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記者会見を行いました
テーマ:HPVワクチンキャッチアップ公費接種について
~無料期間残り実質、あと2か月~
日 時:令和6年8月1日(木)14時~14時30分
場 所:山口県医師会6階 会議室
加藤会長挨拶
本年度から定例での記者会見を行っており、今回が2回目となる。2回目のテーマは、ヒトパピローマウイルス(以下、「HPV」)ワクチンのキャッチアップ接種についてである。今回、このテーマにした理由は、キャッチアップ接種をまた終えられていない方が多くおられ、そのことが県民に十分伝わってないのではないかと思ったからである。キャッチアップ接種は、9月末までに1回目の接種を終えなければ、公費助成が今年度末までのため、公費で受けることができなくなる。詳細は縄田常任理事が後ほど説明するが、HPVワクチンのキャッチアップ接種は16歳から27歳の女性が対象になる。本人はもちろん、家族の中で対象者がおられれば、この機会をぜひ逃さないようにしていただきたい。子宮頸がんの原因はHPV感染である。ワクチンを接種すれば、この感染を少なくすることができ、子宮頸がんに罹って子宮を摘出しなければならない方や、進行した状態で見つかり、命を落とされる方を少なくすることができる。世界では子宮頸がんは減っているが、残念ながら日本では年間約10,000人が子宮頸がんに罹り、約2,900人の方が命を落とされている。しかも、この子宮頸がんの好発年齢が20歳から40歳の若い女性である。子宮頸がんはワクチンによって防ぐことができる数少ないがんである。HPVワクチンをなるべく多くの方に接種していただき、子宮頸がんの罹患者や、がんで亡くなる方が少なくなることを願って最初の挨拶とする。
概要説明(縄田常任理事)
今回のテーマは、「HPVワクチンキャッチアップ公費接種について」である。サブタイトルとして「無料期間残り実質、あと2か月」としているが、令和6年度がキャッチアップ接種の公費助成期間3年間の最終年度となるが、このキャッチアップ接種の山口県の現状、HPVワクチンに関する効果や安全性に関する情報、接種の意義等について、説明する。
5月末の報道にあったが、令和6年2月末に行われた厚生労働省のアンケート調査結果で「子宮頸がん予防のHPVワクチンキャッチアップ接種という公費助成制度を接種対象世代の約5割が知らない」という状況について、大変な驚きをもって受け止めたところである。
実際の山口県の現状だが、キャッチアップ接種が開始された令和4年度の山口県の初回接種率は7.2%で全国18位と、全国平均(6.1%)をやや上回っている状況であった。しかしこれは、累積の接種率ではないため、これまでの接種の状況が順調かどうか、このままのペースでよいのかまったく評価できない。
そこで、令和4年度終了時点での山口県のHPVワクチン接種状況を概算した。上図の左側、厚生労働省の「全国の令和4年度接種実績を踏まえた年齢別累積初回接種率」に関する資料をもとに、右側に山口県の状況を示している。2022年度接種者数の推定では、キャッチアップ接種者数は3,016人、定期接種者数は2,417人で、山口県の接種率が全国平均より1%程度高いことを踏まえると、県の報告者数の3,379人、2,640人とほぼ一致しており、生まれ年による接種率も同様と推察される。さらに、累積接種者数を山口県の年齢別人口をもとに試算した場合、右端のようにキャッチアップ世代全体では、2022年度の時点で32.6%と、約3割が接種されている。また、キャッチアップ世代の中でも25~27歳は約8割、17~24歳は2割に届かない状況で、世代間に接種率の大きなギャップがあることがわかる。
つまり、キャッチアップ世代の接種率はまだまだ低調である。キャッチアップ接種の公費接種期間の終了期限は令和7年3月末に迫り、現在、国や県、市町等で啓発活動が強化中である。県医師会からも、チラシをもとに会員が一丸となって情報提供に取り組んでいるところである。標準的なワクチン接種には半年の間に3回の接種が必要なので、9月末までに初回接種を行わないと間に合わないため、無料期間残り実質2か月という状況である。もちろん、期間を過ぎても接種は可能であるが、その場合は最大10万円の自己負担が必要となる。
HPVワクチンを終えていない対象者へのアンケート結果では、「接種したい」が3割弱、「わからない」が5割弱、「接種したくない」が3割弱である。接種したい理由は、「子宮頸がんは危険」が最も多く、「ワクチンは有効だ」「安全だ」「無料だから」の順である。一方、接種したくない理由は、「ワクチンは安全ではない」「情報がない」「友人たちが未接種」「料金がかかるから」の順である。つまり、子宮頸がんが危険、ワクチンの有効性、安全性、接種状況、費用負担の有無などについて、正しい情報を対象者にしっかりと提供することが極めて重要と考えている。
では、対象者はどこからHPVワクチンにかかわる情報を得ているかというと、2年前に行ったHPVワクチンの積極的勧奨再開を踏まえての記者会見でも、出席いただいた多くの記者の皆様に取り上げていただいたが、マスコミからの情報が多い。「医師からの情報」や「厚生労働省のリーフレット」だけでは、多くの方には届いていない。情報を得ていない方も3割おられるので、本日多くの報道関係の皆様にお集まりいただけたことは、大変心強く、ありがたく思っている。
ここから、県民の皆様にぜひとも知っていただきたい正しい情報を5つ、コンパクトにお伝えしたい。
情報①子宮頸がんは危険!
