「JMATやまぐち」というのをご存知か。DMATは聞かれたことがあると思われるが、JMAT(Japan Medical Association Team)はあまり知られていないように思われる。日本医師会が災害医療支援のために作った組織がJMATで、JMATやまぐちはその山口県版である。JMATやまぐちは、今回の能登半島地震にも出動しているが、その報告も別の機会を作りたいと思っている。
 県医師会は、県民の皆様と共に山口県の医療をよくしていきたいと思っている。そのために必要な情報を提供し、県民の皆様にもいいアイディアを出して頂きたいと考えている。本日はよろしくお願い申し上げる。

加藤会長概要説明

記者会見の内容は、以下の4点から説明させていただく。1番目は山口県の医師数の現状と将来予想、2番目は医師の働き方改革について、3番目は若手医師への支援、4番目は県民へのお願い、である。

1.医師数の現状と将来予想

 平成10年から令和4年までの医師数の推移は図1のとおり、増減はあるが、全体的には増加し、令和4年まで290人増加している。この増加率は9%であり、全国平均の38.2%よりはるかに少ない状況である。

 また、図2に示されるように、45歳未満の医師数は平成14年以降、一貫して減少し、令和2年には平成10年と比べると、32.7%減少している。医師の平均年齢は全国で最も高い状態が続き、令和2年には53.3歳であった。しかし、令和4年には、45歳未満の医師数が2.5%上昇し、医師の平均年齢の上昇も止まった。
 3年ほど前に、今後の対策を立てるために、2016年を起点として、2006年から2016年までの10年区分の医師数の動きから2026年、2036年の予想医師数を試算した。

 表1で2006年の20代は2016年には30代となり、244人が530人となるので、2.172倍になっている(医師になる年齢が25歳ごろであることによる)。同様に、30代は1.019倍で40代となり749人に、70代は0.476倍で80代以上となってる。

 この傾向が、その後10年続くと、医師数は2026年には3,396人に減少し、さらに、この傾向が10年続けば、2036年には3,237人に減少する(図3)。時間外救急を担っている60歳未満の医師数は、2016年には2,337人だが、2026年には2,004人で333人減である。さらに、2036年には1,790人で547人減となる。日本医師会が医療・介護需要の変化を分析している。2020年を100とすると、2030年の医療需要は97、2035年で92となっており、医師数の減少に比べると、それほど減少しない。したがって、どの医療圏でも時間外救急が大変になるのは明らかである。

 20代の医師が毎年80人残ったとすると、2036年の総医師数は3,753人となり、県が掲げる目標数(3,624人)を上回る(図4)。それでも、60歳未満の医師数は、2026年には2,167人で2016年より170人少なくなっている。
 以上が2016年を起点とした、将来推計である。

2.医師の働き方改革

 2024年から、医師の働き方改革が制度としてスタートするため、大学病院の若手医師が時間外救急に携われなくなる可能性も高く、抜本的な対策が必要である。2016年の調査では、勤務医の4割が月80時間を超えた時間外勤務をしている。

 まず、労働者全般に関して、時間外労働は月45時間、年360時間以内である(医師も含まれる)。例外として、年720時間、複数月80時間、単月で100時間、年間6か月までとなっている。本来は、医師もこの水準でなければならないと個人的には思っている。
 しかし、2016年の調査で、年間1,860時間以上働いている病院勤務医師が1割もいる現状があり、医師に関する労働時間制限は、A水準:年間960時間以内、B水準(地域医療確保暫定特例水準):1,860時間以内、C水準(集中的技能向上水準):1,860時間以内となっている。B水準は地域医療を守るために必要とされた基準で、自施設だけで働いている医師に適応されるのがB水準、大学病院など1つの施設での時間外は960時間以内だが、複数の施設で働くと960時間を超える場合が連携B水準である。特例なので、2036年からはなくなる方向である。C水準にも2つあり、研修のために必要な場合がC1、特殊な技能習得又は維持するのに必要な働き方に関して適応されるのがC2水準である。追加的健康確保措置として、月の上限を超える場合の面接指導と就業上の措置と勤務間インターバル・代償休息が設けられている。

3.県医師会が行政に働きかけている支援対策

 先ほどは、2006年と2016年のデータから、将来の推計を行ったが、現実のデータを調べた。

 図6で、2006年の年齢構成を示す青色の棒グラフは40代にピークがあり、次に高いのが30代、50代である。一方、2022年の年齢構成を示すオレンジ色の棒グラフでは、ピークは60代で765人、次が50代で763人である。明らかに30〜40代の若手医師が不足している状況がわかる。50歳未満の実数では2006年が1,842人で、2022年は1,436人となり、406人も少なくなっている。50歳を超えてくると夜勤明けの仕事が辛くなるので、当直をしている若手医師が大変な状況に置かれていることをわかっていただけると思う。29歳以下ではオレンジ色の方が高くなってきている。これは、若手医師が少し増えている事を示しており、明るい兆候だが、60歳以上が引退していくことを考えれば、若手医師確保にこれからも重点を置いていかなければならない。
 山口県医師会では、このような現状を鑑みて、時間外の救急医療に積極的に携わる医師を評価する制度を、県議会や県行政の方にお願いし、さらに市町の長にも協力をお願いした。その制度が今年の4月からスタートすることとなった。県医師会では、このことをきっかけとして山口県が医師にとって、全国のどこよりも働き甲斐のある県にしようと考えている。そして、県民の皆さまが救急医療を受けやすくなり、救急医療の質が上がる事と、若手の医師が増える事を期待している。救急患者を良く診る医師に、時間外救急患者が入院した場合にインセンティブを付与することによって、若手医師の不公平感が減り、救急患者を診る医師が増えてくれば、救急医療体制が充実し、救急患者の受入困難例が減る。すると県民に恩恵があるばかりでなく、医師の働き方改革を推進することも可能になる。若手医師が多くの救急患者を診るようになれば、経験も豊富となり、県全体の救急医療レベルが向上する。
 山口県が時間外救急に携わる医師にインセンティブを付与することが話題になれば、全国からやる気のある若い医師や中堅医師が集まる可能性も高まると考える。医学生や研修医にもアピールできるので、県内で働くことを本県出身の医師や他県の医師に強く勧められる。医師の働き方改革が進み、働く環境が良くなり、さらに若手医師が増える好循環が生まれる。

