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記者会見を行いました

テーマ「COPDについて」


 日 時 令和7年5月15日(木)14:00~15:10
 場 所 山口県医師会6階 会議室1

加藤会長挨拶

 本日はお集まりいただき感謝申し上げる。昨年度より定例で記者会見を開催しているが、今回は皆さんにとって聞き慣れないかもしれないCOPDについてである。COPDとは、Chronic Obstructive Pulmonary Diseaseの略である。日本語では慢性閉塞性肺疾患と言われ、気管支が障害を受けて慢性的に狭くなってくる肺の病気で、従来は肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていた。気管支が閉塞してくる疾患なので、息が吐きにくくなったり、肺胞が壊れて酸素の取り込みが悪くなったりする。原因の多くは喫煙である。5月31日は世界禁煙デーで、この日から6月6日までが禁煙週間となっている。県医師会でもイエローグリーンキャンペーンとして、山口県総合保健会館をイエローグリーンで照らしたり、館内にタバコの害による健康への影響を展示しているので、多くの方にご覧いただきたい。
 COPDは全国で530万人が罹患していると推計されているが、COPDの死亡率は全国では10万人あたり13.7人で、山口県では18.8人であり全国ワースト2位となっている。このような状況を鑑みて、県医師会では県行政と協力してCOPD対策のワーキンググループを昨年度に結成し、県民や医療関係者への普及啓発活動を始めた。本年度はさらに充実した取組みを行っていく予定としている。
 本日の会見をきっかけにCOPDへの正しい理解と禁煙の重要性を知っていただきたい。また、COPD罹患者の多くがきちんと診断されず、治療を受けていないことも分かっている。坂道を少し歩いたときに息切れなどが出る方は、年を取ったからと諦めずに医療機関を受診して呼吸器検査を受けていただきたい。

概要説明 COPDについて(國近理事)