20~40代の働き盛り、妊娠・出産・子育て世代の若い女性に増えており、命にかかわったり、妊娠できなくなるなど、家族にとってもとても怖い病気である。全国がん登録データによると、山口県では2019年には上皮内がんを含めると375人が子宮頸がんにかかり、そのうち、浸潤がん患者は153人である。国立がんセンターがん統計データによると、生涯で76人に1人が子宮頸がんにかかり、295人に1人が死亡するとされている。
情報②HPVワクチンは有効!
従来の2価、4価ワクチンに加えて、9価のHPVワクチンが、令和5年4月より公費で接種ができるようになった。この9価ワクチンは、子宮頸がんの原因の約9割を防ぐもので、極めて効果的なワクチンである。
情報③ワクチンの安全性については特段の懸念はない!
全国疫学調査や大規模アンケート調査など、最新の科学的なエビデンスに基づいて、国が判断している。2013年に積極的勧奨の差し控えの契機となった、疼痛又は運動障害を中心としたいわゆる“多様な症状”については、こうしたエビデンス結果をシンプルに説明すると、「多様な症状は、HPVワクチンに特異的な症状ではないので、HPVワクチンを接種しなくても起こりますよ!」ということである。現在、HPVワクチン接種と多様な症状との因果関係は否定的と考えられているので、「ワクチンは安全ではない」と感じておられる方には、この点を正しくお伝えすることが、不安を払拭するうえでは、重要と思われる。
情報④安心して接種できる診療・相談体制が整っています!
令和4年4月のHPVワクチンの積極的勧奨の再開にあたっては、山口県内でも安心・安全なワクチン接種体制をしっかりと確保できるよう、副反応とその対応を含めて、関係機関が連携を強化している。ワクチン接種について、もし接種前に不安があったり、万一、接種後に体調変化や心配なことがあれば、かかりつけ医に相談していただきたい。
万一、接種後に体調の変化などを訴える方が医療機関を受診した場合は、まずはかかりつけの接種医がしっかりと対応し、必要に応じて協力医療機関である山口大学病院と診療連携をとる。積極的勧奨再開以降2年間で、山口県内で32,000回を超えるHPVワクチンの接種が行われているが、現時点では“多様な症状”を生じた方の報告はない。もちろん、どんなワクチンも重大な副反応は0ではないが、現状を踏まえても接種については安心して受けていただけると思われる。
情報⑤子宮頸がんはみんなで予防すべき病気!