4.県民の皆様へのお願い

 本日のテーマは、時間外救急と医師の働き方改革だったが、これまでの説明で、現状と対策をお伝えした。その上で、県民の皆様にお願いがある。
 時間外救急は県内どこの地域でも大変だと思っている。私たち医療者も懸命に時間外救急を支える努力をして参る所存であるので、重篤な患者さんの治療を優先するため、診療時間内の受診をお願いしたい。また、手術や病状の説明なども時間外ではなく、なるべく診療時間内にしていただけると助かる。さまざまなことを相談できる、かかりつけ医を持っていただくことをお勧めする。さらに、救急車を呼ぶべきか迷ったときには子どもの場合は#8000を、大人の場合には#7119の電話相談の活用をお願いする。電話相談の結果、救急搬送されることになれば、医師やスタッフにお疲れ様ですと声をかけていただければ幸いである。医療者にとっては皆様の感謝の言葉や労いが何よりの励みとなる。どうか、よろしくお願い申し上げる。

質疑応答

質問 山口県の若手医師、45歳未満の数が全国平均より下回っている背景、理由は何か。
加藤会長 2000年より前に、地方から都会に若手医師が流れていくという流れがあり、2004年に新医師臨床研修制度が始まったことにより、その流れが加速された。しばらくはそういう状態が続いたが、山口県では県、臨床研修関連病院、県医師会の3者が協働した山口県医師臨床研修推進センターにより、若手医師確保に努めていき、少しずつ人数が回復してきた。

質問 インセンティブ制度の詳しい内容などを教えていただきたい。
加藤会長 インセンティブを出しているのは全国で6都道県しかない。多くは時間外救急をしたら手当を出すものであるが、徳島県では救急の受入件数に応じてインセンティブを付与している。今回、県にお願いしてできた制度も、その受入件数によってインセンティブを付与するような制度である。なお、救急患者を受入れたことに対して全部ではなく、救急搬送され、なおかつ入院を要した患者を受け入れた場合に、インセンティブが付与される。

質問 働き方改革によって、実際に医療現場で何かしら支障が出ているのか。
加藤会長 実際に県内で困った状況にはなっていないが、一挙に若手医師が増えるということはあり得ないので、10年単位のスパンで見ていかないことには解決していかないと思う。

質問 会長のお言葉で、こういう状況なので、皆さんこう考えてほしいというところをお話いただきたい。
加藤会長 県内で若手医師が非常に少なくなっている状況である。時間外救急の主なところは、若手医師に担ってもらっていることがあるので、なるべく若手医師に魅力あるような医療体制を構築していく必要がある。市民の皆さんにも、山口県が若手の医師にとって働きがいのある県になるようにご協力のほど、ぜひよろしくお願いしたい。

質問 今日の会見の一番のメインは、県民の皆様へのお願いになるとは思うが、逆に本当に緊急を要する患者さんの場合、自分で判断することができなくて、診療時間内まで我慢してしまって、命が失われてしまうという心配もあるが、いかがか。
加藤会長 そういうことがあるので、救急車を呼ぶかどうか迷った時には大人の場合は#7119、子どもの場合は#8000を利用し、電話相談の結果、すぐに病院で見てもらった方がいいということであれば、救急車を利用していただきたい。

質問 医師はタフな仕事で、若い時は何日も寝ないで仕事をするというイメージがあるが、今後はどのようになっていくか、教えていただきたい。
加藤会長 私の若い時はそうだったが、本人は徹夜して次の日も仕事ができると思っているが、実際はアルコールを少し飲んだ状態と同じ程度の判断レベルになる。休まないと医療事故等が起こる原因にもなるので、医療安全上からも少し休んだ方がいい。それから、医師にも家庭もあり、小さな子どもがいる人もいるので、ワークライフバランスが取れた仕事が必要だと思っている。また、女性医師も増えているので、女性医師もきちんと働ける職場でない限りは継続性がないと思っている。

質問 若手医師の確保について、今後医師会として対外的に、ワークライフバランスが取れる山口県の医療とアピールするのか、それとも、待遇や教育や研究にも打ち込めるとアピールしていくのか。
加藤会長 私はきちんと働いた医師を評価する制度が必要だと思っている。きちんと評価されれば、働きがいを持って働いてくれると私は考えている。そういう方向で進めていくつもりである。だから、インセンティブを強調している。

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