 都道府県別に見た2022年の人口10万人あたりのCOPDの死亡率は、全国平均は13.7人だが、山口県は18.8人で全国でワースト2位である。この18.8を2032年までに10.0に減少させることが健康日本21の目標である。
 2015年に山口県医師会は健康教育テキスト「COPD(慢性閉塞性肺疾患)をご存知ですか」を作成した。各医療機関に配付し、患者さんへの説明時などに使えるような分かりやすい冊子になっている。10年前に作成しているが、COPDがなかなか普及していないという現実がある。COPDの普及率については後ほどお話しするが、30%程度であり、認知率をさらに上げていき、患者さんが少しでも早期発見、早期治療に介入できるようにと考えている。
 COPDの疑似体験について説明する。45秒間全力で足踏みを行い、片手でストローを口にくわえ、もう片方の手で鼻をつまみ、ストローだけで1分間呼吸をすると、COPDの疑似体験ができる。呼吸をするのが苦しいと思われるが、階段や坂道を登るとさらに息切れが増強する。
 COPDの原因は90%がタバコの煙である。タバコは、本人だけではなく、受動喫煙によって周りの方にも影響を与える。
 5月31日は世界禁煙デーで、5月31日から6月6日は禁煙週間である。今年の禁煙週間のテーマは「受動喫煙のない社会を目指して~私たちができることをみんなで考えよう~」である。また、「受動喫煙のない社会を!」として厚生労働省が「けむいもん」というキャラクターを作っている。この禁煙週間には、イエローグリーンキャンペーンを行い、県内でもさまざまな建物をイエローグリーンでライトアップしている。本会館もライトアップ場所の一つであり、この時期にはぜひ取材していただきたい。
 COPDは日本語で言うと「慢性閉塞性肺疾患」である。Chronic Obstructive Pulmonary Diseaseの略語で、以前は肺気腫や慢性気管支炎と表現されていた。長年にわたってタバコの煙などの有害物質を吸い込むことによって、肺胞の壁が破壊され、酸素の取り入れ・二酸化炭素の排出が障害される病気である。気管支の壁に炎症が起こり、空気の通り道が狭くなる。慢性に進行し、空気の出し入れがうまくいかなくなるため、動いた時の息切れや咳・痰の症状が起こる。
 肺の解剖と働きを少し説明させていただく。肺は左右ひとつずつ存在する。口から喉、気管、気管支に進み、20回程度枝分かれすると肺胞に到達する。肺胞はぶどうの房のような形をしており、その周りを血管が網の目のように覆っている。ここに酸素が入ってくる。息を吸った時に肺に入ってきた酸素(O2)は肺胞で血液に受け渡され、血流にのって全身の細胞に運ばれる。全身の細胞からは、二酸化炭素(CO2)が血流にのって肺胞まで戻ってくる。血液から肺胞に二酸化炭素が受け渡され、息を吐くときに排出される。肺胞は酸素と二酸化炭素を交換する場所である。
 COPD患者の胸部単純X線写真(レントゲン写真)では、肺が膨らみすぎて空気が多く入るため過膨張となり、黒っぽく写る(透過性亢進)。また、横隔膜が押し下げられ(横隔膜平低化)、心臓が細長く変形する(滴状心)。胸部CT写真では、肺胞が壊れた部分は、まわりの健康な肺の部分と比べて黒っぽくなる。患者さんにはタバコの煙で壊れた、もしくは溶けたと説明している。黒い部分は肺の役目がなくなっていて、壊れたところは修復しない。ただ、治療を行い残った肺を大切にすることで、今までと変わらない生活ができると説明している。
 日本におけるCOPD死亡者数は、2023年のデータでは16,941人である。喘息での死亡者数は年々減少しており、2023年は1,089名であるので、16倍の差が出てきている。なお、COPDの死亡者数はここ数年増加傾向にあるが、これはタバコを吸った影響はすぐに出るわけではなく、20年後30年後に出てくるため、COPD患者数の増加とともにCOPD死亡率も増加している。
 COPDの推定患者数は530万人と言われ、そのうち治療を受けている総患者数は36.2万人(6.8%)と言われている。残りはCOPDと診断されずにそのまま亡くなってしまったり、治療が遅れることで重症化するなど、さまざまなデメリットがある。潜在患者は医療機関を受診していないないわけではない。例えば循環器内科、糖尿病内科、整形外科を受診している患者さんもいる。いろいろな医療機関に受診しているが、COPDと疑われない、もしくは診断されないで過ごしているケースが多いことが問題になっている。そこで、早期発見、早期診断、早期治療介入が重要になってくる。この問題は山口県だけではなく、世界的にも、そして日本全体としても問題になっている。日本では日本呼吸器学会が中心となって、2024年4月から開始されている健康日本21(第三次)の「木洩れ陽COMORE-By2032」プロジェクトとしてCOPDの早期発見、早期治療介入、重症化予防の活動をしている。健康日本21(第二次)(2013年施行)において、COPDはがん、循環器疾患、糖尿病と並び対策を必要とする主要な生活習慣病と位置付けられた。健康日本21(第三次)の基本方針が2023年5月31日に公表され、COPD対策としては引き続き認知度の向上を行うことに加え、COPDの発症予防、早期発見・治療介入、重症化予防など総合的に対策を講じていくことが必要と示され、日本でのCOPD死亡率を減少させるという新たな目標が掲げられた。健康日本21(第二次)では、COPDの認知度は25%で、目標は80%に設定された。メタボリックシンドロームの認知率は80%であるので、同じ程度の目標を掲げたが、30%程度の認知率に留まっている。もう一つの目標が喫煙率の低下で、そちらもなかなか到達できていないという現状がある。COPDの認知度は、2009年では17.1%で2024年では32.7%である。喫煙率は2003年は総数が27.7%、男性が46.8%、女性が11.3%で、2023年は総数が15.7%、男性が25.6%、女性が6.9%となっている。
 COPDの診断基準は、長期の喫煙歴などの曝露因子があること、気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーでFEV1/FVCが70%未満であること、他の気流閉塞を来しうる疾患を除外すること、となっている。COPDを疑うポイントは、40歳以上であること、喫煙歴がある(タバコを吸っている又はタバコを吸っていたことがある)こと、慢性的な咳・痰があること、動くとき息切れがすること、喘鳴があること、心血管系疾患、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などの治療中、である。また、COPD質問票(COPD-PS)という簡単な質問票があり、この質問票で合計点が4点以上の場合はCOPDを疑う。COPD質問票(COPD-PS)は山口県が作成したCOPD啓発リーフレットに記載されている。
 COPDと診断された後は、管理目標を達成するために治療を開始する。管理目標は大きく2つあり、1つ目は現状の改善である。①症状及びQOLの改善と②運動耐容能と身体活動性の向上及び維持を行う。2つ目は将来のリスクの低減で、①増悪の予防と②疾患進行の抑制及び健康寿命の延長を図る。安定期のCOPD管理は薬物療法と非薬物療法の大きく2つに分かれており、両輪で治療を行うことが大切である。気管支拡張薬、吸入ステロイド、喀痰調整薬、抗菌薬などの薬物療法を行い、禁煙、呼吸リハビリテーション、栄養療法、ワクチン接種、感染予防、酸素療法、換気補助療法、全身併存症の管理などの非薬物療法を並行して行う。非薬物療法として、禁煙はタバコの煙を回避する最も有効な治療で、肺の破壊をくい止める唯一の治療になる。禁煙の効果は早ければ早いほど有効である。
 加熱式タバコ、電子タバコ、紙巻タバコの相違点について説明する。加熱式タバコは紙巻きタバコと同様にニコチンが含まれていることが非常に重要な点である。電子タバコは名前に「タバコ」とついているが、日本の製品にはニコチンは入っていない。加熱式タバコから出る有害物質の量は紙巻きタバコと比べて少ないものと多いものがある。有害物質の種類は同様に多い。加熱式タバコはグリセリンなどの化学物質を大量に肺の奥まで吸い込むことで、5年後、10年後、20年後の害が未知数であることが非常に問題である。なお、紙巻タバコは500~900℃で燃焼されるが、加熱式タバコは低いものは30℃、高いものでも350℃で燃焼させるため、出てくる有害物質が異なる。
 「オール山口で取り組むCOPD対策」として、行政・医療機関・民間企業が連携して活動している。COPDハイリスク者(喫煙歴がある40歳以上の成人)に対して早期受診勧奨を行い、特定健診・後期高齢者健診を実施しているクリニック・病院・健診センター等の「やまぐちCOPDスクリーニングチーム」による啓発用資材(COPD-PSを含む)を活用した選別・やまぐちCOPDフォローチームへの受診勧奨を行い、COPDの早期診断・禁煙指導・治療介入を行うことである。COPDの診断・治療が可能な医療機関と服薬指導・治療継続が可能なかかりつけ医が連携し、禁煙・吸入指導、定期治療の継続や増悪時の入院対応などを行う。昨年の11月に医療従事者を対象に「オール山口で取り組むCOPD対策研修会」を開催しており、行政、医師、薬剤師、管理栄養士、看護師、理学療法士に講演いただいた。今年度は、①COPDスクリーニングチーム及びフォローチーム養成研修会開催(県医師会)、②COPDの認知度の向上を図るための県民公開講座の開催(山口県)、③医療従事者対象の研修会の開催(山口県)を行う予定にしている。
 11月の第3水曜日は「世界COPDデー」である。世界中でも日本でも、COPDの認知度を高めるためのイベントが開催されている。
 最後にCOPDについて要約する。COPDは慢性の進行性疾患である。症状が軽いうちに早期発見し早期に治療を開始することが大切である。治療の第一歩は禁煙である。2024年4月からの健康日本21(第三次)にも引き続き取り上げられ、COPDの死亡率低下が目標になった。既に治療中の疾患の中に潜在している可能性があるので、医療従事者の連携で早期発見、早期治療、増悪予防につなげていきたい。現在COPD死亡率全国第2位の山口県の状況を改善すべく、オール山口で取り組み、COPDの発症予防、早期発見・治療介入、重症化予防を進めていく。