「ありふれたウイルスであるHPVの持続感染をきっかけに、誰でも、若くして、子宮頸がんになる」というリスク認識を共有できれば、それを防ぐために、若い人たちはワクチン接種や子宮頸がん検診の行動を自ずととっていただけると思われる。そのためには、こうしたメッセージを県民の一人一人に伝えていく取組みが大切ではないか。
キャッチアップ公費接種は、HPVワクチンの約9年間に及ぶ積極的勧奨の差し控えの期間に接種機会を逃した方に対して、公平な接種機会を確保するために、国が設けた素晴らしい救済事業である。これによって、令和4年度に山口県では3,379人が無料でワクチンを接種することができ、何もしなければ子宮頸がん罹患44.5人、子宮頸がんで死亡11.5人が、キャッチアップ制度により23人の子宮と6人の女性の命を救うことができたことになる。令和6年度が公費接種の最終年度となる。定期接種対象者である高校1年生の16歳と、17歳から27歳までのキャッチアップ対象者の女性で、昨年度、およそ5,000人が初回接種を受けられていたとしても、約6割にあたる4万人が未接種と推定される。少しでも子宮頸がんを減らすためには、残り実質2か月のうちに、1人でも多くの未接種者に対して、HPVワクチンについての声掛けがとても大切である。
県民の皆様へのお願い
HPVワクチンキャッチアップ接種について、最後に、県民の皆様へのお願いである。
1.国の素晴らしい救済制度であるキャッチアップ接種の機会を逃さないでいただきたい。子宮と命を守る大切なワクチンが、9月を過ぎると最大10万円の自己負担である。
2.対象者にワクチンの正しい情報を知ってもらえれば、自ずと行動はとられると思われる。県民の皆様一人一人に、キャッチアップ接種の趣旨と意義を正しく理解いただくことが、周りの方への接種の輪を広げていくことにもつながると思われる。ぜひとも積極的な声掛けをお願いしたい。
3.子宮頸がんは社会全体で予防すべき病気である。そのために、がん対策にかかわる行政など多くの関係者が熱心に取り組まれているので、ワクチンや検診の重要性を共有して、皆様の行動で子宮頸がんに罹らない山口県を目指していきましょう。
質疑応答
質問 キャッチアップ接種は、接種の積極的な呼びかけが中断された期間に接種できなかった方が対象か。
縄田常任理事 積極的勧奨が差し控えられた期間に対象年齢になった方が対象者である。令和6年度に17歳から27歳になられる方が対象になるので、その方を中心に啓発をお願いできればと思っている。
質問 接種が行き届かないの要因、背景は何があるのか。
河村常任理事 私の診療所に来られる保護者の方へ話を聞くと、過去にHPVワクチンを接種してけいれんを起こしたり、麻痺になったりといった映像がたびたび報道され、それが頭に残っており、それが怖いので接種をされないという方が圧倒的に多い。ただ、先ほど縄田常任理事から説明があったが、接種を受けた方と受けられてない方を比較したが、ワクチンとの因果関係は認められなかったというデータが出ており、ワクチンの安全性が証明されている。
質問 不安を持たれている保護者に、実際どのような説明をされるのか。
河村常任理事 受けられる方の保護者には、副反応は心配ないという話をして、もし万が一、何か症状が起こったとしても、応じる体制ができていることを説明し、接種している。
質問 実質、あと2か月というところを説明していただきたい。
縄田常任理事 初回を接種した後、標準的な接種の仕方として、2か月後、6か月後に接種をするので、全部で3回であり、全体の期間が6か月必要である。もちろん、9月を過ぎて初回を接種し、標準的な間隔で4月や5月にワクチンを接種することはできるが、その場合は自己負担が発生する。
質問 加藤会長にお伺いしたいが、冒頭の挨拶でもあったが、ワクチン接種の大切さ、接種の呼びかけを改めてお願いしたい。
加藤会長 子宮頸がんはHPVの感染によっておこる。感染はワクチンによって防ぐことができる。ワクチンによって感染を防げば、子宮頸がん罹るリスクは大幅に減る。ワクチン接種は公費助成があるので、県民の皆様にワクチンを接種していただきたい。オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、アメリカなどではHPVワクチンは男性も接種しているので、日本は世界に比べて遅れている。HPVは咽頭がんや肛門がんなどの原因にもなるので、より多くの方にワクチンを接種していただきたい。できれば、男性の公費助成が得られるとさらに感染者が減るので、効果が上がると思っている。
質問 この接種の呼びかけは行政の仕事なのか、医師会がやるべきことなのか。また、先ほど、男性の話もあったが、補助を出している自治体もあると聞いているが、県内の自治体へ助成を呼びかけるというメッセージと捉えてよいのか。
加藤会長 ワクチン接種は行政も働きかけをする必要があると思う。医療に関しては、県医師会は山口県の医療全体の責任があると思っているので、協同していくことは当然だと思っている。それから、財政的に余裕があれば、男性にもワクチン接種を呼びかけるのが当然だと思っている。
質問 HPV感染を予防するワクチンが、2価、4価、それから9価と3種類あり、この9価のワクチンが子宮頸がんを予防する効果が高いという認識でよいか。
縄田常任理事 そのとおりである。2価と4価が子宮頸がんの約5~7割程度、9価ワクチンが9割を防ぐといわれている。昨年の4月から、9価ワクチンが国内でも使えるようになっており、海外では9価ワクチンが主流になっている。
質問 3回接種しないと本来の効果が期待できないのか。
縄田常任理事 9価ワクチンに関しては15歳になるまでに1回目を接種すると、6か月後の2回目の接種で完了となることはあるが、それ以外では基本的に3回接種が必要になる。ただ、限られたデータではあるが、1回や2回の接種者もある程度の子宮頸がんを防げる効果はあると言われている。