概要説明 検診・健診について(藤井理事)

 この時期は、各市町が検診を開始する時期になるが、山口県の検診受診率は非常に低いという現状を知っていただき、県民の皆さんに検診・健診受診の意識を持っていただきたい。
 山口県民の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.43歳である。健康寿命は男性が72.01歳、女性が76.43歳となっている。2022年のデータでは、健康寿命と平均寿命の間、つまり日常生活に介護が必要だったり、なんらかの制限がある期間は、男性では8.97年、女性では10.54年である。健康の理由で日常生活に制限をきたす期間を短くすることは、介護を受けずにイキイキと元気に過ごせる時間を延ばすことにつながる。この健康寿命の延長をするには、①死亡率の減少、②日常生活に制限を受けない期間の延長が必要である。
 山口県民の主な死因の1位は「がんなどの悪性新生物」で23%と約4人に1人である。2位が「心疾患(高血圧症を除く)」で17%、3位は「老衰」で11%、4位は「脳血管疾患」で7%、5位は「肺炎」で6%である。1位のがんなどはがん検診を受診することで早期発見ができ、心疾患に関しては、特定健診などで早めにそのリスクを見つけることによって、ある程度予防ができる。健康寿命を延伸するためには、①健康によい生活習慣と、②定期健康診断・がん検診が重要である。山口県民のがん検診の受診率をみると、非常に低い。特に女性が低く、子宮がん、乳がんは全国最下位で、胃がん、大腸がんは下から二番目、肺がんも43位となっている。男性も決して高くはない。特定健診の受診率は31.6%で全国40位である。1年でも長く介護を受けずにイキイキと笑顔で過ごすためには、検診・健診を受ける習慣が大切である。定期検診・健診でまず自身と向き合い、自分自身がどういう状態であるかを把握して、それをさらに改善しながら、イキイキ元気で笑顔あふれる山口県であるよう取り組んでいただきたい。山口県と山口県医師会、山口県歯科医師会、山口県薬剤師会が合同で「健診・検診に行こう!」というパンフレットを作っている。この中に健診・検診の予約・受診方法に関する各市町の問合せ先が記載されているので、ご活用いただきたい。
 これまでも医師会と県行政とでいろいろな工夫をして、受診率向上に向けた呼びかけや、さまざまな事業を推進しているが、受診率は依然として低いため、今年度は新規事業として郡市医師会にも呼びかけて、がん検診受診率向上推進委員会を設置し、県民の皆さんに受診勧奨を行うとともに、県民の皆さんの健康増進のためにできることを模索していきたいと思っている。県民の皆さんの受診意識を高めていただくよう周知をお願いしたい。

質疑応答

質問 山口県でのCOPD死亡率が高い理由は何か。また、改善していくために一番何が必要なのか。
國近理事 さまざまな理由が考えられるが、1つは高齢化が進んでいる点である。山口県は高齢者比率の高い県の1つであるので、高齢者に多い疾患であるCOPDが他県と比べて多い。また、当院へもCOPDの患者さんが肺炎などで救急搬送されてくることが多くあるが、COPDと診断されていなかったり、治療介入されていなかったりということがあるので、急性増悪して運ばれてきてそのまま残念な結果になることもある。このようなCOPDに対する診断率の低さも原因の1つと考えられる。もう一つは、山口県は呼吸器内科医の少ない県であるため、診断率の低下につながり、治療介入の機会が少なくなり、重症化するまでCOPDと診断されていないということになっているのではないかと思われる。
 改善するために必要なことについては、診断率を上げていく必要がある。診断率を上げていき、治療介入に結びつけると重症化を予防することができ、死亡率も下がると考えている。そのためにオール山口で取り組む対策として、県医師会でワーキンググループをつくり、県行政とともに早期診断をしていくために、先ほど藤井理事から検診・健診の話があったが、受診勧奨していくところから始めていかなければならない。

質問 診断率が低いということは、診断が難しい病気ということか。

國近理事 これは全国的に言えることだが、COPDの潜在患者は医療機関を受診していないわけではなく、さまざまな疾患で医療機関を受診されているが、診断に結びついていない。ここは、県医師会と行政が一丸となって、クリニックの先生方にも診ていただけるように啓蒙活動、スクリーニングチームやフォローチームの養成、研修会などを開催してCOPDを診ることができる医師を増やしていきたいと考えている。

質問 検診の関係だが、COPDの診断を受けるためにはどの検診を受けるべきか。どういった検診を受けて、どういった項目を調べてもらうべきなのか。

藤井理事 肺機能検査(スパイロメトリー)がそれにあたる。これはオプションでの項目になるが、安価な検査である。すべての施設でそれができるとは限らない。ただ、人間ドッグなどを行っている施設であれば、人間ドッグでは必須項目である。
國近理事 検診で異常が見つかるというよりは、少しでも自覚症状が軽いときに本人や周囲の方がCOPDを疑って受診するほうが治療のモチベーションも上がると思われる。検診発見であると本人の自覚症状がないので難しい場合もある。COPD集団スクリーニング質問票(COPD-PS)の利用や息切れ、風邪でもないのに咳や痰がある方がおられたら、医療機関に受診していただき、肺機能検査(スパイロメトリー)をしていただくのが良いと思う。

質問 5月31日が世界禁煙デーで、本日の会見も禁煙とか早期治療を呼びかけられる趣旨だと思うが、他に5月31日に合わせてされていることはあるか。

國近理事 本会館の1階に山口県健康づくりセンターが中心となって、禁煙やCOPDについてポスターや資料などを掲示・配布するということを毎年行っている。また、県行政と合同でタバコ対策などの講演会も毎年行っている。5月だからということではなく、年間を通じて禁煙や小学生・中学生に対して受動喫煙防止も含めた防煙について学校で講演している。県医師会の禁煙推進委員会では、職場や教育現場で使っていただくことが可能なスライドを山口県医師会のホームページで公開している。

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